第23話 諦めた予知~起こるものとして、日々を生きる
笑い話のように感じるかもしれませんが、地震予知を行う研究機関では以前ナマズを飼っておりました(お魚のナマズ、ですよ)。歴史書に見られる、大地震の際にナマズが暴れたという記述や口伝を元にしていたのです。
大地震の予兆として、動物が異常行動を起こすというのはよく知られています。しかし、何をもって「異常」とするのか。異常を定義するためには「平常」を定義しなければなりません。ナマズの平常というのは非常に定義が難しく、最終的に現在では有意な差異は確認できなかったということが結論付けられ、ナマズを用いた予知は行われておりません。もしかしたら、細々と何処かで続けられているのかもしれませんけど。
現在では、気象庁や各研究機関とも予知というものを諦め、いずれ起こるものとして「予測」して「備える」という方向に舵を切っております。
そんな中、今後予想される「南海トラフ巨大地震」は不可能と言われている地震予知にあって、虎の子とも言える唯一の確実な情報なのです。学説によって期間の設定に開きはありますが、近い将来的に起こる可能性100%です。これは確実に起こるのです。
現在、関係機関において様々な対策が取り組まれていますが、それでも最終的に身を守るのは一人ひとりの心がけであるのはいうまでもありません。
あまりのことに思考停止に陥ってしまうというのはわからなくもないのですが、なにも本腰を入れて備えることばかりが有効とは限りません。
0次避難の項でも述べましたが、最終的に命が守られたならそれが正解なのです。
前項までに述べたあらゆる備えも、出先で災害に遭遇してしまったら水泡に帰すということでもあるのです。しかし、無駄と考えてはいけません。備えないよりは備えた方が良い、これは事実です。
そして、物を使った備えだけではなく普段の心がけを変化させていくというのも、実はとても重要なことなのです。
私は、仕事で出張する場合には必ずその仕事場と宿泊地がどのような周辺地形なのかを確認しておきます。(海岸から近いのか、大きな河川があるのか、盆地で孤立する可能性がある場所なのか、脱出ルートは複数確保されているか、など)
そして、実際の出先でもまず第一に、自分が今いる場所の標高と地形を確認します。そして、宿泊施設に入ったなら荷物をおいて、まず最初に避難経路を確認します。ホテルによってはエレベーター以外に有効な経路が少ない場合もあります。必ず非常階段の位置と経路、ドアの開閉にどのくらい手間がかかるか等を確認しておきます。
仕事場に着いたなら、周囲が車を使える環境かどうか、津波浸水が想定されるなら最短で避難できる経路はどこか、逃げられない場合は逃げ込む頑丈な建物の位置を確認しておきます。
普段通っている高速道路などでも、今ここで大地震に遭遇した場合、どこに停めてどこに逃げれば良いのかを常に考えて行動しています。
何も、災害は大地震ばかりではありません。
車を運転していれば事故に巻き込まれる可能性のほうが遥かに高いのです。そうなったときに、どう行動するかを考えておくというのは決して過剰な取りこし苦労ではありません。火災や台風に巻き込まれることだってあるのです。
普段頼りにしている人が、非常時に全く役に立たないということは割合多く有り得ることです。むしろ逆に、そういう人のほうが「楽観バイアス」やられやすいのです。それが「非常時」というものなのですから。
逆に、普段存在感のない人が意外なほど災害に対する備えをしているということも同時に有り得ることです。固定概念は、ときに命を脅かすこともあります。
日常でも、突発的な事態というものを敢えて取り込み、それに対して各々がどう行動するのか。避難訓練や防災訓練があったなら積極的に参加し、身を持って体感しておくことが重要と言えます。
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