あの日、妖刀を手にしたことを僕は後悔する

神無月 瑠奈

第1話

「もう少しで着くから寝るなよ~大樹!」


「わかってるよ父さん。父さんこそ滅多に車が通らないからってスピード出し過ぎないでよ?」


外の風景は一面緑。道路には30分で1台すれ違うかどうか....

そんな場所へ叉江守さえもり 大樹たいじゅは向かっている


「大丈夫だよ、僕は安全運転しかしない。母さんを交通事故で失ってからは特にね」


「......」


そう大樹の母親こと陽子(ようこ)は大樹が5歳の頃、スピード違反した車にはねられこの世を去ってしまったのだ


「っさ!湿っぽい話は止めよう。これから行くお義父さんの家では特に」


「わかってる、僕はいつも通り書庫にいるから。存分に話してきなよ」


「君はねぇ~....毎年思うんだけど君もお義父さんの孫として少しは会話したらどうなのかな?」


「嫌だよ、爺さんからはいや~な感じがするんだ。あの人とは極力近づきたくない」


お察しの通り大樹は昔から....厳密には母親の死をきっかけに霊的な存在を見ることはできないが肌で感じることができるようになったのだ。そして、その所為か祖父の家から....特に祖父は嫌な気配を濃く感じてしまう。大樹は子供ながらに祖父は危険だと感じ、それ以来祖父を避けるようになった。


「それ、間違ってもお義父さんに言うんじゃないぞ?」


「そもそも喋らないんだからそんな心配もないでしょう」


「それもそうだな」


その後は、学校や日頃の他愛もない話をしながら道中の時間を潰していたら、30分後には祖父の家に着いた




・・・・・・

「さぁ、着いたぞ荷物出すの手伝ってくれ」


父こと大輝(たいき)は銀行に勤めており身長は180cmを超える高身長ではあるが、運動が大の苦手で体は叩けば折れると思えるほどヒョロっとしている。そんな父は一生懸命大きな段ボールを抱え運ぼうとしている。


「無理、僕は帰宅部で極力運動はしたくないんだって」


「あのね、中学までバリバリ野球やってたじゃないか。それに最近もたまに筋トレしてるじゃないか」


そう僕は小・中と野球をしており、特に中学で入部した野球部はいわゆる強豪と呼ばれるほど強くその分だけ練習もキツかった。その反動か高校では部活には所属せず、放課後は家で自由に過ごしていた。しかし、長期間体を動かさないと体が気持ち悪いので定期的に運動をしているのだ。


「中学時代の反動でたまに運動しないと気持ち悪いんだよ」


「だったら、ちょっとくらい手伝てくれ」


「はいはい、わかりましたよ」


後部座席に積んだダンボールの山を運ぶため渋々重い腰を上げた


「おぉ~、遠い所からよう来たな」


「......」


ダンボールを持ち上げようとする大樹の背後から年齢に似合わない服装をした老人が近づいてくる。そう何を隠そうこの老人こそ先ほどの話に出てきた祖父こと菅原 天日(すがはら てんじつ)という。相変わらず嫌な雰囲気を纏っている


「あっ、お義父さんお久しぶりです。一年ぶりですね。その後体調の方はお変わりないようで何よりです」


「お主はいつもお堅いなもう少し『ふらんく』に話さんかい」


「あはは....すいません。性分なものでして」


この会話は年に一度、ここに来るたびにしている。


「まったく、お主もよう来たな、大樹よ」


「うっす....」


「お主も変わらないな。今年も1週間しかおらんのだろ?」


「はい、1週間よろしくお願いします。お義父さん」


僕らはこの不気味な家に1週間も泊まらなければならない。これは僕が産まれた時からの恒例行事となっている。父の頼みもあり僕もいやいやながらもここへ泊りに来ているのだ。


「その間、お主には付き合ってもらうぞ」


「はいぃ...」


そしてその間、父は爺さんの酒盛りに永遠と付き合わされるのだ。父はこれまでのことを思い出し遠い目になりながら力ない返事をしていた。

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