第59話 光のプリンセス

「亘さん。もう解決しました」

「嘘だ」

「嘘ではありません」

 スマホの音が聞こえてくる。僕のじゃない。

 亘さんのスマホだ。

 きっとシュリさんの謝罪文だろう。

「本当に無事なんだな。良かった」

「うん。一度、外に出ようか? 光を浴びないと」

「吸血鬼に光って……」

 苦笑気味に声が響く。

 ドンドンと大きな音が二回して、扉が開く。

 ジャージ姿の亘さんが現れて、僕は少し涙ぐむ。

「おかえりなさい。亘さん」

「ああ。迷惑かけた。すまない」

「いいんです。今まで通り、みんなで生きていきましょう」

「そうだな」

「そうだ。散歩でもしませんか?」

「……分かった」

 その前に着替えたいとのことで、少しして亘さんが後ろからやってくる。

 気合いの入った衣服に目を奪われる。

「格好いいです」

「ありがとう。なんだか照れ臭いな」

「いいじゃないですか」

 トボトボと歩き出すと、川辺に向かう。

 ドンッと大きな音が鳴り、僕は腹部に痛みを覚える。

 手で腹部を触ると、べとりとした粘性の高い液体に触れる。

 血。

「敵襲――っ!?」

 亘さんは僕の前に出て、砲撃のあった方角に向き直る。

 ドン。

 二発目。

「防御結界・アマリリス!!」

 亘さんがそう叫ぶと、無色透明なガラスのような防御壁が現出する。

 そして銃弾を弾き返す。

「どうことだよ!! くそっ!!」

 亘さんは悔しそうに顔を歪める。

 血を流しすぎたのか、視界がぼやけていく。

 僕はそのまま、意識を手放した。


☆★☆


 僕が目を覚ますと、シュリさん、英美里、そして亘さんの顔が視界に入る。

「邦彦!!」

「邦彦くん!!」

「みんな、どうして?」

「シュリちゃんが最後の一人を仕留めてくれたの」

「ああ。気を失ったあと、慌てて救急車を呼んだ」

 亘さんの血色が悪い。

「ごめんなさい。私のせいで」

 シュリさんは悲しげに目を伏せる。

「そうだね。悪いね」

 ぐっと唇を噛むシュリさん。

「だから、これからも友達でいてくれないと」

「え?」

「今後、僕と亘さんを裏切ったら容赦しないから。ね? 亘さん」

「……お前がそれでいいなら、まあ、しかたないか……」

 こちらも苦笑を浮かべている。

「そうだ。邦彦くん。お陰様でネットの書き込みにバツが下るよ」

「良かったね。英美里」

「うん。ありがとう。やっぱり、光のプリンセスだ」

「そんなの呼ばないでよ」

「さ。そろそろ帰るよ」

 英美里がそう言いシュリさんを連れていく。

 残されたのは亘さんと僕のみ。

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