第51話 動画撮影。
「夏休みというのに、元気ないなー」
「さっさと動画とって終わりにしましょう」
英美里とシュリさんが変わらず、接してくれるのはありがたいけど。
「ねぇ。無理して会う必要、ないんじゃない?」
僕は喉に引っかかりを覚えつつも提案してみる。
ちらりと亘さんを
「ええ。でも、お金欲しいでしょう?」
「ふふ。せっかくの稼ぎ頭を失いたくないよね?」
シュリさんと英美里の二人が結託するとこんなにも強いんだな、って改めて思った。
「まったく、どうしてそんなに稼ぎたいんだ」
ふーっと息を吐き、ゲームに戻る僕。
「亘さん?」
「え。ああ。なんでもない。やるぞ」
上の空であんまり話してくれないなー。
告白してからというもの、ぼーっとしていることが多い亘さん。
一応、定食屋にも顔を出した、その時もそうだった。
つつがなく配信用の動画を撮り始めた。
が、台本を手にしたとき。
「いたっ」
「どうした?」
「紙で指切った」
「見せてみろ」
「待って! 亘」
とくとくと僕の指から血を飲む亘さん。
「ええと?」
「す、すまん!」
勢いよく離れる亘さん。
「吸血鬼……?」
英美里がそんな言葉を漏らす。
「え。ああ。ちゃんと言ってなかったな。俺は吸血鬼だ」
「えっ!」
「大丈夫だ。血を吸ったからといって何かあるわけじゃない」
「亘……」
「いいんだ。言うな、シュリ」
ぐっと言葉を呑み込むシュリさん。
何かを言いかけていたのに。
「ただ、たまに血を欲するんだ。のろいだよ」
「いいよ。亘さんなら別に……」
「ありがとう」
「はいはい。カットカット。ここ使えないからね?」
「英美里?」
「だってそうでしょう? 世間一般に吸血鬼がいるってバレたら大騒ぎよ」
英美里の理屈は正しい。
でも、隠して生活しなくちゃいけないほど、日陰者なのだろうか?
その疑問が浮かんで僕はちょっと悲しくなった。
「さっ。ゲーム配信の続き、行くわよ」
「分かった」
僕は絆創膏を巻いた指を見てから、再びゲームに興じる。
僕の血を吸って、おいしいんだろうか?
今度からはサラダも食べよう。
「身体にいいものってなんだろう?」
「そりゃ、ミネラル豊富な海藻だよ」
英美里は屈託のない笑みでそう答える。
「そっか。そうだね」
「おっと。かわせ、旅人」
「あ、はい!」
ゲームをしながら、僕は考える。
彼のことを。
好きだから。
大好きだから。
愛を知ったから。
だから、
だから傷つけたのか?
シュリさんを、英美里を?
それは本当に正しかったのだろうか?
僕には答えは分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます