不遇職:農民だけど悪役ロールプレイしたいので生産しつつ最恐になるため頑張ります!

ボンジュール田中

第1話 初ダイブとキャラクリエイト①

「ついに……ついにこの時がキターー!!!」


 整理整頓され、それでも清潔感を感じさせない部屋のベットの上に謎のカプセルが置かれている。これは没入型ゲームのアクセス機である。名を箱舟。

 それを前にして前髪を鼻上まで下した髪が長い男、そしてなぜか全裸である俺こと御山みやま正樹まさき(34)(独身はステータス)は最新型スマホを持った片手を突き上げて、大声を出した。


 さぁさぁ、テンションをぶち上げて参りましょう。

 本日はあのInfinityインフィニティ Possibilityポシビリティ On-lineオンライン 略して『IPO』の配信時間十分前!この時をどれだけ待ち望んだことか!


 PVを見た時に買うのを決意して、約7800万人中、10万人の狭き門の抽選を当てて購入してから約半年。公開β板を覗いたり、PVを十周以上したり、世界設定を読み込んだりしてやっと遊べるこの時が来たのだ。

 そりゃもう年甲斐もなく興奮するよね。


 昨日のうちにカプセルに備え付けれる、公式の液体型食料を二ヶ月分程買い込み、セットしておいた。

 排泄物の自動処理装置の動作も確認済みである。

 これで俺は現実世界で二ヶ月分、IPOの中で一年と四ヶ月分、廃人プレイができるぞ。はっはっは!


 加えて、これまで文字通り死ぬほどお世話になった会社にはしっかり退職届を叩きつけてきたので、出勤する必要もなし!

 人付き合いも「俺、旅に出るから探さないでください」とメールを入れておいたので問題ナシ!

 

 え? そんなことして生活は大丈夫なのか、って?


 ふふふ、問題なしだぜ!

 なぜならゲームの通貨は現実のお金に換える事ができるからである。

 因みにそのまた逆も然りで、現実のお金をゲーム内の通貨に換えることもできるのだ!


 それはキャラクリエイトの段階で可能らしく、俺は取り敢えず10万は突っ込む気である。


 そしてそれを元手にゲーム内で楽しく稼ぐつもりでもある。

 まあ、そんなにうまくはいかないだろうが。


 よし、早速カプセルに入って起動しておこう。




 3……2……1……GO!!!


 カプセルに入った後、諸々の設定を行ってIPOのカウントダウン画面を開き、思いに耽っているとカウントダウン画面が強調表示された。

 そして最後の三秒、画面に合わせて心の中で数えると静かに意識が落ちていった。




「ん……ここは?」


 黒い空間に色が付いた光の粉が散りばめられたような空間に俺は立っていた。

 まるで宇宙空間。

 恐らくここは事前の予習通りであるならば、VRMMOのキャラクリエイト空間なのだろう。


 だったらこの手足はVR上の仮想の肉体なのか。


 俺はそう思いながら、手を握ったり開いたりを繰り返しつつ足首を回す。

 感覚は現実とそんなに変わらない。ただ、爪を食い込ませて握る時だけ痛みの感じ方が若干鈍いのだ。

 痛いのは嫌なので、これくらいが丁度いいなと俺は頷く。


「ようこそいらっしゃいました、外の世界からの旅人よー!」


 不意に背後から声を掛けられ、肩を弾ませながら振り向く。

 そこには俺より2、30センチほど小さな子供が立っていた。つまり140くらいの身長だろう。

 

 美少女。いや、美少年か?どちらともとれる中性的な顔立ちだ。

 なんとも形容し難い、しかし神聖的な衣服を着ている。


 これはあれか? この子は管理AI――神様的な存在なのか?


「そうともー!僕の名前はシウ。よろしくねー」

「ああ、よろしく頼む……ん?」


 あれ?いま俺、声に出して訊いたか?


「ううん、君は声に出してないよー?僕が思考を読み取っただけー」

「マジか……」


 確かに昨今のカプセル型、HMD型の機器には脳波を読み取る機能が備わっている。それから思考を読み取っているのだろう。


 俺が絶句したのには理由がある。

 それは、この神様が思考を読み取れるという事は、この先のIPOで思考を読み取るNPCやモンスターがいる可能性があるという事。

 そんなの厄介極まりないじゃないか。


「ふふ、どうだろうね?」


 目の前のシウが俺の思考を読み取っているのか、クスクスと少し上品に笑いながらそう言ってくる。

 これはもう存在すると考えていいな。


 それにしても流石、最新のVRMMOだ。

 AIの受け答えに人間味が溢れている。それだけで感動ものだ。


「さて、ひと段落ついたようだし、自分の身体と諸々のステータスを決めてもらおうかなー。まず名前」

「名前か」


 それはもう事前に決めてある。

 他のゲームでも使っていた名前だ。


「フィエルで」

「おーけー」


「うおっ」


 シウが間延びした声でそう言うと、目の前にウィンドウが出現した。

 急に出現したものだから驚いてしまった。


 そのウィンドウには自分の全身が映っていた。


「おお……」


 自分の身体を多方面からジロジロと見ることは今まであまりしてこなかったからか、まじまじと見てしまう。


「いいかな?」

「あっ、すまん」


 横から俺の顔を覗き込むようにしてシウの顔がドアップに見える。

 つい時間を忘れそうになっていたので、俺はシウに謝りつつ次の言葉を待つ。


「じゃあ説明をしていくねー。

 まず身長はいじれないよー。身体的特徴も顔のパーツもね。

 変えれるところだけを言うと、髪の長さと色、髪型。身体にあるデキモノとかは消せるよ」

「ほうほう」


 予習通り、従来のVRMMOとほぼほぼ変わりはないようだ。

 身長や身体的特徴、顔のパーツが弄れないのは現実との齟齬が出ないようにするためだという。

 最初期のVRMMOではそこらへんも弄れたらしいが、身長を変えた人の骨折や事故が相次ぎ、VRMMOに関する法律が出来たほどである。


 その点、髪の長さや色、髪型、デキモノなどは特に変えても現実生活で異常をきたすことはないため、変えられるのだろう。


 俺は特に髪色をいじる気はないな。

 そんなカラフルにしても何の得もないように思えるし。


 髪型もこのままでいいな。

 ただ……前髪が少し気になる。

 自分の事だからハッキリ言うが、結構不気味である。


 自分の身体を多方面から見て分かったが、前髪が長いだけでめっちゃ不気味だ。

 凄い陰のオーラ発してる。


 なので眉上までに前髪を設定する。

 これで良し。

 まあ、これで可もなく不可もなくって感じになっただろう。


 デキモノは俺には無いし関係ないな。

 

「終わったみたいだねー。次は武器と衣服を選んでみよー」


 初めに出ていたウィンドウが横にズレ、新たなウィンドウが出現した。

 そこには様々な衣服と武器、そして自分が映し出されていた。

 その画面右端には『BP:500』という文字があった。


「そう、今見ているそのポイントを消費して服と武器を選べるよ。

 因みにこの後のスキル取得と能力値振り分けでも、そのBPボーナスポイントは使う事になるから、残しておくのをオススメするよー。

 後、一応このBPは1000まで外の世界でのお金で増やせるけど……どうする?」


 ほうほう、つまりここで高ポイントな装備を取ってポイントを無くしてしまうと、ステ振りとスキル取得が出来なくなるわけだ。

 しかし、そのBPは課金で増やせるという。

 これは……上限まで増やすしかねぇよなぁ!?


「おっけー。1000まで増やすみたいだね」


 シウがそう言うと、目の前にウィンドウが出現した。

 課金確認ウィンドウだ。


 俺は迷いなくYESの文字を押す。


 するとチャリンといった場に合わない音と共に、先程の画面のBPが表示されていた場所が拡大され、その瞬間に1000に増えた。


「おおおおっ」


 俺は興奮気味に声を漏らす。

 俺のその様子を見てか、クスクスと声を殺して笑う気配が横からしてきた。

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