第4話 温泉宿で邂逅
温泉宿に戻りひとっ風呂浴びて廊下を歩いていると、先程の少女が廊下に立っていた。
「あら、先程の。奇遇だね。お風呂にでも入りにきたの?」
声をかけると、苦虫でも噛み潰したように睨まれる。
「あなた、わたしの裸を買ったんでしょ。しらじらしい」
彼女は手に持っていた一万ギルを床に投げる。
「いや、それは貴女の火の魔法を見せてもらった対価だよ。俺は貴女を買ってない」
「よく見たら好みじゃなかったってことね。お金は返すわ。さよなら」
気怠げにこちらをら睨み、ツカツカと踵を返す。
服はこれでもかと汚れている。青みがかった銀髪も、皮脂でガシガシに固まっている。
ああ、風呂に入れてやりたい。
さっぱりしたらきっと気分も良くなると思う。
でも、言い方間違えるとロリコンペド野郎の仲間入りだ。
「そうだ!そしたら、マッサージをお願いしようかな。健全なマッサージ。君も俺も服を脱がない。そしたらその代金、受け取ってくれよ」
進む足が止まり、しばらく沈黙が流れる。
「マッサージなら顔見なくていいもんね。わかった。」
こいつは捻くれすぎである。
大前提、美人なのに!
確かに手足は枝のように細く、頬はこけ、目は痩せすぎて窪んでいるが、少しふっくらして化粧でもさせたら、モデル顔負けの容姿なのだ。大きな瞳に、長いまつ毛、雪のような白い肌、整った眉に鼻。まだしょんべん臭いガキには違いないが、美人なのだ。
「その前に、温泉に入ったらどうかな。ここの温泉は日帰り入浴可で、泉質も抜群だ。いい湯だよ」
彼女は胸元の服を指で引っ張り、すんすんと嗅いだ。
「臭くて近づきたくないのね。わかった。お風呂入ってくる」
フンと毒付き、スタスタと温泉に向かった。
やれやれ、困った。
温泉街は春を売る文化でもあるのだろうか。
確かに前世のときも、温泉とコンパニオンは併記されていたような気もする。
それに、一万ギルという額が良くなかった。
3000ギルくらいにしておけば、、、
しかし、この世界の貧困度合いは凄まじいな。あんな子供まで身を売っているのか。
まるでトー横ではないか。
そしてもう一つ、彼女は俺より強い。
サシで戦ったら、速攻消し炭だろう。
あの魔法の精度、尋常ではない。
俺の目玉に焦点を絞って焼くことも出来るだろう。
実質マ◯タング大佐のようなものではないか。
雨の日でもなければ勝てそうもない。
いやいや、この世界では雨の日でも関係なく火は出るだろう。
◯
彼女が温泉から出てきた。
芯から温まったようで、血色がいい。
雪のような肌に、よく通った鼻筋。ついつい見惚れてしまう。
青みがかった銀髪も汚れが落ちて美しい。
どこかの令嬢か?
「良かったら水なども、どうぞ」
そう言って机に出したのは特製生姜焼き定食。幸いこの世界にも米があるので、よく自炊してきた。
一人暮らしもかれこれトータル40年を超える。料理の腕には自信ありだ。
「ん。」
彼女も空腹には勝てないらしい。
嫌味も言わず、ガツガツ食べ始めた。
実にいい食べっぷりだ。
「おかわりもどうぞ」
どんどん米をよそってやる。
食べられる時に食べたほうがいい。
その枝みたいな手足で、この戦乱の世を乗り越えられるわけがない。
喰えるときに喰え。
強くなれ。
そんな気持ちを込めて、米をよそう。
「ふーっ、もう食べれん、、、」
彼女は机に突っ伏し、スヤスヤと寝始めた。
恐るべき血糖値スパイク。
好きなだけ眠るが良い。
彼女の疲れが少しでも癒されることを祈る。
◯
寝てしまった。
外はまだ暗い。
こんなことは今までなかった。
横に眠っている男を見る。
こいつは終始変だ。
わたしを金で買ったと思ったら、抱く気はないという。
それはそうだろう。
こんな貧相で、汚い人間。だれが欲しがるものか。
爪楊枝のような手足、まな板のような胸。
誰が見向きをするものか、、、
それをこの男は、わたしが帰るというと、マッサージをしてくれと言った。あの言い方、金を渡すための方便でしかない。
仕事もせず寝てしまったわたしを追い出しもせず、おそらく宿に追加の金を払って、朝まで寝かそうとするなんて…
こんな施しを受けるのは生まれて初めてだ。
せめてマッサージを、一生懸命してやろう。
もう一度仰向けになる。
久しぶりのちゃんとした寝床。
汗と皮脂の臭いから解放されたのもいつぶりであろうか。
ぐーっと腹が鳴った。
あんなにたくさん食べたのも久しぶりだった。お腹も驚いたのだろう。
だんだん、眠気が増してきた。
まあいいか。この変な男に起こされるまで寝てしまおう。
襲われたとしても、まあ、この変な男なら、そんなに嫌でも、、、
◯
顔に朝日が差し込み、目を覚ました。
横を見ると少女はまだスヤスヤと眠っている。
良いことだ。
育ち盛りは、よく食べ、よく寝た方が良い。
⬛︎⬛︎⬛︎
おばんです!作者の相楽 快です。
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ありがとうございます。
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