デストピア~殺人鬼しかいない町~
異界ラマ教
殺人とは病気である
第1話 殺人病
「はぁ、痴情のもつれで衝動的に、ねぇ。『殺人病』も落ち着いてきたこのご時世でどしたんよ」
雲の海を騒がしく切り裂きながら空を泳ぐ一機のヘリがあった。
ヘリの運転席には一応人間が握るための操縦桿があり、声の主はそこに足を投げ出しながら数枚の書類をめくっていた。
「……」
後部座席に座っていたのは一人の青年。
機械的な手錠と足枷で拘束されており、うなだれたその顔は悲痛な表情に支配されていた。
「おーい、攻めてるわけじゃないって。お前の輸送のおかげで俺は今日楽できるんだ。楽しく雑談しようぜ」
オートパイロットに全ての運転を委ねている運転手は持っていた書類をぴらぴらと見せつけた。
しばらく沈黙していた青年であったが、やがて諦めたように口を開いた。
「……彼女に浮気されたんです。三年目で、結婚も考えてたのに。それで、カッとなって……」
「あぁ~、浮気は辛いよなぁ。俺も先月彼女に浮気された。5股だったぜ」
運転手はヘラヘラと笑い、でもな、と続けた。
「殺しはダメだろ。お前の彼女がどんだけ悪人でも、殺しちまったらお前が悪だ」
しん、と空気が静まり返る。
プロペラの音だけが響き渡る中、絞り出すように青年の口から言葉が紡がれた。
「……僕は、死刑でしょうか」
それを聞いた瞬間運転手は吹き出し、先程の沈黙は何だったのかと言わんばかりの明るい声色で喋り始めた。
「おいおい!もう死刑は廃止になっただろ?それに、お前は悪だが悪くない。殺人ってのは病気なんだ。だからお前は感染を防ぐために施設に送られる」
そう言う運転手は患者輸送の際に義務付けられている感染防止用の防護服を着用していなかった。
ルールとして決定している以上、建前は必要なのだということを二人は理解していた。
タイミング良くオートパイロットの合成音声が目的地への接近を知らせる。
運転手は青年を励ますように口を開いた。
「お前がこれから行くところは刑務所じゃなくてあくまで病人の隔離施設だ。食糧は人数分行き渡るように配給されるし固いルールや痛い注射なんかもない。慣れちまえば
両手を広げてパイロットが言い放ったのと同時に到着を告げるアラートが鳴る。
すると青年の足下が開き、椅子と共に空中に放り出されていった。
すぐに遠ざかっていく青年の悲鳴を聞きながら運転手はぽつりと言った。
「まぁ、俺なら病気の殺人犯しかいない理想郷はごめんだがね」
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