魔法少女10人とFPSプレイヤー999人戦わせたらどっちが生き残る?〜コメントで投票が多かった方が勝つかもね〜

酒都レン

第◯話 魔法少女ろあいやるぅ!?殺されるのは光栄に思いな♡

「――ッ!?」


 スコープの中で鮮明に映るシスターの格好したまだ13歳くらいの幼い少女――魔法少女をビルの屋上からスコープを通して狙いを定める。


 レンズで少し歪んだ彼女は、襲いかかってくる俺たちこと『プレイヤー』を幼い見た目からは信じられないほどの力で殴り倒していく。


 アニメやゲームで目にする普通なら信じられない光景、だが俺たちの目の前に存在し、そして俺たちを一人ずつ駆逐していく。

 大丈夫だ撃てる、動き回っているため照準は合わせづらいが、銃口はしっかり彼女に向かっている。


 何度もゲームの世界で狙いを定めてきた。この距離、この状況、俺には経験がある。手汗がにじむ中、引き金に指をかける。


 次の瞬間、彼女がふと動きを止めたのはその時のことだった。


 スコープ越しの中心に向かってシスター魔法少女の赤い瞳がこちらを捉えた。心臓が一瞬凍りつく。まさかこの距離で、俺の位置がばれるなんて。


「ひまりっ!!逃げるぞ!!」


 俺はスコープから目を離し、銃を投げ捨てるようにして肩にかけると、幼なじみのひまりの手を引っ張りながら全速力で屋上の出口へ向かった。


 足音が響き渡る中、息を切らしながら階段を駆け下りる。ビルに隠れていた10人の仲間のプレイヤーに見つかったことを報告するためトランシーバーを起動する。


「やばいです、居場所がバレました!!多分『ししゅたーくろ』やってきます…今すぐ逃げてください」


『そんなこと言ったって…グアっ!!あああああやめてくええぇぇえええ』


「山下さん?山下さんっ!!」




『もぉしもーし?聞こえますかぁ?あれれぇおかしいなぁ』




 ノイズのかかった幼い声がトランシーバーから聞こえ、次の瞬間にはガチャっという音と共にスピーカーから俺たちが殺そうとした魔法少女の声がこだまする。


 その声を聴いただけで震えが止まらない。殺される、そんな恐怖で思考が埋め尽くされて頭に浮かんでくる言葉の一つも口にすることが出来なくなってしまっていた。


 死の淵に立たされた時、人はこうも無力なのかと知ると同時に、命乞いの言葉すらも出すことが出来なかったことに絶望しかけていた時

 ……隣にいたひまりが俺の頬を叩いた。

パンッ!!という音と共に現実に引き戻される。


 その衝撃で涙で歪んだ視界は徐々にクリアになっていき、ひまりの顔をしっかりと認識した。


「なにやってんのよアホ一条!?しっかりしてよ、そうじゃないとひまりが不安じゃんっ!!」


 その言葉で我に帰ると、俺は再び震える手を押さえつけながら銃を握り直した。まだダメだ、こんな所で死ぬわけには行かない。


 ひまりを守りきるまで。


「悪い…とりあえず確保したルートで逃げよう」


「うんっ!」


 非常階段から見えた窓の割れた5階フロアにひまりを投げ入れ、そのあと俺も飛び込もうとした瞬間、ビル全体がグラッと揺れた。


「――ッ!?マジかよ!」


 突然の揺れにバランスを崩し、足元が不安定になる。ひまりが中で必死に手を伸ばしてくれるが、俺はその手を掴むことができず、体勢を立て直そうと必死に踏ん張る。


「一条、早く!」


「ちょっと待てよ、急になんだこれ?地震か?」


「一条っ!!上!!」


「へ?」


 ひまりの悲鳴に似た叫び声で上を見上げると、屋上から飛び降りてきたシスター魔法少女がこちらに向かって一直線に降下していた。


 彼女の眼光が鋭く輝き、まるで猛禽類が獲物を捕らえる瞬間のような迫力があった。


「それが愛なら死んでも受け止めるべき!!そうでしょうぅうううう」


鋭い歯を覗かせた彼女の表情は、狂気に歪んでいた。


 シスター魔法少女が空中で鋭く体をひねり、その勢いで俺の頭上に向けて強力なキックを放とうとする。彼女の足が空気を切り裂き、その蹴りがもし命中すれば骨をも砕く威力を風圧から感じ取った。


 瞬時に状況を理解した俺は、反射的にひまりに向かって叫んだ。


「ひまり、下がれ」


「でも、一条!」


「いいから早くっ!!」


 名残惜しそうではあったが、ひまりは頷いてフロアの奥に向かって走っていく。


 彼女のとりあえずの安全が保証され安堵した後にシスター魔法少女の足先が目の前に迫った。


「可愛い子。恋人ですかぁ?」


「幼なじみだよ」


 恐怖で押しつぶされそうになりながらも、俺は肩にかけた銃を構えてその足に銃口を突きつけて引き金を引く。


ドンッ!!


 という発射音が空気を裂き、その瞬間に魔法少女の放った蹴りが俺の顔スレスレで通過する。


「うおっ!?」


 振り下ろされた彼女の足はコンクリートを穿ち、大きな亀裂を作る。

危ねぇ……もし咄嗟の判断で弾丸を撃たなかったら確実に脳天ぶちまけて死んでだろ。


「くそ、間一髪だったな…」


「うあああああん!!ひどいですぅこんなことするなんてぇ。足痛いですぅ」


 相変わらず狂気に歪んだ笑みを浮かべるシスター魔法少女がこちらを見下ろしてくる。その目がまるで狩りを楽しむハンターのようで、背筋が凍るほどの恐怖を感じた。


 逃げなければ死ぬ。俺の生き物としての直感が呟いた。


 飛び散るコンクリートの破片をなんとか避けながらシスター魔法少女から距離をとろうと駆け出すが、それよりも早く彼女は俺の目の前に回り込み、そして再び蹴りを放つ体勢に入るのが見えた。


 まずいっ!!そう思った瞬間には体が動き出していた。


 彼女の蹴りが俺の首めがけて放たれる直前、俺は体を捻ってそれを避けようとした。だが完全に避け切ることは出来ず、蹴りは俺の頬に命中する。


 ドゴッという鈍い音と共に鋭い痛みを感じた直後、体が吹き飛びひまりが逃げていったフロアの壁へと激突する。


 完全に骨が折れたような音が響き渡り、激痛と耳鳴りで意識が朦朧とする中、俺は力なくその場に崩れ落ちる。


 くそ……マジでやべえぞこれ……どうすればいいんだ?このままでは確実に殺される。


 その時、後ろから駆ける足音が聞こえてくる。視線を向けるとそこにはひまりがこちらに向かって走ってくる姿があった。


 彼女は俺を守るかのようにシスター魔法少女の前に立ちふさがると両手を広げて俺を庇う。


「ひまりなんでここに?逃げろって言っただろ!!」


「逃げるわけないじゃん。馬鹿なの?絶対にひまりがあの巨乳女から守る!!」


 ひまりは力強く叫ぶと、シスター魔法少女に向かって突進しボクシングで鍛えた拳を振るう。


 まるで猛獣のように鋭い動きでシスター魔法少女に肉薄し、そのまま回し蹴りを放つとシスター魔法少女の頬へと食い込んだ。


 だがシスター魔法少女はビクともせず、逆にひまりの足を掴むと勢いよく投げ飛ばす。鈍い音が響き渡り、ひまりの足が衝撃で床から離れるが、それでも彼女の勢いは止まらなかった。そのまま回転しながら再び足を振り下ろす。


「くっそ……まだまだぁ」


「素晴らしき友情愛。いや友情愛すらも越えている。あなた、その『愛の力』はどこから湧いてきたのですかぁ?」


「……へ?あ……あの、意味が」


「いいえ、言わなくていいですよぉ。興味ないので」


「はぁ!?意味わかんないんですけど」


 その一言ともにひまりは再び拳を振るう。


 今しかない。この二人の眼中にもう俺はいない、気配が極限までに薄い今こそ、シスター魔法少女の脳天をぶちかませる。

 俺は残った力を振り絞って肩にかけたスナイパーライフル を肩から外すと、構えた。


 呼吸を出来るだけ殺して射撃体勢に入ると、照準を合わせていく。


 くそひまりが邪魔でシスター魔法少女を狙えない。今発砲すればひまりに銃弾は直撃してしまうだろう。それだけは避けなければならない。


 だが、一体どうすれば?そんな考えを巡らせているうちにもひまりとシスター魔法少女の攻防は続く。



「大丈夫君なら撃てる、研」



 不意に耳元で聞き覚えのある少女の声がするとともに、突然背後から伸びてきた手がアサルトライフルに添えられる。


 レモンの香りが微かにするふんわりとした薄紫の長い髪が視界に入り、長い睫毛に飾られた大きな切れ長の目が間近で見つめる。


 その容姿は幼さと大人っぽさが共存したような美しさを持ち、まるで人形のように整った顔立ちをしていた。


「チェンソー魔法少女っ!!なんでここに……?」


「言っただろ。私は研に尽くすって」


「でもお前は俺の敵じゃ」


 薄桜色に染まった唇が俺の一言に弧を浮かべると、俺の指にそっと細く白い小さな指を回して抱きついてくる。


「約束したじゃないか。研を守るって、3日前」


 そう、3日前。この命がけのゲームも、全ては3日前から始まった。

 彼女と交わした約束も、その始まりの一部でしかなく、俺がまだ普通の生活を送っていたあの日、突然に襲いかかる運命の暴風が全てを変えたあの瞬間のことを


 ただ思い出す。


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次回は第1話「ニート☆ホイホイ招待状」です。

お楽しみに。

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