【嫁怖・下怖・涙談】浮気の代償は、そこで償いなさい! 俺の息子が天を見上げたその日の朝はもう来ないでくれと祈るばかりだ

BB ミ・ラ・イ

本文

 俺の名前は、外道げどう(32歳)。由来は ───


 いや、そんなことは、どうでもいいか。


 肝心なのは、ここからだ。


 俺は非常に困っていた。その理由は ───



 昨晩、浮気をした。嘘でも夢でもない。なぜなら、俺の頬に綺麗な二つ爪痕が残っているからだ。


 決して激しい浮気をしたわけじゃない。ある意味は激しい夜にはなったけど、そうじゃない。俺が浮気をしたのは数日前のことであり、この傷は嫁(23歳)に付けられたものだ。


 俺の浮気は、なぜか嫁にバレてしまった。それで、口論になった挙句、嫁に引っ掻かれこのざまだ。


 と言っても、俺の嫁は断じて鬼嫁なんかじゃない。今流行りか知らないが、『犬系彼女』ってやつだ。だから、ちょっとオイタが過ぎてしまったのだろう。その後、何とかなだめることに成功して、離婚には至らなかった。


 そんな俺は、心を入れ替えまばゆい良き朝を迎え、痛む頬をかばいながらションベンをしにトイレへと向かった。


 傷口は完全に瘡蓋かさぶたになり、多少の痛みはあるが俺は男の子。こんな傷どうってこともない。


 ズボンを下ろし、パンツも下ろし、立ちションしたいのは山二つだが、嫁に座ってしてと言われているため、便座に座った。


 すると、何とも暖かな気持ちになった。ちょっと鼻にツンとくるが、芳香剤なのかあまり嗅ぎなれぬ香りも漂っている。


 でも、違う。それは違った。


 本当に俺は暖かくなっていた。自分の尿でだ。 


 なぜか、俺の息子は天を指していた。


『息子さん 天を見上げて どうしたの?

                     外道 粗末な川柳』


 聞いても無駄だ。俺の息子に話しかけて答えてくれるわきゃない。


 俺は、状況を整理する。


 さすがに俺の息子は、そんな元気ではない。精々、90度と言ったところか。そして、頬の痛みであまり気にはならなかったが、多少、息子に痛みがあった。それから、下腹部もだ。


 俺は、状況を飲み込んだ。


 俺の息子は下腹部に密着しており、それは接着していたのだ。


 恐らく、接着剤であろう。


 そして、その犯人は一人しかいない。嫁だ。


 子供のいない我が家には、俺と嫁しかいない。推理するまでもなく、犯人は言わずもがなだった。


 そう思った俺は、嫁の眠る寝床へと向かう。


 嫁の寝顔は犬のように可愛く、スヤスヤと眠っていたが、俺はその眠りの邪魔をし早急に起こした。


 無理やり起こされた嫁は、少しばかり不機嫌な顔を見せたが、それどころではなかった俺は、嫁を問いただすことにした。


「なあ、マーちゃん。俺の局部に変なことした?」

「え? マーちゃんは、知らないよ」


 嫁は悪びれる様子もなく否定した。


「いやいやいや。マーちゃんしかいないでしょ」

「何のこと?」

「何って ——— 」


 俺は、仕方なくズボンとパンツを脱ぎ、嫁に現状報告をした。


「これだよ。マーちゃんでしょ? マーちゃんが接着剤で付けたんだよね」


 すると、嫁は観念したのか「あー、それね」とおどけて見せた。


「違う違う。それ、アロンアルファだよ」

「接着剤じゃん!」

「違う。アロンアルファだもん」

「だから、アロンアルファという名の接着剤でしょ」


 そこまで言うと、ようやく嫁は今度こそ観念した。


「そうだよ」

「何で、こんなことしたの?」

「何で? 何でって、マーちゃん分からないの?」


 その時の嫁の顔は、今までに見たこともないくらいの、まるで悪魔にでも乗り移られているのではないかと言うくらいの、狂気じみた表情を見せていた。


 俺は、そんな嫁に恐怖心を抱いていた。


「マーちゃん……?」

「何でじゃないよね。昨日のこと、もう忘れたの?」

「いや。昨日のことは、もう終わったじゃんか」

「あんなので終わるわけがないじゃない!!! 何で? 何で私のこと裏切るようなことをしたのよ。ふざけんじゃないわよ。浮気の代償は、そこで償いなさい!」


 こんな嫁は初めてみた。犬系彼女で泣く動画を見たことあるが、牙を剥き出しにした犬系は、我が家だけだろうか。


 その日、俺は嫁をお祓いに連れて行くことはしなかった。仕事を休み一日、嫁の側でご機嫌をとることしかできなかったのだった。


『息子さん しばしばたれよ その時を

          明日になれば 剥がしてみせる

                     外道 嘆きの短歌』


     (完)

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