第12話 没落
夜の王都。
ケモッフ王国ではろうそくなどの灯りは高価すぎるし、火の魔法を使える人は少ない。
だから、夜にはほとんど月明かりしかない。
王都はすでに寝静まっている。
「本当にいいのか?」
「いいんです。これが一番だと思うから」
わたしはローブを目深にかぶりながら、目の前のレン王子に言った。
その横では、ボーッとしたイベリスが立っている。
「その……お前は大丈夫なのか? ロードデンドロン家はもう……」
「うん。没落したから。そのせいでレン王子にも迷惑かけてごめんなさい」
「いや、迷惑なんて……」
ロードデンドロン家は『土の聖女様を領地内で暗殺された罪』で没落してしまった。
他の貴族や派閥から「この時を待ってました!」と言わんばかりに攻めたてられたのだ。
お父様は公爵としての責任の受け入れて、お母様はずっと放心状態。
2人は今牢獄にいるけど、近々公開処刑されると噂がたっている。
突然土の聖女様を失った民衆の溜飲を下げる狙いでもあるのだろう。
そして、その影響はレン王子まで及んだ。
レン王子派閥の筆頭だったのはロードデンドロン家だ。
後ろ盾を無くしたレン王子は王位継承争いを実質
だけど、彼にはイベリスがいる。
『願いの魔力』を持つ少女。
彼女が隣にいるだけで、どんな権威よりも強力な
そして必然、イベリスは暗殺されかけた。
レン王子の活躍のおかげで
その時の心的ショックのせいで、彼女はずっと意識が虚ろになってしまっている。
そして、レン王子は決意した。
この国から飛び出して、イベリスのためだけに生きると。
でも『願いの魔力』を使えなかったらしい。
彼にとっての『不幸』は、イベリスを失うこと以外に残っていなかったから。
そうして助けを求められて、わたしは彼の前に立っている。
一応逃亡中なんだけどなぁ。
「それと、土の聖女様を襲った暗殺者について。非常に言いにくいんだが……」
「知ってます。ハイエナ獣人だったんでしょ? 死んだ状態で発見されたとか。城下町でも噂が広まっていました」
「おそらく迫害された恨みで暗殺し、その後自ら命を絶ったのだろう」
「さらにハイエナ獣人への差別が加速しますよね」
「残念なことに、すでにハイエナ獣人狩りが始まっているらしい」
思わず、深いため息が漏れてしまう。
どんどん状況が悪化してきている。
「まあ、お話はこれぐらいにして、さっさとやりましょう」
わたしが手を叩くと、レン王子はにわかに笑った。
「今まで色々と悪かったな」
「それはお互い様です」
わたしはちゃんと笑顔を作れただろうか。
「レン王子。イベリスのことをよろしく」
「任せてくれ。絶対に幸せにする」
イベリスを見ると、ずっとうわ言を呟いていて、心ここにあらずと言った様子だ。
彼女は元々『ロコス・ロードデンドロン』。
目の前で産まれた家が燃えて、しかも両親は公開処刑を待っている。
しかも突然暗殺されそうになったのだから、正気を保っている方がおかしい。
(これは、おばさまが最期に褒めてくれたことだから……)
これをちゃんとやっておかないと、おばさまに顔向けできない。
あの時とは状況が変わったから、少し願いは変わってしまう。
でも、それぐらいはいいよね。
わたしはイベリスの左手薬指に触れた。
「レン王子。イベリス。あなた達は幸せになって。遠い場所で、元の姿に戻って元気になってね」
その代わり、わたしは全く違う姿になる。
そして、両親やペリットから絶対にロコスだと認識されなくなる。
そう、願った。
「ありがとう。絶対にこの恩は返す」
レン王子はイベリスを抱きしめた。
すると、2人を囲むように淡い光が現れて、夜空へと上がっていく。
そして、流れ星のようにどこかへと言ってしまった。
「……ふぅ」
これで、わたしの1つ目の役目は終わった。
もう1つは、両親を助けること。
そのためには、 姿が変わるのは都合がいい。
ロコスは指名手配されてるし、自由に動きにくかったから。
わたしは少し寂しさを覚えながら、裏路地から出た。
すると――
「ロコス様! ロコス様!」
ペリットが、わたしを探していた。
勝手に隠れ家から抜け出してきたから当然だ。
でも、もう姿が違うからわたしだとわからないはず。
このまま見て見ぬ振りをしてしまおう。
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