第2話 婚約破棄なんてパワーで解決ですわっ! 前編
この世界は、わたしが
ゲームのタイトルは『もふもふに溺れてしまえ!』。略して『もふ溺!』
前世で10周はプレイした神ゲーだ。
そのことに気付いたのは、10歳の頃だった。
正確には、わたしの『ロコス・ロードデンドロン』としての人生は10歳から始まったと言ってもいいかもしれない。
前世で陰キャオタクだったわたしは『もふ溺!』のファンディスクを買った帰り路で、トラックに轢かれて死んでしまった。
そして目を覚ましたら、10歳の悪役令嬢『ロコス・ロードデンドロン』になっていた。
最初は混乱した。
何が起きったのかわからなくて、取り乱しまくった。
でも『どうせ皆NPCでしょ!』と思って話しかけまくったらコミュ障が直ったり、ネットのない生活が思いの外楽しかったり、なんだかんだで満喫できるようになった。
そして、悪役令嬢に転生したのも、実は悪くなかった。
(これ、推しといい感じになれる!?)
わたしの推しは、攻略対象の中にはいない。
悪役令嬢に操られていた、ハイエナ獣人の暗殺者だ。
いわゆるモブの一人で、立ち絵はあるけど表情差分とかはほとんどなかった。
それでも、見た瞬間に心を射抜かれてしまった。
ちょっととんがった耳に、ちょっと気だるげな顔。
犬っぽいのに、実はジャコウネコの一種なのもちょっとかわいい。
なんていうか、純粋にカワイイじゃなくてちょっとブサカッコカワイイんだけど、見ていて癖になる感じが本当にたまらない。
ダメ。考えているだけで頭おかしくなる。
雄たけびを上げちゃいそう。
ちなみに、わたしがファンディスクを楽しみにしていたのは、その推しが一番の理由だった。
なんとっ! ハイエナ獣人ルートが用意されていたの!!!!
でも、死んじゃったせいでプレイできなかったんだけどね。
それがずっと心残り。
だから、今のわたしの目標は『推しのハイエナ獣人を見つけて、お近づきになること』。
暗殺者にするのもかわいそうだし、できればわたしの執事になってほしい。
推しが執事の生活って最高か?
ちょっと話がズレちゃったけど、そういうわけでわたしはこの婚約破棄を知っていて、なんとか阻止したいわけ。
婚約破棄の上、国外追放されたら、執事にできないしね。
目の前の婚約者に対して、わたしはゲームと同じセリフを返す。
「わたくしが何をしたというんですか!?」
「お前は、オレのかわいいイベリスに残酷なことを繰り返した! この場で断罪してやる!」
叫んだのは、キツネ獣人のハーフ。
第4王子こと『レンブラント・トゥリッパーノ』。
親しい人は『レン王子』と呼んでいる。
身体能力も魔力も高くて、人気投票でも1位だったキャラだ。
(実際には、イベリスをイジメてないんだけど……)
『イベリス』は、レン王子の隣にいる少女の名前だ。
『もふ溺!』の主人公にして『願いの魔力』を持ったすごい子だ。
まあ、この世界ではすごく腹黒なんだけど。
レン王子の言っている『イジメ』は全部、彼女の自作自演である。
「レン王子、命まで取るのはかわいいそうです」
「だがしかし……」
「国外追放でよいではありませんか」
「そうだな。お前がそう言うならそうしよう」
イベリスは『感謝しなさい』と言わんばかりの顔をわたしに向けてきた。
本当に憎たらしい。
ゲームだったら絶対に電源を落として発狂している。
(よし、やるか)
わたしだって、この時のために何も用意していなかったわけじゃない。
ちゃんと解決策は考えている。
「おーほほほほおほほほほほほほ!!!」
悪役令嬢になりきって、高笑いをした。
「レン王子。あなたの言い分もわかります。ですが一方的に婚約破棄なんて、おかしい話じゃありませんか?」
「何を言いたいんだ?」
わたしは出来る限り挑発的な顔をした。
「決闘をしましょう」
「決闘だと?」
レン王子の眉がピクリと動いた。
普通なら、王族が公爵令嬢からの決闘を受けるわけがない。
でも、この国は一味違う。
獣人の血が入っているせいか、この国の国民は血気盛んなのだ。
ことあるごとに決闘をしているし、決闘を申し込まれたら断らない。
それは貴族や王族だって変わらない。
「いいだろう。ロコス。オレもちょうど自分の手でお灸を据えたいと思っていたんだ」
「ほー。この世界にもお灸ってあるんですね」
「また意味不明なことを……!」
この勝負が終わったら、お灸をやってもらおう。
前世より胸が大きいせいで肩が凝るんだよね。
ふと、周囲の反応が気になって見渡す。
「いいぞー。もっとやれー」
「ふむ。若いっていいですなー」
「決闘が始めるよー。急いでテーブルどかしてっ!」
「どちらにいくら賭けますか?」
「レンブラント王子に200万」
「では私はロコス嬢に350万」
「ほー。なかなかにギャンブルをわかってらっしゃる」
なんか周囲の貴族は完全に「もっとやれ!」ムードだ。
さっさとテーブルをよけているし、準備が早い。
決闘大好きすぎるでしょ、この国の人達。
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