第三話
俺はとある人物と会話していた。
ネット上で。
「それでさぁ、あの告白魔がまーた年下に告白したのよ」
「懲りないねぇ農袋さんも……でもまぁ青春謳歌してていいんじゃないのか?」
話している相手は耐久と名乗る人。
Discover初心者だった頃に仲良くなり、隠居中もTalkLinesという別のアプリで会話を続けていた人。
京都在住であり同じ年齢の同級生ということもあり
受験勉強中愚痴を言い合った仲である
そんな耐久とTalkLines上で会話する。
「そうだよな、少なくとも応援したくなる」
「そうだね。お前は彼女とかいいのか?」
「俺にできるわけねぇだろ」
「それ以上に大切なものがあるから?」
「できると思うが」
「ところでそっちはどうよ」
「まぁぼちぼちだ。楽しくやってるよ」
「オフ会でもしてぇなぁ」
「………」
「すまねぇ、トラウマがあるんだったな」
そう。耐久にはかつてトラウマがある。
詳しくは知らないがソレ以来オフ会の類には参加したがらない。
「すまん明日早いんだ、もう寝る」
時刻は9時を回った所。早いらしいし寝させてやろう
「おやすー」
既読はつかなかった。
「さて、やるか」
TalkLinesを閉じ、パソコンでメープルストーリーとDiscoverを開く。
メープルストーリーはかなり長生きのネットゲームだ。これも最近とある人の勧めで始めた。
自身の接続状況を確認しながらいつもの挨拶を入力する
こんちゃ
来たか、素水。
直ぐに返信が来る。今話しているのはメープルストーリー内のクラン用サーバーだ。
@ammitsu(メンション)
ゼナンー素水来たぞ〜
分かった
ゼナンさんもこんちゃ
おけ
いつも思うがゼナンさんは無口。
先程最初にあいさつを返してくれたクラメンの人に聞いた話によると極度の人見知りらしい。
クラメンでも気軽話せるのは数名だとか。
リアル側でも教授と話せないらしい
「さて、行きますか」
そんなゼナンさんと画面内の俺が武器を持つ。
ボス部屋に入ると画面上にHPバーが出現する。
もちろん削りきれば勝ちだ。
◇
ゼナンさんとのマルチプレイを終えDiscoverに
「お疲れ様でした〜寝ます」と一方的に打ち込む。
先程の牛丼がまだ胃に残っているためか食欲は湧かなかった。
液晶の光がまぶたを閉じても残り続ける。
どうやら暫く眠れそうにない
「暇だなぁ…」
口からそんな言葉が漏れ出る。
マルチプレイは確かに楽しかった。
なのに満たされない。何かが欠けている。
つい半年前までは勉強で頭が満たされていたからだろうか、頭に残り続ける空虚とした感覚。
そんな穴は俺の大切なのは何かを否定しているような気がして、俺は眠れないと分かっていながらもベッドに身を投げた。
◆
故だろうか、流太郎は気付かなかった。
流太郎が入っていた機能停止に陥った鯖に来客があったことを。
機能停止したメンバーがオンライン表示になったことを。
そして、その来客のIDがitmry.2667であることを。
久々の来客に鯖への到着を祝う【手を振る】の絵文字でログは埋め尽くされた。
ゆっくりと事態は進行する。
かつてのメンバーが目を覚ます。
別鯖に逃げた者も振り返る。
Discoverを捨てた者も立ち向かわねばならない日はゆっくりとこちらに近づいてくる。
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