15 帰郷
今、私の前には牛がいる。
「も〜」
「お前、前見たときは子牛だったのに大きくなったな」
「も〜」
顔見知りの牛を撫でていると、オリーに急かされてしまった。
私達の現在地はオリー故郷でありドラン騎士団が発足した地、ドラゴノフ様が納めるポイラー領である。
なんでポイラー領にいるって、私達の息抜きと実地調査のためだ。
実地調査はポイラー領に帰るついでにしてくれと言われた仕事だけどね。
数日前の私の様子が変だったのと、私もオリーも最近働き詰めだったことから四日だけの帰郷の許可が下りたのだ。
ポイラー領に帰ってくるのは久しぶりだな。
割りと田舎の方だから顔見知りしかいなくて、たまに立ち話をしては進んでいくからラジヴィウ伯爵邸につくのが遅れてしまった。
屋敷につけばドラゴノフ様達が出迎えてくれた。
「帰ってきたな!娘達よ!」
「ただいま帰りましたわ、お父様」
「お久しぶりです。ドラゴノフ様」
オリーの父親であり、ポイラー領の領主であるドラゴノフ・ラジヴィウ。
私達スラムで暮らしていたドラン騎士団を拾い、教育し、社会を学ばせ、今の状態まで育てた恩人である。
「流石に現状、ゆっくりするというのはできないだろうがリラックスしていってくれ」
「ふふ、そうするわね」
屋敷のなかに入り、顔見知りの使用人達にオリーや私の荷物を渡して部屋に持っていってもらう。
部屋に集まり、王都にいた間のことを色々と話す。
この前に起こった緑色のローブが子供を人質にとる事件をオリーが話して私が褒められたり、途中でオリーが帰ってきたことを知って急いで帰ってきたオリーの弟であるキーノが部屋に飛び込んできたりした。
ポイラー領での被害の話しになれば他の領地よりはましではあるが、やはり一定数の家畜と農作物が犠牲になっており、農家達は苦しい思いをしてるようだ。
離しているとあっという間に時間が過ぎ去って、オリーは部屋で休むことにしたとのことで、私はドラン騎士団の駐屯地に向かおうとしているとキーノが追いかけてきた。
「シェナ!」
「キーノ?どうかした?」
「手合わせ、して!」
そういうキーノの手には木刀が握られており、その瞳はキラキラと輝いていた。
「ふふ、いいよ。駐屯地に行こうか」
「うん!」
キーノはオリー弟であり、ドラゴノフ様の唯一の息子で、ポイラー領の時期領主である。
私達が拾われる少し前に母親が死んでしまったからか、突然やってきた私達に対しての警戒心は高かったが今ではこうして稽古をつけてと言ってくるくらいには懐いてくれた。
キーノとならんで歩くこと十分程度、ラジヴィウ伯爵邸ほどではないが大きな建物は建っている。
あれが我らドラン騎士団の駐屯地であり、発足前からも使われている建物で、昔は私もあそこで暮らしていた。
駐屯地には訓練場があり、騎士団員は皆そこで体を鍛える。
駐屯地からは騎士団の掛け声が聞こえてくるのを考えるに、今はちょうど訓練を行っている時間帯だろう。
キーノの稽古ついでに、団員達がきっちりと普段から訓練しているか、どうかを確認をしてやろうじゃないか。
「ニヒヒ……」
「シェナ、悪い笑顔している……」
「いやぁ、久しぶりに私直々に鍛えてやろうと思って、ね」
「お、俺、手合わせ終わったら一回帰るね?姉さんと話したいことがあるから」
「……そういうなら仕方ないか」
姉弟水入らずの時間を邪魔するわけには行かないものね。
駐屯地につき、中に入れば懐かしい顔ぶれがおり自然と口角が上がる。
「よう、皆。クルシェナがきたぞ」
ドラン騎士団の面々は私の登場に目を見開き、頬をひきつらせる。
「だ、団長だ……」
「帰ってくるとは聞いてたけど、またアレが始まんのかな?」
「鬼が来たぁ……」
ヒソヒソと話しているとのが聞こえてくるが、お前たち覚えておけよ。
「そんなにビビるなよ。ったく、私はキーノの稽古とお前らの顔を見にきたの。欠けは無いね?誰か何かお祝い事あったりした?」
団員達は最初の言葉にうなずく。
子牛が生まれたこと、馴染みの鍛冶屋に新人が入って筋がいいこともあり絶賛しごかれ中であること、初々しかった幼馴染みカップルがくっついたことなどを教えてくれた。
そっか、あの幼馴染みカップルくっついたのか。
良かったな。
「そういえば、カフは?」
私の腹心はどこにいるんだろうか?
てっきり、団員達と一緒に訓練をしてると思ってたんだけど姿が見えないな……。
「カフさんなら屋敷の方に、って来た」
「カフはここですよ。シェナ様」
「おぉ、元気か?カフ」
「えぇ、元気です。お帰りなさい、シェナ様」
うん、私の腹心も元気そうだ。
「おう、ただいま。キーノと稽古するから手当て道具の準備とタオル用意しておいてくれ」
「承知しました」
訓練場の一角を使い、キーノの相手をすることになった。
「いくよ!」
「いつでもどうぞ」
団員から借りた木刀を握り、キーノの動きを観察する。
一歩大きく踏み込み、私との距離を縮めて木刀を振るう。
「セア!」
キーノの木刀を弾き、次の攻撃を避ける。
訓練場には団員達の掛け声と、私とキーノの持つ木刀がぶつかり合う音が響く。
右、左、正面、フェイントからの後ろに回る。
前に稽古したときはフェイントを上手く使えなかったのに、今となっては上手く立ち回っているじゃないか。
「まぁ、私には意味がないんだけどね」
「うっ!」
フェイントを仕掛けてきたが経験値が違うことからキーノの攻撃は簡単に弾いて、避けることができた。
稽古をはじめてからどれくらい時間が足っただろうか。
キーノは汗を流し、息があがってきている勢いが衰えることはない。
私に関しては息切れすることもなく、汗を流すこともない状態だ。
これくらいで値をあげていたら戦場なんていれるわけもないし、生き残れるわけもなく、そもそもキーノに体力で負けるのはドラン騎士団の団長としてのプライドが傷つくので意地でも負けられないけどね。
「そら!」
「うわ!」
キーノが使っている木刀を弾き飛ばすと、木刀は宙を舞って地面に転がり落ちてこぎみ良い音を立てた。
「私の勝ち」
「あ〜、負けた!」
キーノは負けた悔しさから、それとも疲れからか、地面に座り込み、カフが持ってきたタオル受けとると汗をふく。
「悔しい、また負けた。なんで、いっつもシェナに負けるのさ」
「そりゃ、私がドラン騎士団の団長だからね。簡単に負けてはいられないさ」
「うぅ、俺も父様みたいに早く強くなりたいのに……」
ドラゴノフ様は国内で最強だといわれているドラン騎士団を育てた人であるからして、相応に強いのだ。
ドラゴノフ・ラジヴィウの二つ名、それは“ドラゴン殺し”である。
この領地は国境沿いであり、トゥシュテの森もあることからドラゴンがよってくることがあったそうだ。
昔話のように話しているのは私達が生まれる前に起きたことであり、現状はドラゴンがやってくることはないからである。
話を戻して、ドラゴンがやってきては今の状態のように被害を出していたのだという。
登場、まだ若いドラゴノフ様がドラゴンを倒したことによ危機は脱したのだそうだ。
ドラゴンは強く、そして賢い生き物である。
一度、仲間を倒したものの側に近寄る物好きなドラゴンなんておらず、ポイラー領どころかアニエス王国事態に近寄らなくなったのだ。
そしてついた二つ名が一連の事件にのとって、“ドラゴン殺し”だ。
そのドラゴノフ様の子供ということで、オリーもキーノも強い部類にはいるのだ。
「きちんと強くなっていってるんだから、自信もって胸張っときな。過信はダメだけどな」
「……うん」
素直に頷くキーノの頭を撫で、悠々と休憩をしている騎士団員達に向き合う。
にこりと笑いかければ怖いものを見たかのように大袈裟に飛び上がり、ソロリソロリと後退していくが私が逃がすわけもない。
「何、休んでんの?」
「え?い、いや……」
「おかしいな〜?私がいったメニューって、もう少しあったよね?」
「え、え〜……」
団員達が目線をそらしたのを見て、常習的にメニューの一部をサボっていることを悟った。
団員達は、これから怒ることを察知したのか、脱兎のごとき走り出す。
「生ぬるいことやってるバカは私直々に鍛え直してやる!」
「鬼!!」
「うるさい!それくらい走り回れる体力が残っているんだったら真面目にメニューやれ!」
サボっているバカ達を追いかける。
久しぶりの、このやり取りに思わず笑みがこぼれる。
「とりあえず、鬼っていったやつしばく!」
サボったのが悪いんだ、サボったのが。
私がドラン騎士団の者達と遊んでいる間に、キーノはカフに一言告げてから屋敷に帰っていた。
「旦那様、いったい何を考えて私達を……。いったい、何が起こっていると言うのですか?なぜ、逃げないのですか?」
団員達の声で、カフの声が買い消されてしまい誰にも拾われることはなかった。
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