初日から

 ガートンを見送り、母屋を振り返ります。

 旦那様は町へ帰るガートンのお見送りはしませんでした。

 気にした風もなくガートンは焼き菓子をまとめて持ち帰ることができほくほくと満足そうでした。旦那様は焼き菓子の類を好まれないのでしょうか? ソースをかけた肉も美味しかったと称賛されたのでガートンにはお礼を返しておきました。旦那様用だったんですけど?

 母屋の様子は気になりますが、母屋への干渉を禁じられると家政婦として近づくわけにもいかず、ストレスです。

 遠目で母屋を眺めながらはなれ付近の菜園に手をいれます。

 お手伝いを許されないとしてもせめてご案内ぐらいさせて欲しかったと悲しく思います。

 夕暮れ時にはぽつぽつと母屋に灯りがともります。つくのは一階だけなので生活圏を一階でまとめるおつもりなのか、今日は一階だけなのかわかりませんね。

 主寝室の準備も夕食の下準備も出来ているものを活用してさえ頂ければ問題はないはずです。

 ……そのはずですのにニューの感知に引っかかるモノがありました。

 旦那様の生命維持は旦那様の命令(拘束力は低い要望)より優先されます。

 というか、ニューをローレンス邸から追い出すことは不可能なのです。

 ええ、ええ。

 おつかれだったのだと思います。

 王都からの旅(おそらく街間転移門)はかなり使用者の魔力生命力を使用しますし、魔導馬車も荷物量で使用魔力が変わるんです。

 当然のお疲れでしょう。

 ガリガリのっぽさんですし。

 でもですね。

 でもですね。

「初日からバスで溺死とかやめてくださいよね!」

 多少の声の大きさでも意識を取り戻さないのは危険ではないでしょうか?

 呼吸、鼓動は大丈夫ですね。

 主寝室にお連れしませんとね。

 ニュー、一直線に浴室を目指した為に周囲を見ていませんでした。

 ほんの僅かな時間でどうして居間が巣になっているんでしょうか?

 見覚えのないソファーはおそらく寝具であろう布と枕の代用品と思われる服を丸めた塊。テーブルに置かれたパンと水筒。乱雑に散らばった本。床に置かれた魔導灯。


 コレ、片付けたらニューが叱られるんでしょうか?



 それなんて理不尽!



 ニューの今回の旦那様は自殺志願者ですか!?

 ええ。

 ええ。

 ニューは負けませんよ!



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