第3話 未来への希望


「ノベルさん! お願いします! 俺たちを弟子にしてください!」

「お願いします!」


 そう言ってきたのは新人冒険者のカナトとシラハ。私たちは今、ギルド会館の食事処にいる。

 

「前にも言ったけど、それはできない相談だ」

「どうしてですか!?」


 どうしてって言われても。私は人に教えるほど強くもなければ、口上手でもない。あの時はギルドからお願いされて仕方なくだったし。


「私は弟子を取れるような器じゃないんだよ」

「じゃ、じゃあ、せめてパーティーを組んでくれませんか? 教えてくれなくていいです。近くで学ばせてください!」


 カナトは真剣な眼差しで私に訴えてくる。その言葉に胸が熱くなる。こんな私なんかにそう言ってくれるのは嬉しいけど、彼らを立派な冒険者に育てる未来を想像できない。


(まあ、パーティーを組むくらいならいっか……)


「いいよ。パーティー。組もうか」

「そこを何とか! ――えっ!? いいんですか!?」


 カナトとシラハは両手を合わせて喜んだ。


「うんいいよ。でも条件がある」

「なんですか?」

「私たち三人だと全員後衛職だからバランスが悪い。もう一人、前衛アタッカーが欲しい」


 私もカナトもシラハも後衛職の魔法使い。魔物の気をひきつけるタンク役が欲しい。


 シラハにはサポーターで動いてもらえれば、最低限のパーティーとして機能するだろう。


「それなら大丈夫です! ノベルさん、俺は魔法剣士を目指してこの一年間、剣技の特訓をしてきたんです!」

「魔法剣士!?」


 カナトの発言に私は驚きを隠せなかった。


 魔法剣士は魔法と剣術を組み合わせた戦闘スタイルのこと。魔法の力を武器や防具に宿して、物理攻撃力や防御力を向上させたり、炎や雷などの属性を纏ったりできる。


 それには高い知識や技術を持って、たくさんの努力をしなければならないし、誰でもすぐにできることではない。魔法と剣技のバランスを取りながら戦う必要がある。


 私はカナトに質問をする。


「どうして魔法剣士なんだい? 普通に剣士や槍術士じゃダメなのかい?」

「一年前、アリアさんが変わったバークベアーを討伐した時に感じたんです。魔法が通じない相手に遭遇した時、もう一つ自分の武器が欲しいと」


 確かにあのバークベアーは強かった。カナトも自分の魔法が通じなかったと思っているようだが、それは私も同じだ。ギルドの見解としては、魔族の魔力が魔法防御力を底上げさせたのだろうと言っていた。原因は未だに調査中とのこと。


「自分の武器を増やすことはいいことだよ。自分で決めたことなら私は否定はしない。けど、中途半端にはしないこと。どんな力も極めなければ真価を発揮できないからね」


「もちろん分かっています。魔法と剣技を極めて、この街で一番頼られる冒険者になります!」


「クスッ」

「なんだよシラハ!」

「あははっ。ごめんごめん、笑うつもりはなかったんだけど、なんだかおかしくて」


 二人のやり取りを見ていると昔のことを思い出す。私にもこうやって笑い合える友がいた。彼らはもうこの世にはいないけど。


「二人の関係、羨ましいな」そう、自然と口から溢れてしまう。


「何がですか?」とシラハが聞いてくる。

「いやぁ、ごめん、何でもないよ。忘れて」


「じゃあ、さっそく依頼を受けようぜ! 俺の剣技を見せたいです!」


 私は魔法一本でやってきたから、剣のことを聞かれても分からないしな……。あの人に聞いてみるか。


「少し待ってて」と言いながら私は席を後にした。


 そして、私は依頼を見ていた一人の男性に話しかける。


「ちょっと今いいかな?」

「おう? ノベルじゃねぇか。ガッツしてるか?」


 その男性は戦闘基本訓練の大剣の指南役をしていた経験がある『ガッツ』という男。ピンク色のモヒカンヘアーが特徴的なムキムキの大男で、百八十センチ以上の身長と筋肉を活かし、相手に重い一撃を放つことができる。

 装備している鎧のプレートはしっかりと身体に沿い、動きやすさを損なうことなく、彼の身体の輪郭を美しく際立たせていた。「ガッツ」が口癖の変わった人だが、実力は確かだと思う。


「実はかくかくしかじかで」

「それはガッツだな! 俺で良ければいいぜ!」


 そして、ガッツと一緒に二人の元へ戻った。

 

「お待たせ」

「おう! 剣の腕前を見てほしいっていうガッツのあるやつはどいつだ!?」


 カナトは手を上げながら「俺です!」と元気に答えた。

 

「おう、小僧かっ! 剣を扱ってどれくらいになるんだ?」

「一年ちょっとです」

「おっけーい! それじゃあ、魔物討伐の依頼を受けながら、小僧の剣の腕前を見せてもらおうか!」

「はい! よろしくお願いします!」


 こうして、私たちは四人で魔物の討伐に出掛けることになった。


「よし、ここが『守護騎士』が出てくる城跡だ! 城の宝を盗みにくるやつを守る守護者だぜ! 剣の特訓にうってつけの相手だ。さぁ、ガッツを見せてくれよ!」

「はい!」


 私たちは古びた城跡に来ていた。そこには剣を扱う守護騎士という危険度二の魔物がいる。城に近づかない限りは魔物から攻撃を受けることはない。


 昔、城を守っていた兵隊たちの思念が甲冑に宿り魔物になったという噂がある。


 カナトは守護騎士とタイマンをはり、ガッツが後ろで見守るという。


 私とシラハは少し離れた場所で待機をしている。私、来る必要あったかな?


 そんなふうに思っていると、シラハが私の頭を指を差しながら声を掛けてくる。


「その花の髪飾り、可愛いですね! どこで買ったんですか?」

「あー、これね。昔、ある人がくれたんだ」


「いいなー。その花は何て言う名前なんですか?」

「この花は『ストアイレチア』と言って複数の花を交配させて生まれた花だよ。昔は新種って盛り上がっていたけど、今は珍しいものでもないかもね」


「そうなんですね! でも私は聞いたことないです。花言葉とかあるんですか?」


『ストアイレチア』とは繊細なアイビーの葉が花の周りに絡みつき、優雅に広がるような姿を持つ花。その花びらは、夕暮れ時に輝く星々のような光を放ち、優しい香りが漂わせる。一本の茎から多くの花が咲き誇り、その姿はまるで未来への希望を象徴するかのようだ。そしてその花言葉は――


「『永遠の未来』と『輝かしい愛』だよ。私たち人間の寿命は四十歳くらいでしょ? だから、少しでも長く生きられるように。ってくれたんだよ」


「素敵な花言葉ですねっ。おばあちゃんから、昔の人は八十歳まで生きてたって聞いたことあります! 今約半分しか生きられないなんて辛いですよね」


「昔ってもう数百年前の話らしいよ?」


 八十歳まで生きていた時代があったかもしれないとされているだけで、その確証はない。

 そして、なぜ長生きだったのか誰も説明ができない。

 研究者の間では、昔の魔道具の技術がとても高く、今よりも文明が発達していたと言う人もいれば、争いが少なかったから、魔力の消費を抑えられたと言う人もいる。どちらにせよ今の時代では考えられない。


「そんな時代があったかもしれないし、なかったのかもしれない。それが分からないからいいんですよねっ。その時代はどんな生活を送っていたのかとかを想像するのが楽しいんです」


 そう言ったシラハの表情はなんだか嬉しそうだった。私はあの人が天国に旅立ってからは、過去について考えることは辞めている。理由はあの時の出来事を思い出してしまうから。


「そっか。シラハはなんで冒険者になったの?」

「私ですか? うーん、カナトが一緒に冒険者になって冒険しようって言われたからですかね?」


「そうなんだ。目標はあるの?」

「私に目標とかは……考えたことなかったですね。今はカナトを支えられたらいいなぁって思ってます」

「そうなんだ。応援してくれる人が側にいるって嬉しいことだよ。カナトは幸せ者だね」

「えへへぇ。そうだと嬉しいなぁ」


 私たちはそんな、なんてことない話ばかりを続けていた。


 そして、夕日が沈みだした頃、カナトとガッツさんは修行から戻ってきた。シラハはカナトに「お疲れ様」と声を掛けてタオルを渡した。


 私は二人を微笑ましく見ているガッツさんに声を掛ける。


「どうだった?」

「おう! なかなかいいガッツだったぜ! 身長と剣の大きさが合っていないから安定はしてなかったな。少し短くて軽い素材の剣に変えるか、全体の筋肉をつければいいと思うぜ! いい弟子を取ったな!」


 ガッツさんは親指を立て、歯を見せながら笑った。


「いや、弟子を取ったつもりはないよ?」

「お? 弟子じゃねぇのか。まだあの件を引きずってんのか?」

「どうだろうね。でも、今はそんな気分にはなれない」

「そうか。いつかお前にもそんな日が来るといいな」

「だね」


「よーし、小僧たち! 修行の後は飯だ! 飯を食いに行くぞーーっ!」

「わーい!」

「やったー! 俺、腹ペコだよぉ」


 シラハやカナトみたいな、将来有望な若い冒険者たちが、これからの未来の希望になることを祈る。 

 そして、いつか魔族との戦いが終わり、戦いの中で傷つく人がいなくなればいいな。


 こうして、私たちは街に戻るのであった。

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