第3話 夢見る少女と入学試験


「はい。では試験頑張って下さいね」

「うん! 頑張る!」


 アリアは受付のお姉さんから、名前と試験番号が書かれた名札と数種類の書類を受け取りました。

 

 今日は待ちに待った入学試験当日です。試験を受けるため、アリアは冒険者育成学園へと向かいました。


 ー数時間後ー

 

 筆記試験を終えたアリアは実技試験の会場に来ていました。


 そこでは数メートル離れた場所から的に向かって魔法を撃ったり、剣やハンマーなどを持った人は、カカシに向かって攻撃をしていました。


 これからアリアは魔法の実技試験に挑みます。


 数分並んで待っているとアリアの名前が呼ばれました。アリアは返事をして白線の上に足を乗せます。


「では、どんな魔法でも構いません。あの丸い的を壊して下さい」


「分かりました!」


 女性試験官の言葉に元気よく返事をしたアリアの背後から黄色い声援が聞こえてきました。


 アリアは振り向くとそこには剣術試験を受けるメルジーナがいました。


「さすがメルジーナ様! 華麗な剣捌き!」

「憧れるぅ!」などの声が上がっていました。その声にメルジーナは手を振って答えました。


「メルジーナちゃんだ! かっこいい! 私も頑張ろうっと!」


 アリアは杖に魔力を集中させます。


「えいっ!」


 アリアが放った小さな光の玉はユラユラと揺れながらゆっくり的の方へと向かって行きました。


 そして、的に直撃して見事に破壊してみせました。


「やったー! 成功したー!」


 アリアは小刻みに飛び上がり全力で喜びました。


「はい。ありがとうございます。次は剣術の試験になりますので、後ろにお並び下さい」


「はーい! えへへっ」


 練習の成果が出たアリアは、満面の笑みを浮かべていました。


 言われた列に数分並んでいると、アリアの番がやってきました。剣術試験は木刀でカカシを切るという簡単な試験でした。


「では、この木刀で好きに攻撃して下さい」


 男性試験官からアリアは木刀を預かりました。


「これを壊せばいいんだね! よーし!」


 そして、力任せに木刀を振り下ろすと、地面に響く音はまるで轟音のようでした。周囲の空気が震えるほどの威力を感じさせます。アリアの一撃はカカシを支えていた土台さえ破壊してしまいました。


 その破壊音でアリアに注目が集まります。手に持っていた木刀の剣身も折れていました。


「えへへっ! やっちゃった!」


「なにごと!?」

「あれだ!」

「ど、土台まで……。なんて威力だ……」


 三十代半ばくらいの襟足の長い男性試験官が拍手をしながらアリアに近づいてきます。


「剣術……とは言えないが凄い威力だ。どうだい? ギルド警備隊の戦闘員をやらないか? 給料は補償するぞ」


「ギルド警備隊って何するの?」

「紹介が遅れたね。私の名はシューク。『王室近衛騎士団第六室 頭領カルベリオ・グラッサ様』に仕える者。頼まれて剣術の実技試験官も担当させてもらっている。そして、ギルド警備隊の戦闘員のスカウトも同時にやっている者だ」


「長くて良く分かんないけど、なんとか騎士団ってなーに?」

「ながっ!? くっ。まあいい。王室近衛騎士団とは……」


 シュークはアリアに王室近衛騎士団とギルド警備隊の説明をしてくれました。


 シュークの説明では、王室近衛騎士団は王族と国を守るために結集した貴族が各室の頭領となり、力を合わせて王国の安全を確保しています。

 彼らは高度な戦闘技術を身につけ、王国の安全を最優先にし、常に警戒態勢を保っています。


 そして、王室近衛騎士団は、第一室から第七室までの七室で構成されています。数字が小さいほど、その室の騎士たちの戦闘力が高く、王族との距離が近い。国の平和を守るために力を尽くしています。

 

 また、その下にはギルド警備隊が配置され、彼らは国民の安全と国の治安維持のため、王室近衛騎士団の補佐として平和を守る役割があるそうです。


「んー、なんとなくは分かった!」

「そうか、良かった。急ぎではないから返事は君が入学した時に聞きに来るよ」

「分かった!」


「ところで話は変わるが、その服、もしかしてどこかのご令嬢かい?」

 

 男性試験官はアリアの服を見て、そう言いました。アリアは否定して話を続けます。


「これはママのお下がりだよ? 私はただの田舎者だよ?」

「そうかい。引き止めて悪かったね。引き続き試験頑張れよ」


 アリアは「うん!」と大きく頷きました。男性試験官はそのままその場を離れました。


 ー数時間後ー


 残りの科目を終わらせたアリアは、依頼を受け、ギルド会館で報酬を貰っていました。その帰りの出来事です。


 背後から低い男性の声で声をかけられます。


「なぁ、お嬢ちゃん。ちょっといいかい?」


「なーに?」


 アリアは立ち止まりその方向を向きます。


「実技試験、見てたよ。君強いね、俺らのクランに来ないか?」

「クラン?」


「クランは、一定の目標や共通の利益を持つ人々が集まって結成されるグループやチームみたいなものだ。俺らのクランは主に依頼をこなして人助けをしているんだ」


「興味はあるけど私、入学試験受けたばかりだからなー」

「学費を稼ぐためにクランに所属している生徒はいるし、信頼されるクランだと、ギルドの方からいい仕事を斡旋して貰えるから少し得なんだ。まあ、今すぐ返事をくれとは言わないさ」


「分かったー! 考えておくね!」


 アリアがそう言うと、その男は名刺を渡してきました。そこには『クラン名:支援の拳』、『クランリーダー:ゲッカイ』と書かれていました。


 アリアは胸ポケットの中にしまい、その場を後にしました。


 そして、数日が経ちました。


 今日は四月初旬、待ちに待った入学試験の結果が出る日です。


 アリアは発表場所の冒険者育成学園に来ていました。三つの掲示板には『推薦教室』、『戦闘教室』、『勉学教室』の三種類あり、それぞれ合格者の番号が振り分けられています。


 勉学教室は経営や科学、歴史などといった広範な分野を学べる教室です。戦闘には不向きな人たちが将来、街や国のために働きたい人向けになっています。二年生に上がる際に自分の希望する専門科に進みます。基本的には戦闘訓練は行わない教室です。


 戦闘教室はギルド警備隊や冒険者に必要な戦闘訓練や魔物の剥ぎ取りの仕方などの基本動作を勉強します。二年生に上がる際に自分の希望する専門科に進みます。基本的にはギルド警備隊やクランなどに所属してお金を稼ぐことになります。


 最後の推薦教室は学園長と貴族を始め、国の偉い人が生徒を推薦していきます。王様の許可が出たら入れる特別な教室です。推薦枠なだけあって、エリート揃いです。


 そして、勉学教室と戦闘教室と違い、希望する専門科がなく、全ての科目を勉強します。学生は三年で卒業ですが、推薦教室を卒業するだけで大変で、卒業前に脱落する生徒が多数います。


 しかし、推薦教室で卒業すると、条件はありますが王様から爵位が付与されるという特典があります。爵位が付与される条件は、王様が選んだ七人の貴族が所持している『爵位推薦バッジ』を七つ獲得することです。バッジを渡してくれる条件は人によって様々です。


 アリアは魔法科で勉強したいので、戦闘教室の掲示板を見ました。  


「ない……。私の番号がない! そんなぁぁぁっ!!!」


 アリアの番号はありませんでした。アリアは落ち込みました。私の旅はここで終わりか……と……。


 しかし、ダメ元で推薦教室の掲示板を見に行くと……。


「え? 私の番号!? ――合ってる! あった! やったーーっ!!!」


 なんと、そこにはアリアの番号があったのです。


 誰かがアリアを推薦してくれたことになります。


 もちろん、その推薦を断ることもできます。その場合は、好きな教室に行くことができますが、アリアはそんなことは知りません。


 アリアは喜んでその場ではしゃいでいました。数分経って冷静を取り戻すと、森の中へ向かい修行を始めました。


 明後日から学園生活が始まります。夢見る少女の冒険は、一度終わりを迎えました。母親との約束を果たすため勉学に励みます。再び旅立つその日まで。

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