第2話 夢見る少女、裏取引きを阻止する
「誰にもバレずに来たか?」
黒髪ショートの少女にスキンヘッドの男がそう問いかけます。
「はい……」
少女は掠れた声でそう答えました。
路地裏は、高い建物によって覆われ、日光があまり届かず、薄暗い空間となっています。昼間の時間は周りのお店は賑わっていて声は届きません。
突然、木箱の上に座っていた、もう一人の赤い色のモヒカンの男が声を荒げて言います。
「なら、ブツをはよーだしてもらおかー? かあちゃんたちに会いてーだろ?」
「ほ、本当にお母さんと妹を解放してくれますか?」
少女は怯えた声でそう尋ねます。
「それはお前次第だ。あの方のことだからな、早くしねーと命の保証はできねーぞ? 俺たちもなかなかお会いできねーからな。モタモタしている間に……な? ケヘヘ」
少女は固唾を呑みその場で固まってしまいました。
「おらっ! 分かったならさっさと出せよ!」
「は、はい!」
少女はカバンの中から、緑色をした筒状の魔道具を取り出してモヒカン男に渡しました。
モヒカン男は魔道具を見つめ、恐れと興奮が入り混じった表情を浮かべました。そして、手招きするように少女に命じます。
「見たことがねーな。おいお前、魔力を込めて試してみろ」
「は、はい……」
少女がその魔道具に魔力を込めると、筒から白い煙がポワーッと出現しました。その煙は空へモクモクと何かを形成しながら天まで上がりました。
「くっくく。何だありゃ、何のために作られた魔道具だよ!」
スキンヘッドの男は小さく笑いながらそう言いました。
「どんな魔道具にも使い道はある。白い煙が空を目指すなら、密閉されたところで使えばどうなると思う?」
「お部屋が真っ白になる!」
「正解だ。これを使えば、目眩し程度にはなるだろう。ん? ――誰だお前!?」
「私? 私はアリアだよ!」
「いつからそこに!?」
モヒカン男の問いかけに答えたのはアリアでした。アリアはモヒカン男たちの目の前にいました。
「最初からいたよ? ニワトリのおじさんは目を瞑りながら話てたし、ツルピカの人はトサカを見てたからこっちには気づかないかなーって」
「おい! 何やってんだ! ちゃんと魔力探知をやれって言ってるだろ!?」
「あ、あれー? お、おかしいなー。ずっと魔力探知はやってたんだけどなー」
モヒカン男はスキンヘッドの男に怒鳴りつけました。
そして、冷静を取り戻し「まあ、いい」と切り出します。
「アリアと言ったな。俺らはギルドも泣き出すハンターだぜ? 取引を見たからには生きて帰れると思うなよ?」
「そうなの?」
「そうだ。良かったな。若い内に裏の世界のお勉強ができて。教えてやるぜ、俺たちハンターに逆らったらどうなるかをな!」
二人の男が戦闘態勢を取ったその瞬間、後方から『そこまでよ!』という声が響き渡りました。その瞬間、全員の視線がその方向に向けられました。
「次は誰だ!?」
「あ、あの女は! ギルド警備隊の!」
スキンヘッドの男が指差した方向には、1人の少女が立っていました。
その少女は赤髪のツインテールで、可愛い顔立ちをしています。ルビーのように情熱が漂う、凛々しい目をしており、軽くて動きやすそうな鎧を纏っています。
腰に並んで垂れ下がる二つの鞘が、その独特な存在感を際立たせています。左腰には鋭く細身の剣、右腰には力強い太刀の鞘が収まっており、そのバランスの取れた姿勢が彼女の剣士としての熟練を物語っています。歩くたびに鞘同士がわずかに触れ合い、金属音を響かせ、存在感をアピールしています。
「さぁ、そこのハンターたち! もう観念なさい!」
「な、なんでギルド警備隊がここに!? 貴様、通報したのか!?」
ハンターの二人はアリアに疑いをかけます。
「私? 何もしてないよ?」
「じゃあなんでギルド警備隊が来るんだよ! この時期、この時間は警備が手薄のはずだ!」
「確かに手薄になってるけど、全くいない訳じゃないわ。フードの男性がこっちで少女が攫われているって教えてくれたの。それに、空に『助けて』って煙が上がってたから気になっていたしね。次期に仲間も来るわ。もう諦めなさい」
「さっきの煙はそういうことだったのか。だが、諦めるのはお前たちだ! なんせこっちには人質がいるんだからな!」
モヒカン男は言い終えると、少女を羽交締めし小型のナイフを突きつけました。
「きゃっ!」
「さっすが兄貴! やることが卑怯だぜ!」
「人質を取るなんて卑怯よ!」
「はっはっは。そう褒めるな。警備隊の女ぁ、動くなよ? さぁ、アリアとやら、武器の杖をこっちに渡せ」
赤髪の少女の声は届きませんでした。
アリアは背負っていた杖を手に取り、少し見つめて答えます。
「いいよー!」
「ほら、早くしろ。こいつの命はねぇぞ!」
「はいどうぞ」
アリアは杖を思いっきり投げました。
「グエッ」
「ヒェ」
アリアが投げた杖はモヒカン男に直撃し、そのまま倒れ込んでしまいました。
「あ、兄貴!?」
スキンヘッドの男は倒れた男を心配し、駆け寄ります。
「ナイスだわ!」
赤髪の少女はそれを好奇と捉え、剣を抜刀しスキンヘッドの男に剣の先を向けました。
「ひぃぃっ!!! い、命だけは助けてくれぇぇっ!」
「失礼ねー、私たちは命まで取ったことないわよ」
赤髪の少女は剣の先をスキンヘッドの男に向けたまま、捕らえられていた少女の手を取り、「もう大丈夫よ、こっちへおいで」と優しく誘導します。
「うん!」
そして、二人は距離を取りました。その間に、アリアは自分の杖を取りに行っていました。
「杖、もういいかな?」
「お、おう」
男に確認を取ったアリアは杖を取り戻しました。
「かかったな!」
「んん?」
スキンヘッドの男は小型のナイフでアリアに襲い掛かります。
「えいっ!」
「グォッ」
アリアは迫り来るナイフを片手で受け止め、杖で顎を強打させました。すると男は後ろによろけながら倒れてしまいました。
その後、ギルド警備隊の仲間が現場に駆けつけてきました。赤髪の少女は倒れ込んだ二人の男の身柄を引き渡して、その場を後にさせました。
「ありがとう、メルジーナお姉ちゃん」
「どういたしまして。私のこと知ってるんだぁ」
「うん。メルジーナお姉ちゃんは有名だから知ってるよ。優しくて強いって」
「えへへっ! 強くて優しくて可愛いだなんてぇ、褒めすぎだよぉ!」
「う、うん」
そんなやりとりをした後、少女のお母さんがお迎えに来て、二人はお別れをしました。
メルジーナと呼ばれた赤髪の少女はアリアに声を掛けます。
「あの子を守ってくれてありがとう! 本当に助かったわ! 私はメルジーナ。――メルジーナ・ガーネットよ。あなたは?」
「私はアリア・ヴァレンティンだよー!」
「アリアさんね! よろしく!」
「メルジーナちゃんよろしくね!」
メルジーナはそう言うと、アリアに近づき話を続けます。
「ねぇねぇ! 見たところアリアさんって私と年が近いと思うんだけど、冒険者育成学校に通うの? それとも通ってるの?」
アリアはメルジーナに今年の試験を受けるということを伝えました。すると、メルジーナは既に試験に合格しており、冒険者育成学園に通うことを教えてくれました。二人は合格してまた会おうと約束をしてその場を後にしました。
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