第7話 夢見る少女と新たな地方とお祭り


 異様なバークベアーを討伐して半年の月日が経ちました。アリアはシャマルティス地方を越え、セントシュルト地方の富豪の街、シュルトシティにやってきました。


 目の前には見慣れないマンションや大型のショップが並んでいます。アリアにとっては初めての光景です。


「わーっ! ヒドゥンタウンよりいっぱい建物があるー!」


 アリアは色んな場所を見て回った後、ギルド会館へと向かいました。今からグラハナシルト冒険者育成学園の入学手続きをするのです。


 アリアはすぐに受付へと駆け寄り、元気な声で「冒険者育成学園の手続きをしたいです!」と言いました。


 受付のお姉さんは複数枚の資料を取り出してアリアに見せました。


「どちらの冒険者育成学園を受験されますか?」


 お姉さんの質問にグラハナシルトの資料に指を刺して、「こっちの王都の方!」と答えました。


「はーい! では、冒険者カードのご提示と試験代の百五十クオンのお支払いをお願いします」


 アリアは冒険者カードとお金が入った袋を取り出してお姉さんに渡しました。


「では確認させて頂きますね」


 受付のお姉さんが袋を確認した後、彼女の顔色が変わりました。


「あのー、百五十クオンですよ?」

「ん? 私、お金の見方分かんない!」


 メディの心配した通り、アリアはお金の使い方が分かっていません。ジュニアスクールで計算自体は習うので、計算はできますが、お金を持つことが初めてなので、どの数字を見るかが分かっていません。

 

 円形で七色に光るクオンの中心には数字が書かれています。それの合計が百五十になるように渡せばいいだけですが……。


 受付のお姉さんは困った表情を見せました。その反応は至極当然です。そのまま苦笑いをして机にお金を並べました。


 そして、五分ほどの時間を使い、お金の単位の見方や計算方法を分かりやすく教えてくれました。


「お姉さんありがとう! 分かりやすかった!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。この大金は何をして稼いだんですか? あと、冒険者カードを提示して手続きが完了しましたのでお返しします」


「お金はママがくれた! ありがとうお姉さん! またねーっ!」

「はーい。足元に気をつけてくださいねー。――今子どもはお金持ちの家庭が多いのかしら? 王都で家を買えるほどの大金だったわ」


 お姉さんに別れを告げた後、アリアは三つの依頼を受けました。報酬金額の合計は百六十クオン。今日支払った金額を取り戻すつもりのようです。


 そして、数時間が経ちました。


「三件の依頼の達成を確認しました。こちらが報酬です」


 全ての依頼をこなしたアリアはギルド会館に戻っていました。報酬を受け取った後、アリアは思っていたことを口にしました。


「さっきと違ってお外が賑やかになってるねー。何かあるの?」


 アリアの質問にお姉さんは優しく答えてくれます。


「えぇ。一昨日からこのシュルトタウン七周年をお祝いしたお祭りをしているんです。お時間があれば見て回ってきたらどうでしょうか? 君の年齢ではカジノとかは出来ないけど、たくさんの美味しい屋台がありますよ」


「お祭り初めて! 教えてくれてありがとう! 行ってきまーす!」


「ここを出て右の大通りに行ってくださいねー!」

「はーい! バイバーイ!」


 空は闇に覆われるこの時間。アリアは言われた順路でその大通りにやってきました。


「うわーっ! 人がいっぱーい! キラキラがいっぱーい!」


 祭りの提灯や屋台の照明の光がシャワーのようにアリアの目に降り注ぎます。


「そういえばお祭りって何をすればいいんだろう?」


 アリアは本格的なお祭りに参加するのは初めてです。地元は田舎すぎて、屋台という文化が存在しないからです。


 メディからお祭りは楽しい行事とか聞いているが、いまいちピンときていなかった様子。


 アリアはその光の先へ向かうと、一人の男性が複数の人に囲まれているのを発見しました。


「応援してます!」

「シュルトさんこれからも頑張って下さい!」

「もう七周年! シュルトさんが市長を続けてくれるならこの街も安泰だ!」などなど、シュルトという人物を称賛する人々の声が聞こえました。


「皆さん、応援ありがとうございます。皆様の支えがあって今の私がいます。この街の方々の笑顔を守れるようこれからも努力いたします」


 そう言ったのは、丸みを帯びたフォルムで、金髪で短めのツーブロックヘアーの男性でした。ちょび髭を蓄えており、優しそうなオーラが滲み出ています。


 この男性こそがこの街の市長であるシュルト・レヴァルンその人です。


 アリアはシュルト市長に近づいて「おめでとうございます! これからも頑張ってください」と伝えました。


 アリアに取っては、みんながそうしているから『自分も!』という感じです。


 そしてシュルト市長は、アリアの目線に合うように腰を下ろしました。


「ありがとう。――お嬢ちゃんはこの街は好きかい?」とアリアには街の雰囲気について尋ねました。


「この街に来るのは初めてだけど、キラキラしてて楽しい! 好きな雰囲気だよっ!」

 

 アリアが冒険者であることを知ると、市長は小さな子供でもこの街の雰囲気が伝わっていることを喜びました。


 アリアはグラハナシルト冒険者育成学園に向かうことを伝え、市長はトレインを利用することを勧めます。アリアはその提案に感謝し、お祝いの言葉を述べて去りました。


「君の旅に幸あれ」とシュルト市長は呟き、一人の少女が街を出るまで見送りました。

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