第9話 長いもので貫かれて

 翌日の土曜日。


「も、もうダメです。堪忍してください! あうっ!」

「痛いか? 初めての時はみな痛がる。さあ、お尻の力を抜いて。そら……」

「……んん、……はあっ!」


 下半身から背筋に電流が走り抜ける。刺された後グイっと深く押し込まれる。未知の痛みが脳天に突き抜ける。


「動くからだ。すべてを私に任せて辛抱しなさい。すぐ終わるから」

「先生……。ああ、先生、ダメ……」


 いったいどんな宿命を背負って生まれたのだろうか。先祖がどんなエッチな罪を犯したというのだろうか。親の因果が子に報い……。昨日は保健室ですっぽんぽんにされ、もてあそばれた。今日はここで……。


 業界でも有名な先生だと言う。妥協も容赦もない人だとも聞いた。そんな先生にショーツ以外すべて脱ぐようにいわれうつ伏せになった。はじめは大きなバスタオルに覆われていたが、今はそれも剥がされ、ショーツもお尻の割れ目が半分見えるくらいまで降ろされている。もちろんそこはバスタオルで覆われているのだが。


「あっ! 先生、そこは……」

「深く入るぞ。覚悟して」

「ダ、ダメ! うう……」


 枕に敷かれたタオルが涙を吸い込んで濡れている。痛いことは痛いが、すべてを委ねて身体から力を抜いていれば耐えられると、経験済みの友達は言っていた。しかし想像していたモノとは痛みの質が違った。想像をはるかに超えていた。考えてみれば、こんなに長いものを刺されるのだ。痛くないはずはない。


「はい、じゃ、そのまま力を抜いて、7分だけ横になっていなさい」

「は、はい……。ありがとうございます」


 どうやら最後の一本が終わったようだ。痛みの峠は過ぎ去ったらしい。はりに流れる電流が、私のつっぱった神経をピクピクピクピクとほぐしてくれる。全身が心地よく火照ってくるのを感じる。


 仕切りの向こうの患者さんはお灸を使っているのだろうか。仏壇に供えるお線香に苦みを溶かしたような香りが漂ってくる。


 桜坂の王子にもらった名刺には「サンライズ鍼灸院しんきゅういん」とあった。愛光園の職員さんが「ああ、ここね」と言って、すぐに電話し予約を取ってくれた。養護施設のお子さんなら無料で治療させていただきますとの厚意を受け、今私はここに横たわっているのだった。


 しかしここは鍼灸院ではない。普通のマンションの一室。今日私を治療してくださっている先生はもう七十は過ぎているだろうか。豊かな白髪をオールバックにして白いワイシャツにえんじ色のネクタイ。その上に清潔な白衣。スラックスにもしっかり折り目が付いている。鍼灸師さんってみんなこんなに紳士なのだろうか。サンライズ鍼灸院のほうは息子さんに譲り、ご本人は自宅の一室で患者を診ているのだと説明してくれた。先生の腕を知った患者が、遠くからこんな田舎町まで電車を乗り継いで来ると聞いている。週末はボランティアで養護施設のご老人を中心に治療なさっているらしい。


「愛光園で、いま高校生……」


「はい。一年生です」


「自立のことを考えると心配な気持ちはわかるが、焦ってはいけない。キミの躰は疲れがたまると腰に来るようになっている。元々血行が悪いようだ。下手したら不妊にもなりかねない。アルバイトは自分の躰と相談してやりなさい。睡眠時間もしっかり取って」


「はい」


 うつ伏せの姿勢で先生のお顔が拝見できないのが残念だ。治療前に脈を診ていただいた時、学識の深さと人間的な優しさが滲み出ているお顔を見つめてしまったのだった。


「私の顔に何かついているのかい」

「あ、すみません。そうじゃなくて……」


 先生の静かなトーンに対し、私があまりにも慌ててしまったものだから、ほほほと声を出して笑っていた。笑顔に愛情といたわりが溢れていた。鍼を刺される前だったから一層優しく見えたのかもしれない。


「孫も高校生でねえ……。えーと、何年生だったかな、ミツエさん」


 名前で呼ばれた女性のほうは50代だろうか。白いものが混じり始めた髪を染めることもせず、上品に短くカットしている。動きやすいようにボトムはブラウンのパンツで、スマートな体躯に白衣がとてもよく似合っている。先生の助手をしているらしい。手元の鍼がとても長く見えた。まさかあれが私の躰に入るのだとはそのときは全く想像していなかったのだけど。


「あら、ついこの間じゃなかったですか。合格したよって、詰襟着てあいさつに来たの。一年生ですよ」

「ああ、そうだった、そうだった。同じ高校じゃなかったかな」

「えーと、どこでしたかねえ。湖東だか、湖南だか……」


 話の内容からすると、ミツエさんは先生の奥さんだ。先生が老けて見えるのか奥さんがお若く見えるのか。私の見立て通り先生が70代、奥さんが50代だとすると、ずいぶんな歳の差夫婦になる。


「詰襟なら湖南です。私と同じ」


 鍼の刺さっているところに響かないように小さな声で言う。


「そうか。じゃあ、キミで決定だ!」


 よかったよかった、と言って何やら一人で喜んでいる。うつ伏せだから先生の表情が見えない。え?「キミで決定」ってなんのこと?


「あらあら、本人の意志も聞かないうちに、先生ったら……」

「いやいや、こういうことは本人どうしより、意外と周りの目の方が確かだからねえ……」


 ミツエさんも上品にコロコロと笑っている。とても嬉しそうだ。


 「キミで決定」と言われたのだから、二人の喜びに私がかかわっているのは確かなのだけど、どうも話の筋がつかめない。そんなことよりも、私の関心は同じ高校に通っているというお孫さんのことに集中していた。こんなに紳士な先生と上品なミツエさんのお孫さんなのだからきっと素敵な男子のはずだ。


 バイトは躰と相談してと言われたが、腰さえ治ればまたバイトを再開する心づもりでいた。お金も必要だけれど、今やバイトは生活のバロメーターとして定着しているから。自立へ向けた不安もある。これからの長い人生を親もなし親戚もなしで渡っていくことを考えると怖くて身がすくむ。そんな、ともすると崩れ落ちそうになる自分の精神は、学校とコンビニでの規則的な仕事があるからこそ保っていられるのだ。仕事は学校生活以上に生活にリズムを作り出す。音楽以上に確かなリズムを。


 ピーピーピーとパルス機器が治療の終了を知らせる。背中から臀部に刺さった鍼をすべて抜かれ、アルコール消毒されると、我知らず口と鼻から大きな息が漏れた。


「初めてで、緊張したみたいだな」おじいさん先生の優しい声が降ってくる。


「じゃ、今度は仰向けになってください」と事務的に告げるのはミツエさん。


「え⁈ 終わったんじゃないんですか」


 語尾の上がり方がえらく急になってしまった。隣の患者さんのフフフと笑う声が聞こえた。


「生理不順も直しておかないとね。先生に打ってもらうと、女性ホルモンが活性化して、お肌もきれいになるわよ。お乳にも打ってもらいましょうね。バストアップもしておかないと。そうそう、もう高校生なんだから、いつカレシができてもいいように、性感帯も開発しておかないと……」


「せ、性感帯……、ですか?」


 ミツエさんは「そうよ」と、目をギロッとさせて意味ありげに微笑んだ。


 肘をついて上体を起こし仰向けになる間、ミツエさんは躰をバスタオルで隠していてくれていた。ショーツがぎりぎりまで下げられ、バスタオルで覆われる。


 たくさんの鍼が入った。左右のデコルテに合計8本か10本くらい。恥骨のすぐ上からお臍のあたりにかけてやはり10本くらい入っているようだ。左右の鼠径部に深く刺された鍼がある一点に到達したとき、膣がプルプルっと震えた。子宮だったかもしれない。本当に性感帯が活性化しようとしているのだと実感した。


 ショーツなんてあってないようなもので、おじいさん先生にはすべて見られていると思う。でも恥ずかしくはない。だって、おじいさんだし紳士だし、職人気質しょくにんかたぎにじみ出ている方だから。


 それでも若い女の子がかわいそうだからと言って、ミツエさんは露出を最小限に抑えようと治療に支障のないぎりぎりのところまでバスタオルを掛けてくださる。


「養護施設で頑張っているから、これはご褒美だ」


 何のことかと思う間もなく、顔面に鍼が降りて来る。心の中で「うわーっ」と悲鳴を上げ、堅く目をつむる。


「眉をしかめるんじゃない!」

「はい!」

「ほっぺから力を抜いて!」

「はい‥‥‥。ぐすっ‥‥‥」


 泣きたくても鍼が刺さっているから泣けない。


 鍼は顔のあちこちに刺さっている。目頭のあたり、頬骨の下、鼻の下、顎……。こめかみにも‥‥‥。


「あら、いいわねえ。それ、美容鍼よ」とミツエさんの声。脇で目を細めているのが目をつむっていててもわかる。


 治療の後、待合室で少し休んでいくように言われた。


 待合室を兼ねた家庭の居室。畳にしたら12畳くらいあるのだろうか。まっ白の壁を縁取りするように本革のカウチソファーが置かれている。あまりにも大きいソファーなので、どこに座っていいのかわからず面食らう。


 カウチの反対側の隅にちょこんと腰を下ろす。


 その正面には壁掛け式の大型テレビ。その下のサイドボードや脇の棚には、日本だけでなく、どこかアジアの国々の工芸品が並んでいる。休暇には海外旅行を楽しむ夫婦らしい。


「あらまあ、そんな隅に……。こちらにいらっしゃいよ」


 お盆に湯呑茶碗を載せて入って来たミツエさんが、ソファーの中央に誘う。


「今日は。もう患者さんは来ないからゆっくりして行って」


 私の前に琥珀色の液体の入った湯呑茶碗が置かれた。


「半ドン?……ですか」


 初めて聞く言葉だった。


「あら、若い人はもう使わないのね、その言葉」


 ミツエさんは半休、つまり午前中だけ仕事して午後は休みになることだと説明してくれた。スマホで検索すると確かにそういう言葉はある。今まで使ったことも聞いたこともない言葉。そうか、お父さんお母さんがいて、お祖父さんお祖母さんがいるとこういう言葉を自然と覚えるんだ。


「どう、お味は?」


 高麗人参茶こうらいにんじんちゃなのだそうだ。琥珀色の液体をすすると苦みがきつかった。生臭い香りが鼻を突く。


「飲んでいるうちに慣れてくるわ。その味がおいしいと感じるようになるまで通っていらっしゃいね、いい?」


この渋い飲み物がおいしく感じられるまで。それはビールがおいしく感じられるまで、タバコを旨いと感じられるようになるまでよりも遥かに長い期間に思われた。私がミツエさんぐらいの歳になるまでかもしれない。


 本来は鍼灸院は治療費が高いことを知っているから、うなずけなくて困っていると、


「養護施設で苦労してきたんだから、たまには甘えていいのよ。私たち、あなたの味方よ。だから、ね?」


 隣に腰掛けたミツエさんは、私を下からのぞき込んでコクコクとうなずく。


「はい、ありがとうございます」


 本当にありがたくて、目頭が熱くなる。手が震えて来たから湯呑茶碗をテーブルに置く。


「今どきの高校生、とても素敵な下着、身に着けてるのね」


 ミツエさんがすっと話題を変えた。その気遣いが嬉しい。


「あ……、はい……」


 そうか、ミツエさんには下着がしっかりとみられている。


 昨日保健室でズタズタに切り裂かれたパンツの代わりに、フミカが、こういうのちょっと試してみたら、と言ってくれたものだった。面積の狭い紐ショーツ。布地からヘアがうっすら透けて見えるちょっとエッチなやつ。色違いで3枚。放課後にトイレでスカートをめくりあげ、このみちゃんと見せ合いっこしたのだった。


 昨日保健室でフミカはこう言った。


「このみにはカワイイ系。サキにはもっと大胆なヤツ。男のアレをピーンとたせちゃう過激系を考えてるの。だってアンタのおっぱい、手のひらサイズのくせに、こんもり高く盛り上がってるでしょ。揉んでみたら繊維がぎっしり詰まっているって感じだった。乳首だって小さいくせにツンと上向いてるし。今はまだ小ぶりだけど、開発したら素晴らしいバストになるわ。それにビーナスの丘もこんもりとしてる。それって男が夢中になる体型なのよね。がランジェリーでばっちりサポートしてあげるから」


 傲慢で冷淡に見えたフミカは私の味方だと知った瞬間だった。しかし、「私たち」とは、いったい誰と誰のことなのだろう。


「でも、アンタ、血行が悪いわ。生理不順もあるでしょ。それ、マグロの可能性大よ」


「マグロ、ですか? お刺身の……?」


 その時の彼女のバカにしたような目つきが今でも脳裏に焼き付いている。


「不感症ってことよ。アンタ、そんなことも知らないの? 男にいくら愛撫されても布団にだらっと横になっているだけの女ってこと。一晩で捨てられる女。結婚して何度も浮気される女……」


 男子にはモテると自負していた。高く積み上げた自信感がガラガラ音を立てみごとに崩れ去った瞬間だった。


 そうか。機転が利いてかわいいというだけで男子は寄ってくる。でも、特定の男子とつきあうよになり肉体関係を持ったら、私は捨てられるのか。結婚しても幸せな家庭は築けない。


 マグロを改善したいと思った。処女でモテても何の役にも立たない。結婚して幸せになることが最終ゴールなのだから。


 昨日のフミカの話は私にとってなかなか考えさせられる話だったのだ。


「私もね、結婚したての頃、先生にお鍼とお灸をしていただいたの」ミツエさんが啜った湯呑を受け皿に置いて続けた。「それで、なんていうのかしら……。性感帯? 感度? それがすごく敏感になっちゃって。夜の生活がすごく楽しくなって……。フフフ、あなたの前だとどうしてこんな恥ずかしい話ができるのかしら。聞き上手ね、咲さんって」


 居室のベランダ寄りの隅に観葉植物の鉢が置かれている。その広い葉に隠れるようにしてスツール型の木製装飾台に何か仏像のようなものが置かれていた。高さ30センチくらい。よく見ると男女が対面座位で抱き合っている金属工芸品だった。


「ああ、あれね。あれ歓喜仏って言うのよ。チベット密教のセックスの仏様……。フフフ……。私たち、若い頃はあんな風にして毎日毎日セックスしてたわ」


 そんな話をするミツエさんの顔は歓喜仏の恍惚の表情に負けていなかった。


「あなたもお友達どうしでセックスの話したりするのかしら」


 ミツエさんが横からのぞき込んできた。興味津々のまなざし。年を取るほど若者同士のセックスに関心がいくという話は聞いたことがある。


「いいえ、私、そういうことは……」


 顔が火照ってくる。それを隠したくてうつむいてしまう。ミツエさんが、ほほほ、と笑う。


「セックスに偏見を持ったらいけないわ。オンナはセックスで幸せになれるのよ。子供もセックスで生まれる。本来なら、セックスは賛美されるべきものなのよ」


「賛美するんですか。それって褒め称えるってことですよね。つまり、セ……を」


 その言葉を言えずに私はどもる。心臓がドキドキしている。


「そうよ。褒め称えるの。セックスを。さあ、サキさんも言ってごらんなさい、『セックス』って」


 ミツエさんは私の手を握って覗き込んだ。至近距離で見るとミツエさんの眉毛は眉頭から眉尻まですっきりと伸びている。ミツエさんの歳になればいろいろなところが緩んで来るはずなのに、「線」が健在だった。角ばった顔ではない。どちらかというと丸顔だ。それでも目や鼻などのパーツの輪郭は細い「線」でできていてキビキビと動くのだった。今でも上品で素敵な人だけど、若い頃はかなりモテたに違いない。


「『セッ』……。だ、だめです。恥ずかしくて」


 うつむいて躰をもじもじさせてしまう。ミツエさんが私の手をしっかり握っているのが視界に入って来る。


「『セックス』って言うのよ。さあ、もう一度よ。勇気を出して」


 私は大きく三回ほど深呼吸をした。その間ミツエさんは私の背中を優しく擦ってくれていた。


「セ、セッ……クス」

「よく頑張ったわ!」


 唾液が乾いた喉に引っかかり私はむせてしまった。ミツエさんは、頑張ったのね、本当に頑張ったわ、と声を裏返しながら私の背中をさすってくれた。「セックス」と言うことがどうしてこんなに褒められるのかわからない。でもスッキリした細い線で構成された彼女の顔を見ていると、それは正しいことに思えてきた。


「じゃあ、ここは?」

「は?」


 ミツエさんの手が私の下腹部に置かれ、やっとリラックスした躰がまた緊張する。


「ここはセックスに必要なところよ」


 ミツエさんの手がむき出しの太腿に掛かり、それが少しずつ脚の根元に向かって這っててゆく。そして股間がすっぽり包まれた。


「ここはなんて言うのかしら? さあ、言ってごらんなさい」

「あ……」


 触られた所がモジモジしてきて脚を閉じようとするが、ミツエさんの手が置かれていて閉じられない。


 おかしい。いつもなら嫌悪感を感じるはずなのに、今日は触られて気持ちよい。ムズムズするような快感がそこから波紋になって広がって行く。


「うふんぁ…… 」


 指の先で押され、声が漏れてしまった。


 そうだ、鍼のせいだ。鍼を入れられ性感が開発されかかっているんだ。私はもうこれ以上声が漏れないようにくちびるをしっかり閉じてうつむく。ミツエさんの手が私のソコを振動を送り続けているのが見える。


「さあ、『セックス』が言えたんだから恥ずかしくないでしょ。さあ、ここは? あなたの躰の中で一番大切なこの部分はなんて言うの?」


袋小路に追い詰められる。


「そ、そこは……。ああぁあ……」

「『オマンコ』よ。『オマンコ』って言うのよ。さあ、言ってごらんなさい」


 ミツエさんの指先の振動が高まる。


「オマ……ンコ……」

「あら、えらいわ。よく言えたわね」


 ミツエさんの手がスーッと抜かれた。両手を合わせ、指先だけで拍手をしている。緊張から解放された私は、ほーっとため息をつく。同時に快感が去ってしまったことが惜しまれた。


「これからはね、お友達と秘密のお話をするとき、あなたも『セックス』とか『オマンコ』とか、口に出して言ってみなさいね。きっとあなたの人生が楽しくなってくるわよ。さあ、お約束……」


 ゆびきりげんまんをした。


「生理が終わって五日ぐらいしたらもう一度来なさい。私、あなたのこと、とても気に入ってるの。もう『あなたで決定』なの。フフフ……。腰の治療もそうだけど、女の喜びが感じられる躰にしてあげる。敏感な『オマンコ』にしてあげるわ。先生の開発した鍼とお灸でね。かたくなな羞恥心からも解放されるわ。あなただけにしてあげるサービスだから。 ね?」


 ミツエさんはまた上品に語尾を上げ、私はうなずく。すると、「きっとくるのよ」と念を押され暖かく抱擁された。


 昨日はジュンくんと再会した日。侵入者に躰をまさぐられ、フミカにセクシーショーツをもらった日だった。今日は女性ホルモンを活性化させるという鍼灸術。そして生理後は性感帯を開発する鍼を入れてくれるという。知らないうちに逆らいようのない強い流れに押し出されているのを感じている。今まで覗き込むのに躊躇していた世界へ。本当は興味津々なんだけど自分に禁止していた世界へ。なんだろう、この流れは。どこから来るのだろう、そして、どこへ流れ着くのだろう。ワクワクすると同時に私は得体のしれない恐怖心をも感じているのだった。



 


 



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