言葉は凶器になる


玩具おもちゃとして投げた言葉が

凶器としての効果を 知らずの内に発揮することがある


凶器がナイフだった場合

傷の形状が一致することで

ナイフを凶器だと断定する


だが言葉には凶器である証拠がない

凶器となった言葉を断定する術がないのだ


どの言葉が どの傷を抉ったのか

それは本人すらも知り得ない

そこにあるのは傷と無数の言葉たち


年月ときが傷を癒す」という説もあるが

傷は癒えても 傷跡は残る


傷ついた跡は残り続けるのに

言葉という凶器は 次第に風化していく

まるで始めから凶器など存在していなかった《なかった》かのように


凶器が氷だった場合

氷点下という環境では 尖った先端が凶器になる

だが常温という環境になると

氷という個体は 水という液体と化し

凶器になっていた先端は 跡形もなく消え去る


あまつさえ 水蒸気という気体に変化し

空気中を何にも縛られることなく浮遊する


凶器だった言葉は 今日も空中を飛び交う


今吸った空気が 凶器だったと傷つく人は

ため息の数だけいる


今吐いた空気が 凶器になったと気付く人は

一体どれほどいるのだろう

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