ダメ教師と教え子
ヨル
プロローグ 私に記憶はないけれど
兎にも角にも、状況把握からさせていただこうか。何処かの会議室に教職員らしい風貌の男達が椅子に座り、呆然としている。そして、机上には魔法薬が入っていたであろう封の空いた試験管。液はすぐに気化したのか床も服も濡れていない。が、私の衣服に特有の甘い香りが染み付いている。「記憶退行薬」だな。
何かのトラブルで魔法薬がかかった訳でもない。周囲の反応からして意図的だ。で、今は私の状況観察か……。趣味が悪い。
あぁ……………、疲れた。なんだ、この腐った者達は。何を呆然としている。大方、金髪の君が実行犯だろう。思い通りの結果だったかな?それとも、残念か?あぁ、嗚咽を漏らすのは結構だけれど……後々、被害届をプレゼントする予定なんだ。その涙は取っておいた方がいい。
誰もが私の次の言葉を待っている。まだか、まだか……早くお前には口封じをしなくてはならないのだから…と目が語る。時に沈黙は何よりも力を持つと誰かが言った。さて、待とうか……。君達がどう弁解するのか楽しみなんだ。
そう思っていた矢先に、会議室の静けさは騒々しい足音で掻き消される。力任せに扉をこじ開けた主は赤毛の青年。大丈夫かい?私の見立てだと軽く数十万はする扉だよ?礼儀など気にする余裕もない彼は息を切らしながら口を開く。
「先生!無事?無事だよね!?そいつらに何もされてない?」
君が指す「無事」が「普段通りの私である」ことなら残念だね。手遅れだと思うよ。
それよりも……先生?人生で最も嫌うあの「職」に私が就いたと?
ダメ教師と教え子 ヨル @kuromitusan
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