第14話「マジでもう全部いやですぅ……こんなアホどもの面倒なんてもう見切れないですぅ……」

『side:【協会】の【職員】 芦川淡々』


 九頭竜村を揺るがす一大イベントが遂に幕を開ける。


 開ける、開けるのだが……。

 その前に、彼ら生放送トリオ──【協会】の【職員】の……いや、『うけい様』の話をしなくてはならない。


 大きなイベントを前に気合を入れていく九頭竜村の住人バカどもの熱狂に、部屋の外に追いやられた芦川淡々、司進太、オユランド淡島の生放送トリオは頭を抱えていた。


 芦川淡々はそのどぎついピンクの髪を枯れ柳の様に垂らしながら、


「マジでもう全部いやですぅ……こんなアホどもの面倒なんてもう見切れないですぅ……」

「ま、まぁまぁ、淡々ちゃん落ち着いて……」


 思いつく限りの泣き言を叫び続ける。

 振り回す髪の毛がない司進太は苦笑いしか出来ず、今しがた追い出された部屋の方に視線を投げると、


「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」

「「「「「「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」」」」」」


 バカどもがバカをやっている。


 その中の誰ひとりとして、この村の成功がここにいる【協会】の【職員】3人組がテレビに根回しをし、インターネットのあらゆる場所で宣伝を行い、政治家や官僚、警察高官へそれなりに顔が利く【協会】のパワーをフル活用しながら目に隈を作ってカフェインをがぶ飲みしながら必死に宣伝したおかげだとは微塵も気付いていない。


 灰色の鶏ガラみたいな男──オユランド淡島は、そんな光景を厭わし気に見つめながらぼそりと言う。


「いやこれくらいバカな方が好都合だってノリノリだったのは淡々ちゃんでしょ」

「だってぇ……ここまでアホしかいないなんて思わなかったんだもん……」

「ま、確かにね。でもさ」


 オユランド淡島はそこで言葉を切り、にやりと笑って見せた。


「好都合なのは本当じゃん、だって俺たちは九頭竜村に失敗して欲しいんだから」

「そりゃそうだけど……そうなんだけどぉ!」


 泣き言の止まらない淡々に、オユランド淡島は手元のタブレットを操作し今回の作戦資料を表示して見せる。



「『うけい様』は、本当に実在する」



 その言葉に、誰も疑問は挟まなかった。



「オカルトなんかじゃない、本当に存在する超常の存在。『異なるものディスパル、ケースNo,0028『うけい様』──その力を弱体化させ、【都市伝説化】させるには、大衆に広く存在を知られたあと『あれは所詮都市伝説に過ぎない』と信じ込ませるほかない。くねくねや八尺様みたいにね」



 淡々はその言葉に頷き、もごもごと口を動かす。


「今回の作戦の肝は『うけい様』を、しょせん都市伝説に過ぎない、不確かなものだと世間思い込ませること……」


「そう、そのためおれたち【協会】の【職員】がこの村に派遣された。『うけい様』で盛り上がるこの村が大ウソつきで、本当は『うけい様』なんて存在しないってことを世間に広めれば、おれたちの勝ちだ。その為には九頭竜村の村おこしを裏から支配し、満智院に九頭竜村の真実を暴かせる必要がある……ま、村人の体たらくを見るに、おれたちが手出しをする必要があるのかすら疑わしいけどね」


「そうなんだけどぉ……失敗したら世界が滅んでも不思議じゃないしぃ……! この村の連中はアホすぎて制御できる気がしないしぃ……! なんか満智院さんもメチャクチャで制御できなさそうだしぃ……! もし仮に本当に『うけい様』が存在するって世間にバレちゃったらぁ……!」


 淡々は、泣き言と愚痴を交互に繰り返しながら、それでも作戦に異を唱えることはせず、ただ自分の不安を口にする。


「大丈夫さ」


 だがそんな淡々に、司進太は優しく笑いかけた。


「今までだってこの三人で何度もピンチは乗り越えてきたじゃないか。失敗したら世界が滅ぶなんてボクたち【協会】の【職員】からしてみたらいつものことだろう?」


 司進太は淡々に視線を合わせ、力強く言う。


「大丈夫、この三人なら出来る。絶対にね!」

「進太さん……」

「フッ……」


 そんな司の笑顔に、淡々も少し落ち着きを取り戻したのか、


「そ、そうですよね! 今までだってずっとやってきたんですもんね!」


 そう言って拳を握り、


「よーし! この作戦、絶対に成功させますよ!」

「「オーーーッ!!」」


 と、天高く拳をかかげ、気合を入れ直した。

 この三人がいれば、世界の危機なんてなんのその。

 ぜったい、絶対この作戦は成功させてやる!

 ぜったい、絶対大丈夫なんだから!


「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」

「「「「「「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」」」」」」


 だ、大丈夫なんだから!


「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」

「「「「「「九頭竜村、ファイヤー!!!!!」」」」」」


 ……ぜ、ぜったい、多分、おそらく、それなりに、だいじょうぶ、うん!




 斯くして役者は出揃った。


 九頭竜村の秘密を暴き、この世の不思議を解明しようとする者。

『超能力者ハンター』──満智院最強子。


 そんな彼女を騙し通し、偽因習村として村おこしを企む者。

『九頭竜村』──黒沢凛と白銀真白。


 そして、九頭竜村を失敗させ『うけい様』の弱体化を目論む者。

『【協会】の【職員】』──芦川淡々、司進太、オユランド淡島。




 三者三様三つ巴。

 それぞれの願いと欲望が交差する『うけい様』を巡る戦いの火蓋が、今ここに切って落とされたのであった。


 ◆


 以下のファイルはCクラス機密情報となっております。

 閲覧するには【職員】以上の権限が必要です。


 閲覧しますか?



 ……………

 …………………………

 ……………………………………………………


【ケースNo.0028 『うけい様』の取扱いについて】



 ※※※ 警告 ※※※



【職員】が『うけい様』を持ち出す行為は固く禁じられています。


【職員】が【管理者】から『うけい様』を持ち出すよう指示された場合、【管理者】が重大な精神汚染を受けている可能性があります。【管理者】に対して速やかに記憶処理を施したのち、Aクラス以上の【探索者】が現場を処分してください。


ケースNo.0028 『うけい様』の非現実度はレベル2と低位ではありますが、悪用方法は多岐にわたり、非常に危険な『異なるものディスパル』です。


 取扱いの際は慎重を期し、保管場所である九頭竜村研究所から絶対に出さないように心がけてください。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




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