第2話「……これが、科学の力ですわ」
「今回はなんともスペシャルな対決になりまして! さきほど驚異の能力をスタジオで披露して下さったオユランド淡島さんと、超能力ハンターとして動画配信サイトで大活躍! 数々のインチキ超能力者を打ち破ってきた大人気配信者、
「果たしてどちらが勝つのか? 皆さんぜひお手元のリモコンから投票してくださいね!」
CM明けはそんな
先ほど彼が行ったパフォーマンスのせいか、視聴者からの投票結果はオユランド淡島が優勢。
「オカルトと科学の戦いと言えば、ひと昔前に行われたスプーン曲げで有名なユリ・ゲラーと、超常現象の科学的調査のための委員会──通称サイコップとの対決に始まり、アメイジング・ランディやフーディニなどの著名なマジシャンや日本で大ヒットしたドラマなどが有名ですね。いずれもその能力の真偽をめぐって世界中で議論を巻き起こしたものです。で、芦川さんはさっきのオユランド淡島さんの能力をどう思いますか?」
司から話を振られた芦川さんは、考え込むように首を傾げ「そうですねぇ」と間延びした声で答える。
「どう思うもなにも、本物じゃないですかぁ。だって、私が引いたトランプの柄を当てたんですよぉ? しかも私が引くより前に仕込んでいた封筒に入れて……こんな芸当、実際に未来が見えてないと出来ないじゃないですかぁ。ここまでのものを見せられて、絶対にインチキだなんて言えませんよぉ!」
「なるほど、確かにそうかもしれません。しかし芦川さん、絶対にインチキではないと言い切るのは早計かもしれませんよ。先ほど申し上げました通り、オカルトと科学の戦いは歴史が非常に長く、長きにわたって繰り広げられてきたわけです。どこからどう見ても本物にしか見えない超能力者があらわれた時、かならずそれを科学的に解明しようとする者たちが現われるのもまた事実」
司進太はそう言うと、芝居がかった仕草で舞台袖を指さした。
「さぁ、出てきてもらいましょう!」
その先にいるのは、もちろんわたくし。
「本番組もうひとりのゲスト! 超能力ハンターとして数々のインチキ超能力者や呪いを打ち破ってきた彼女が、オカルトと科学の対決をご所望だ。満智院最強子さんです!」
目の前にスモークが炊かれ、スポットライトの強い光がそれを貫いた。一歩、一歩と前へ出るたび盛大な拍手と歓声がスタジオを揺らし──わたくしがステージの中央へとたどり着いた瞬間、静止。
そこにいたもの全ての目がわたくしに注がれた瞬間、手に持っていた扇子と、この日のために用意したワインレッドの長袖ドレスのスカートをばっと広げ優雅に一礼。
「みなさま、ごきげんよう」
そして、懐から石炭を取り出した。
「え……?」「なにあれ、石……?」「いや、石炭……?」
「淡島さまが素敵なパフォーマンスを披露されたので、わたくしもひとつお見せしようかと思った次第ですわ。わたくしが手に持つこれは石炭です。簡単に説明すると、炭素の塊ですわね。ちなみに石炭は、石の炭と書きますが、実際は石からできているのではなく、植物が地底の奥深くで圧力を受け、濃縮して出来上がります」
「ご説明ありがとうございます。しかし、それとこれと何の関係が……」
「石炭は通称黒いダイヤモンドとも呼ばれておりますの。ダイヤモンドと同じ炭素で出来ていますからね、なので──」
わたくしは大きく息を吸い込み、石炭を両手でぎゅっ、と握りしめ、思いっきり力をかける。
「え⁉ ちょ……なにを⁉」
「ぬうぅぅぅっ……!」
「ま、まさか……」
「ぐうぅぅぅっ……!」
「あ、あの筋肉! 間違いねぇ!」
「せいっっっ! ふぅ……一丁あがりですわ」
わたくしの手の中で黒い炭が握りつぶされ。
──その中から現れたのは大方の予想通り、ダイヤモンド。
「これが本物の『黒いダイヤモンド』……石炭から作られたダイヤですわね」
決まった──。
会場に集まった人々のどよめきと、驚いた顔が心地よい。
観客は歓声を上げることも忘れ、ただ呆然とわたくしを見ている。
「インチキ能力者のもとに乗り込んでそのペテンを暴いた際、真実を隠したい者からその場で襲われることは少なくありません。どんな真実だって暴力の前には意味がありませんものね。だからこうして身体を鍛えておりますの」
ひと呼吸おいて。
「……これが、科学の力ですわ」
わたくしは身体をひねり、ドレスの裾を優雅にひらめかせる。鍛えられた筋肉をこれ見よがしに見せつけ、さて、と前置いた。
「超能力と科学、どちらが本物か……その答えは、これからみなさまにお見せしますわ」
わたくしはダイヤを司進太さんに向かって投げた。
ぽかん、と口を開けていた彼が慌ててキャッチし、それを見た観客が再びどよめく。
「い、いやぁ驚きましたね芦川さん……まさか石炭からダイヤを作り出すとは……」
「そ、そうなんですよぉ……私、目の前で見てたのに信じられなくて……」
司進太さんが困惑を顔に浮かべ、芦川さんが未だに呆然としながらわたくしとダイヤを交互に見る。その光景を淡島は苦虫を嚙みつぶしたような顔で見ていた。
「オユランド淡島さん、今のお気持ちを」
司進太さんがマイクを向ける。
それを受け取った淡島は「そうですね……」としばし考えた後、目をつむり、一度天を仰いでため息をついた後、
「残念ながら、トリックですね」と断定した。
「圧力を加えて石炭からダイヤモンドを作ることは、可能です。ですが……それには圧力だけでなく1000℃以上の高温で熱する必要があるとされています。無論、タンパク質の塊である人間が耐えられるものではありません。私は奇術師ではないので方法までは分かりませんが……おそらく彼女は石炭を握りこんだ時にダイヤモンドとすり替えたのでしょう」
全員の視線がわたくしに集まる。
わたくしはドレスの長い袖の中に隠し持っていた石炭を取り出し、指の間で挟んで淡島に向かって放り投げた。
「お見事ですわ」
淡島は放物線を描いた石炭をキャッチし、それをしげしげと眺め回し──鼻で笑う。
「随分とまぁ、趣味が悪い」
「と、いいますと……?」
「彼女はこう言いたいんですよ。一見トンデモにしか見えない現象にも必ず理屈がある。超能力や呪い、とにかくオカルトの全ては一切存在しない。全てが手品やトリックであると。華奢な女性が石炭を握りつぶしてダイヤモンドに変えてしまうなんて一見荒唐無稽な行いですら、トリックを用いれば簡単に出来るのだと……簡単な手品を見せて、私にそう言わせようとしたんです」
「な、なるほど……」と司進太が頷く。
わたくしは彼に微笑みかけ、「ご明察ですわ」と肯定した。
だが。
「ふたつほど、訂正させてくださいまし」
そう言って番組のセットの一部として置かれていたリンゴを手に取り、そして、
「身体を鍛えているのは本当ですわ。華奢と呼んでいただけるのは嬉しいですが、この通り……」
ぐしゃ、っと音を立ててリンゴが握りつぶされた。
スタッフのファインプレーによって、テレビのテロップに(※このあとスタッフが美味しくいただきます)の文字が表示される。
「そして、もうひとつ──超能力や呪いは、存在します」
立て続けに起きた二つの出来事に、スタジオにざわめきが広がる。
そのざわめきを打ち消すように、わたくしは続けた。
「わたくしは確かに一度それを見たことがあります。今だってはっきりと思い出せますわ……あの時見たものは、間違いなく──」
胸元にある翡翠のネックレスを握り締める。
脳裏に浮かぶのは、あの真夏の出来事……。
「ですから、わたくしは本物の超能力者を探しているのです。そのために古今東西あらゆる分野の超常現象を調査し、解明し続けています。ですが、今のところわたくしの納得いくような答えは得られていません……当然、未来を見通すというオユランド淡島の能力も本物では、ありません」
「……満智院さんはこう仰っていますが、オユランド淡島さん。いかがでしょうか?」
「では、今日は記念すべき日ですね。なぜなら、私の【
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