ブレイク物語〜滅亡が決まった世界でいかに楽しんで生きるべきか〜

パタパタ

第0話ゲームヒロインは大概、モブに奪われる

「んっ……」

 感極まった表情のイルマの髪に優しく触れると、それだけで彼女は刺激を受けたように身体をびくつかせる。


 潤んだ瞳で見あげられては、もう我慢ができるわけがなかった。

 俺はイルマの唇をむしゃぶりつくように奪った。


「クスハぁー……」

 求める俺に縋りつくイルマの表情には喜びと歓喜が浮かびあがり、俺にしか見せない妖艶さを漂わせていた。


 だからではないが、俺はこの幼馴染の全てを奪うと決めた。


 ゲームでのメインヒロインの1人。

 本来はイルマの相手は幼馴染でゲーム未登場のモブではなく、主人公アサトだったはずだ。


 それを奪う。

 彼女が本来のゲームの道に戻るとき、俺は果たして正気でいられるのだろうか。


 幼馴染のイルマが成人した夜。

 俺たちはつがいのケモノになって交わった。






 ゲーム世界に転生した。


 そう言われれば、俺は迷わず病院行きをすすめるだろう。

 大丈夫、怖くない。


 なんなら俺もついていってやろう。

 診察室には一緒に入れないけれど。


 はい、ゲーム世界に転生したようです。


 転生先は割と豊かなロキシ村の村長の家……の3軒隣の農夫ゴルドンの次男坊クスハ。

 それが俺だ。


 広い農園と風光明媚ふうこうめいびな山々や綺麗な川に囲まれた田舎。

 近くの村まで半日、さらに近くの町まで3日。

 もう少し大きな街まで1週間といったところ。


 これでも都会に近いほうだよ。

 酷いところは隣町まで1ヶ月ほどかかることもある。


 ある日のこと。

 隣の幼馴染イルマの村1番とされる美人お母様ベネットが竈門かまどに魔法で火をつけるのを見た。


 それを初めて見たときは俺は随分長い夢を見てるなぁ、と齢3才にして現実逃避をしてしまったのだ。


 一般常識、社会通念上というものを理解していた俺はまずもって、『転生する』などという理論も理由も理解できないものを即座に納得するなど不可能だった。


 だが、人は慣れるものである。


 人類が長い人生で生き残ってこれた理由は、万年発情期とこの適応能力が他の動物に比べて極端に優れていたからだ。


 ……万年発情期を冗談だと思ったやついるか?


 言っておくが真実だぞ?

 目を逸らすな! 真実は己の心の中にあるのだ!


 ゴブリンが巣ごと叩き潰されてなぜ滅びないのか、それはヤツらも人と同じ万年発情期だからだ!


 うん、自分で言っててわりと最低ね。

 理不尽なこともあるだろうけど、それでも生きるしかないわけよ。


 で、どうせ生きるなら楽しんで生きたい。

 それだけのお話さ。

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