第15章:宇宙海賊と新たな仲間

 カフェ・ノヴァが新たな惑星系に到着した時、宇宙は静寂に包まれていた。窓の外には、双子星の周りを公転する七つの惑星が、まるでバレリーナのように優雅に舞っていた。その光景は、宇宙の神秘と美しさを体現しているかのようだった。


 突如、私、ネビュラの体が不規則に明滅し始めた。これは、危険が迫っている時の反応だ。


「あかり、ゆずき、何か来るわ!」


 私の警告に、二人は即座に対応した。


「了解! ゆずき、シールドを最大出力に!」


 あかりの声には緊張感が滲んでいたが、それ以上に強い決意が感じられた。


「分かったわ。粒子加速器も始動させるわ」


 ゆずきの冷静な声が響く。彼女の頭の中では、既に何十もの対応策が組み立てられているのが分かる。


 その時、宇宙空間に突如として歪みが生じた。まるで空間そのものが引き裂かれるかのように、巨大な裂け目が現れる。そこから姿を現したのは、派手な装飾を施した宇宙船だった。


「これは……まさか宇宙海賊!?」


 あかりの声に緊張が走る。


 通信機を通して、冷たくも凛とした声が響いた。


「動くな。ここは、うちの縄張りや」


 その声は、予想外に幼く、しかし威厳に満ちていた。


 私は即座に身体を拡大し、カフェ・ノヴァを包み込むように防御態勢を取った。同時に、テレパシー能力を使って声の主の心に触れようと試みる。


「やめて! 私たちは戦いたくないの!」


 あかりの叫びが宇宙空間に響く。


「そうよ。話し合えば分かり合えるはず」


 ゆずきも、冷静ながらも強い意志を込めて語りかける。

 しかし、声の主は聞く耳を持たないようだった。


「うるさいわ。ここを通りたいんやったら、ウチを倒してからにしい!」


 そう言うと同時に、相手の宇宙船から光線が放たれた。私は全身を輝かせ、その攻撃を吸収する。


「ゆずき、どうする?」

「仕方ないわ。やむを得ない自衛行動を取るしかないわね」


 二人の目が合い、無言の了解が交わされる。その瞬間、私は二人の心が完全に同調するのを感じた。


 あかりが厨房に駆け込み、ゆずきが操縦席に座る。次の瞬間、カフェ・ノヴァが動き出した。


「宇宙乱気流パンケーキ、発射!」


 あかりの声と共に、巨大なパンケーキが宇宙空間に放出された。それは、周囲の重力場を乱す特殊な材料で作られており、相手の船の航行を妨害するものだ。


 一方、ゆずきは粒子加速器を駆使し、相手の船を包み込むようにエネルギー場を形成した。


「これで動きが制限されるはず」


 ゆずきの冷静な声が響く。


 戦いが続く中、私はテレパシーで相手の心の奥底に触れることができた。そこには、深い孤独と、温かい料理への渇望が渦巻いていた。


 私は、自らの透明な体を僅かに震わせながら、あかりとゆずきに向けてテレパシーを送った。


「あかり、ゆずき、聞いて。あの子の心の中は、想像以上に深い闇に包まれているわ」


 私の声が、二人の心に直接響く。あかりの大きな瞳が驚きで見開き、ゆずきの表情にも動揺が浮かぶ。


「相手の心の奥底には、果てしない孤独感が渦巻いているの。宇宙の広大さと同じくらい深い孤独よ。そして、その孤独を埋めるために、温かい料理を求めているの」


 私は、相手の心の中で感じ取った映像を、二人に投影した。そこには、小さな頃からずっと一人で宇宙船を操縦し、冷たい宇宙食だけを口にしてきた孤独な少女の姿があった。


「彼女が宇宙海賊になったのは、本当は誰かとつながりたいから。誰かに認められたいから。そして何より、心の底から温かい食事に飢えているの」


 あかりの目に、理解と共感の色が浮かぶ。ゆずきも、腕を組んで深く考え込む姿勢を見せた。


「なら、私たちにできることがあるわ」


 私は続けた。


「料理の力で、彼女の孤独な心を温めることができるはず。あなたたち二人なら、きっとできる」


 私の言葉が終わると同時に、あかりとゆずきの目が合い、そこに強い決意の色が宿るのを感じた。二人の絆が、この瞬間さらに深まったように思える。


「分かったよ、ネビュラ。私たちにできることをやってみる」


 あかりの声には、新たな挑戦への期待が込められていた。


「ええ、料理の科学と心を結びつける、新たな挑戦ね」


 ゆずきの冷静な声の中にも、熱意が感じられた。


 二人は顔を見合わせ、にっこりと笑う。


「よし、特別メニューの出番だね!」

「ええ、腕の見せ所ね」


 あかりとゆずきは、息の合ったコンビネーションで料理を始めた。私は、その香りや味をテレパシーで相手に伝える。


「な、なんやねん、これ……」


 相手の声が震える。宇宙船の中で、突如として在り得ない香りが漂い始めたのだ。


「宇宙海賊特製ガレット」


 あかりの声が、通信機を通して相手の耳に届く。


「銀河の荒波を渡り歩く海賊の、寂しさも強さも全て包み込む味よ」


 ゆずきが補足する。

 相手の攻撃が止まる。相手の心が、料理の香りだけで揺れ動いているのを感じる。


「そんなん……食べてみんことには、分からへんやろ」


 相手の声には、もはや敵意はなく、好奇心だけが残っていた。


「じゃあ、こっちに来て食べてみる?」


 あかりの優しい声に、相手は一瞬躊躇したものの、すぐに決心したようだった。


 相手の宇宙船がカフェ・ノヴァにドッキングする。

 扉が開き、派手な海賊衣装を着た少女が現れる。金髪のツインテールが、無重力空間でふわりと揺れる。彼女の目は、テーブルに置かれたガレットに釘付けになっていた。


 おずおずとガレットを一口食べた少女の表情が、みるみる内に変化していく。


「こ、こんな……こんな美味いもん、初めて食うたわ!」


 少女の声が、感動で震えている。彼女の目には、涙が浮かんでいた。


 一気にガレットを食べきった少女はおかわりを要求し、5枚食べ終わった後、小さな声でこう言った。


「あの……ウチ、もうちょいこの味を堪能したいんやけど……」


 恥ずかしそうに言う少女に、あかりが優しく微笑みかける。


「いいよ、いつでも歓迎だよ!」

「ええ、なんなら一緒に旅をする? そしたらいつでも食べられるわ」


 ゆずきも、珍しく柔らかな表情を浮かべる。


 少女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに小さくうなずいた。


「ほ、ほんま? …分かった。うち、ほたるっちゅうねん。よろしゅう頼むで、姐さんたち!」


 ほたるの言葉に、あかりとゆずきは顔を見合わせて微笑んだ。


(なんだか強がりなのに、どこか健気で可愛らしい子ね)


 二人の心の声が、私にも聞こえてくる。その目には優しさと期待が浮かんでいるのも分かった。


 こうして、カフェ・ノヴァに新しい仲間が加わった。私は、この4人での新しい旅に、大きな可能性を感じていた。宇宙は広大で、まだまだ私たちの知らない驚きに満ちている。その中で、この個性豊かな4人が織りなす物語は、きっと銀河系の誰もが予想できないものになるだろう。


 窓の外では、双子星が優しく瞬いている。まるで、私たちの新たな冒険を祝福しているかのように。

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