第5章:ダークマターの神秘

 カフェ・ノヴァが宇宙空間を航行していると、突如として通信機が鳴り響いた。


「あかり、通信よ。しかも暗号化されているわ」


 ゆずきが真剣な表情で操作パネルに向かう。


「えっ? 誰からだろう?」


 あかりが覗き込むと、画面に謎めいたメッセージが表示された。


「カフェ・ノヴァの皆様、我々ダークマター研究所よりご招待申し上げます」


 二人は顔を見合わせた。


「ダークマター研究所? 聞いたことないね」


 あかりが首をかしげる。


「私も初耳よ。でも、これは興味深い機会かもしれないわ」


 ゆずきの瞳に、科学者としての好奇心が宿る。


 メッセージに記された座標に向かうと、そこには想像を超える光景が広がっていた。無数の星々の間に、まるで宇宙の織物そのものが歪んでいるかのような不思議な構造物が浮かんでいたのだ。


「わぁ……まるで宇宙の中に浮かぶ幽霊みたい」


 あかりが息を呑む。


「そうね。おそらく、ダークマターの性質を利用して、可視光を屈折させているのでしょう。まさに『見えない』研究所ね」


 ゆずきが冷静に分析する。


 その時、ネビュラの体が突如として奇妙な反応を示し始めた。その透明な体に、複雑な幾何学模様が浮かび上がったのだ。


「ネビュラ、大丈夫?」


 あかりが心配そうに尋ねる。


「はい……不思議な感覚です。この研究所から、何か強力なエネルギーを感じます」


 ネビュラのテレパシーが二人の心に響く。


 研究所に到着すると、彼女たちは所長のハインリッヒ博士に迎えられた。その風貌は、かの有名な科学者を彷彿とさせるものだった。


「ようこそ、カフェ・ノヴァの皆さん。我々の研究所に興味を持っていただき光栄です」


 博士の温和な笑顔に、二人は緊張を解いた。


「さっそくですが、我々の研究をご覧いただけますか?」


 博士に導かれ、あかりとゆずきは最先端の実験施設を見学することになった。


「ここでは、ダークマターの性質を解明し、その応用技術の開発を行っています」


 博士の説明に、あかりは目を輝かせた。


「ねえゆずき、ダークマターって本当に存在するの?」


「ええ、間接的にはその存在が証明されているわ。銀河の回転速度や重力レンズ効果など、通常の物質では説明できない現象があるの」


 ゆずきが専門的に解説する。


「そうですね。実は、宇宙の構成要素の約27%がダークマターなんです。これは通常の物質の約5倍にも及びます」


 博士が付け加える。


 あかりは、ダークマターの性質と宇宙膨張への影響について熱心に質問を重ねた。一方、ゆずきはダークマターを利用した新しい推進システムの可能性に興味を示した。


「もし、ダークマターのエネルギーを制御できれば、今までにない高効率の宇宙船が作れるかもしれません」


 ゆずきの目が科学者としての興奮で輝いていた。


 見学の合間に、二人は研究所のカフェスペースで休憩することになった。


「ねえゆずき、ここでも私たちのカフェを開いてみない?」


 あかりが突然提案する。


「面白いアイデアね。でも、ダークマターをテーマにしたメニューって……」


 ゆずきが困惑の表情を見せる。


「大丈夫、私にいいアイデアがあるの!」


 あかりは、「見えないデザート」というコンセプトを思いついた。透明なゼリーの中に、味の異なる小さな球体を閉じ込めたデザートだ。食べる人の想像力を刺激する斬新なメニューは、たちまち研究者たちの間で評判となった。


「まるで、ダークマターを探索しているような感覚です!」


 ある研究者が感動して語る。


 しかし、そんな平和な時間も長くは続かなかった。突如として警報が鳴り響いたのだ。


「緊急事態発生! ダークマター制御装置に異常が……」


 研究所全体が揺れ始める。


「大変です! このままでは研究所が崩壊してしまう!」


 ハインリッヒ博士が叫ぶ。


 その時、ネビュラが前に進み出た。


「私に何かできるかもしれません」


 ネビュラの体が再び複雑な幾何学模様を描き始める。


「ゆずき、ネビュラの能力を増幅できないかな?」


 あかりが閃いたように言う。


「そうね……研究所の設備を使えば可能かもしれない」


 ゆずきは即座に行動を開始した。彼女の的確な指示の下、研究者たちも協力し、ネビュラの能力を増幅する装置が組み立てられていく。


「準備 OK! ネビュラ、お願い!」


 あかりの掛け声と共に、ネビュラの体から強烈な光が放たれた。その光は、まるでダークマターを可視化したかのように、研究所内の異常を浮かび上がらせる。


「あそこよ! ダークマターの流れが乱れている!」


 ゆずきが指摘する。研究者たちは、その情報を元に迅速に対応。ついに、制御装置の安定化に成功した。


 危機を脱した後、ハインリッヒ博士は深々と頭を下げた。


「皆さん、本当にありがとうございます。お二人とネビュラさんのおかげで、研究所は救われました」


 感謝の意を込めて、博士は貴重なダークマターのサンプルを彼女たちに譲り渡した。


「これで、私たちのカフェにも新たな可能性が開けるわね」


 ゆずきが嬉しそうに語る。


「うん! 銀河一のカフェに、また一歩近づいた気がする」


 あかりも満面の笑みを浮かべた。


 カフェ・ノヴァは、新たな知識と経験、そして貴重なサンプルを手に、次なる冒険へと旅立っていった。宇宙の深遠な謎に触れたこの経験は、きっと二人の未来に大きな影響を与えることだろう。


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