二十二歳 九月


 二十二歳 九月




 デートの場所は大体があずさの部屋になった。


 前日、もしくは当日に連絡があり、あずさが夕食、ないしは夜食を用意して待つ。


 外食デートはパタリとなくなった。


 始め、自分の部屋に来てくれるようになった時は、距離が縮まった気がしてあずさは純粋に嬉しかった。しかし、毎回そうだと、なんだか外デートが懐かしくなる。自分も贅沢になったものだと自嘲的に思う。


 ただ、単純に食費がかさむのは事実として問題だった。折角ならと腕によりをかければかけるほど、やはり材料費はかかってしまう。日々のやりくりが困窮して、ついに各所への支払いが滞り始めた。このままでは今月の分が払えず、クレジットカードが止まってしまう。


 しかし、考えてみれば、これまでは食事代もホテル代も四宮に出してもらっていたのだ。そんな文句を言えばバチが当たると思った。


 四宮があずさのベッドの上でタバコをくわえる。すかさずあずさはライターで火を点けた。もう手慣れたものだった。このライターはいつでも使えるように常に持ち歩くようになった。四宮が来る日は絶対に枕元に置いておくし、急に会社終わりにデートに誘われるかもしれないと考え、日中はスーツの胸ポケットに忍ばせておくようになった。まあ、今のところ杞憂に終わっているが。


 四宮はタバコに火がつくとすーと吸い込み、ふーと吐いた。もう、いつものことすぎて「ありがとう」も言わなくなったし、あずさもそれは気にしなかった。ただ、自分の部屋に煙が充満するのはあまりいい気がしない。一度、「ベランダで吸って欲しい」とそれとなく伝えてみたことはあったのだが、途端に不機嫌になったので、あずさは二度と口にしないことに決めている。


 タバコの煙が白い天井の壁紙に吸い込まれていくのを見ながら、あずさは恐る恐る「あのですね」と切り出した。


「・・・・・・なに」


 あずさは唇をなめた。最近、四宮は仕事が忙しいのか、あまり機嫌が良くないことが多い。まあ、だれにだってそういう時期はある。


「じ、じつは、私、再来月が誕生日なんですよ」


「へえ」


「は、はい。十一月二十日なんですけど」


「ふうん」


 あからさま過ぎただろうか。あずさは不安になった。


 別にプレゼントが欲しいとかではないのだ。ただ、たまにはまたお洒落なお店で、別にそんな高いお店では無くていいから、外で楽しく二人で食事がしたいと思ったのだ。


 四宮は寝返りを打って、あずさに背を向けた。


「まあ、考えとくよ」


 あずさは安堵の息を吐きそうになった。うん。これで十分だ。私なんかが四宮先輩の側に入れるんだから。贅沢言っちゃいけない。


 四宮のスマホがまたピコンと鳴った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る