センメツ

こばやし あき

序章

 フルガ歴1945年、ある勇敢な隊長の提案により世界大戦の幕引きが始まった。

 疲れ切った一隊を引き連れた隊長は、遭遇した敵方一部隊を前に堪えきれずに言った。


「戦の元をただせば、それはただ国同士の意見の食い違いに過ぎない。そんな事のために多くの命をかけるのは馬鹿気ている」


 それは兵士なら誰もが一度は考え、忘れようとしている事だった。


 隊長は溜め込んだものを吐き出す様に続けた。

「もし戦う事でしか正義を得られないのなら――しかたないだろう。しかし、今ここで賭けるものが二部隊の命とは、重過ぎる――」


 隊長はそれまでのどこか遠くを見て独り言を言っている様な口調から、ゆっくりと相手方に焦点を合わせ、柔らかいながらも力強い口調で言った。

「――私は、隊長同士の一騎打ちを希望する」


 その提案がその時期になされた事が良かったか悪かったかは分からないが――すでに多くの命が失われていた――、無意味に多くの人生を強制的に終わらせる行為を廃止するには丁度良い時期だったのかも知れない。何故なら、背景は違いながらも戦いに疲れ切った多くの人々、多くの国々がその提案に賛同し始めたのだ。


 その結果、一騎打ちは徐々に規模の大きな戦場にまで用いられる様になり、長い時間がかかりながらも世界大戦は終息していった。


 その後、国際連盟が結成され、その規約に仲裁師制度が盛り込まれた。


 仲裁師ちゅさいし、半ば伝説と化したくだんの隊長の一騎打ちから生まれた『少人数での正義の決定』を行う者達。


 その制度とは、話し合いや裁判による解決が望めない紛争にのみ、仲裁師による『仲裁試合』により紛争に決着を付ける制度。


 その決着に不満を持ち戦争を仕掛けようとする国や組織には、国連が一丸となって制裁を加えるという規定も定められた。


 その様な制度の下、仲裁師は人々の変わらぬ平和への望みと共に、戦争を滅する者、戦滅師センメツシ、俗にそう呼ばれるようになっていった。


 フルガ歴2019年、フルガ国。

 戦滅師を目指す一人の少年と共にこの物語は始まる――


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