let me drive your car

痴🍋れもん

let me drive your car

 夫が片目の視力を失ったのはふとした怪我がきっかけだった。突然光を失った夫はさぞかしショックだったろう。だが夫は私の知る限り仕事も日常のアレコレもこれまでと殆ど変わりなく過ごしていた。傍目には夫は不幸な出来事に悲観も怒りも持たないように見えた。本当の心のうちは想像でしかないがそれは人生における夫なりの流儀だったのだと思う。ただ失明のせいで運転免許証を失った事だけは非常に残念がった。 

 これまではずっと運転席が夫の定位置だったが必然的に運転は私の役目となり、夫はこれまで私が座っていた助手席に座るようになった。桜の季節や夜景の美しい夜の湾岸線では夫はいつも決まり文句のように呟く。「誰かに運転してもらうとこんなにゆっくり景色が眺められるんだなぁ。」 その言葉で私はもう一生助手席に座ることはないのだろう自分に気づく。すると酷く寂しくなった。

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