第15話 強敵登場ですね

斧ペロペロオヤジの叫び声に釣られた哀れな敵二名は、

私達が件の作戦通りに襲撃し、特になんのイレギュラーもなく倒した。


改めて作戦がこう上手くいっていくと、

何故あの男だけが敵感知アプリに引っ掛からずに、

私達に接近出来ていたのかが気になってくる。


まるで、私達が取っている作戦を逆に使われた様な形だった。

〈敵感知アプリ〉の音はなっていなかったみたいだし、

何らかのアイテムで探知を搔い潜ったのは確かだ。


それが敵意を隠したり、探知する為の情報を遮断出来るアイテムなのか、

〈敵感知アプリ〉そのものを対策するアイテムなのかは、結果分からず仕舞いだ。

うーん、どんなアイテムを使ったのかを調べるためにも、

あそこで直ぐに脱落させるべきではなかったのでは……?


「……どうなのかなぁ」

「どうしましたか? 佐藤さん」

「あぁ、えっと。今更なんだけど、あのビール腹男は直ぐに脱落させずに、

 どんなアイテムを持ってたのかを確認しておくべきだったかなぁと思って……。

 あ、いや、別に笠羽ちゃんを責めてる訳じゃないからね!?

 私は作戦に全然携わってないんだし!」

「……えへへ、わかってますよ。

 佐藤さんのおっしゃる事はわたしも考えていたのですが、

 あのおじさんはステータス自体も高く、

 強力なアイテムをいくつも所有している可能性がありましたので、

 情報を探るよりも、戦いを長引かせない事を優先したんです。

 時間を与えてしまうと、形勢逆転されてしまう恐れがありましたので」

「な、成程……確かにそうね」


笠羽ちゃんの言う通り、あのペロペロさんは身体能力も高かったし、

借金してまでアイテムを引いたと話していた。

だから、懐を探る為に身体を抑え込もうとしても出来ないかもしれないし、

抑え込めてアイテムを探れたとしても、その状況からアイテムを使われて、

こちらが追いつめられる可能性もあった。


そう考えれば、あの男に何もさせない内に脱落させた判断は正しいだろう。

勿体ないとはどうしても感じてしまうが、リスクを踏まえればしょうがない話だった。


「ああいった手練れはこれからも対峙する事になるでしょうから、

 より一層気を付けて頑張りましょう! 佐藤さん!」

「えぇ、頑張りましょうか!」


しかし、気を付けると言っても、

もし〈敵感知アプリ〉の探知範囲外からの攻撃された場合や、

私達の攻撃が通用しないアイテムを敵が持っていた場合は

どうすればいいのだろうか。


……いや、そんなどうしようもない状況の事を考えても仕方ないか。







それから一時間程森を探索したが、他の参加者には遭遇しなかった。


さっきまでは10分くらいの間隔で敵を発見していたので、

私はもしかして私達の作戦がバレて警戒されたのかと少しだけ心配になった。


しかし、私達が倒した人達はチームを組んでおらず、別々に行動していたし、

仮に参加者を監視して様子を伺っている人間がいたとしても、

この自然公園の規模はかなり大きいので、

普通であれば常に移動して作戦を実行している私達を捉える事は難しいだろう。

まぁ当然、それを可能にする監視用のアイテムを持っている可能性もあり得るが……

それにしては様子見の時間が長すぎる。

襲ってくるのであれば、それこそペロおじがやってきたように、

別の敵の対処をしている時に私達を襲えば良かった筈だからだ。


……やっぱり、私が心配し過ぎているだけかな。

でも、一応笠羽ちゃんにその懸念は伝えておこう。

私は笠羽ちゃんにさっきまでの推測を話して、

このまま作戦を継続するべきかを質問した。


すると、笠羽ちゃんは神妙な顔つきになった後に押し黙ってしまった。

も、もしかして、何かあるのだろうか……?


「……その、わたしも佐藤さんと概ね同意見ではありますが……

 ただ、一つだけあって欲しくない可能性がありまして」

「えっ? そ、それって……?」

「──非常に強い誰かが、他の参加者達を脱落させまくっているという可能性です」


そう聞いた時、私達がその誰がなのではと思ったが、

笠羽ちゃんの深刻そうな表情を見て、私はその人物は他の参加者である事を察した。


……私達以上に凄い参加者がいるかもしれない。

想定はしていなかったわけではなかったが、

いざその影が見えてくると戦々恐々としてきてしまう。


「もしそうだとしたら、わたし達が長い間接敵しなかった事にも納得がつきます。

 この森から参加者がいなくなってしまったからっていう、シンプルな理由で。

 でも、他の参加者も強い人はいましたから、

 均等に速いペースで減っていっただけなのかもしれませんし、

 現時点ではただの憶測に過ぎませんけどね。

 そもそも私達は参加人数すら知らされてないですし」

「……本当にそんな人がいたとして、どう対処したらいいのかしら?」

「敵の情報が一切ない以上、出来る限りのことをやるしかないですね。

 索敵するのをやめてここで待ち伏せするとか、

 森を抜けてそいつと出会わないようにするとか、

 色々あるとは思いますが……でも、わたしは作戦は変更せず、

 このまま継続したいと考えてます」

「それは、どうして?」

「わたしから言っておいてなんですけど、

 単純に今言ったのはただの可能性の話でしかないからです。

 そんな不確定なものを気にしていたら行動や思考に制限が付きますし、

 今までやっていた作戦を捨てて慣れない事をやるよりは、

 これまで通りに作戦を継続していった方がいいと思います。

 だから頭の片隅の片隅に入れておく程度で大丈夫ですし、

 気にし過ぎないで下さいね」

 

笠羽ちゃんはバツが悪そうにそう言った。

そう言われても私の頭には片隅どころか、

ど真ん中にそれが来てるんですけど……。


……いやしかし、ガチャアイテムというものは千差万別で、

そこに傾向や指針といったものがない以上、

対策を考えても仕方ないというのは私にだってわかる。

ここは笠羽ちゃんの言う通り、気にしない方がいい。


落ち着け私。

ふぅーと息を吐き、私は深呼吸する。

そうだ。ここで私が落ち着かないでどうするんだ。

私は作戦の要でこの子より年上なのに。

頼ってばかりでいいわけないでしょ。


──でも、こういうのってフラグってよく聞くんだよなぁ……。







それから30分後、それは突然やって来た。


「佐藤さん、敵です。

 25メートル先、東の方角から一人来てます」

「……!」


まさか、フラグが回収された……!?


いや、まだわからない。

悪い予想は考慮しないようにして、私はいつもの作戦通り木に隠れる。

そして、敵が現れるまで胸の鼓動のうるささを感じながら、

その場で暫く待ち続けた。


──しかし、敵の姿が一向に見えてこない。


「……変ですね。アプリでは近づいてるって反応が出てるのに姿が見えません」

「嘘、ほ、ホントに?」


笠羽ちゃんにそう言われ、私は敵がいるであろう方向を

細かく確認してみたが、相変わらず人がいるようには見えなかった。


やばい……これは本当に回収してしまったかも……。


見せて貰った索敵アプリの画面ではその敵は

10m、7m、5mと、どんどん近づいていると反応している。

けれど、一向にその姿が視認できない。

ザッ、ザッという地面に溜まった枯葉を踏みしめる音だけが大きくなっている。


どういう事なの?

もしかしてアプリに不具合が起きたとか?


「…………まさか」


笠羽ちゃんが何かに気付いたような反応を見せた。

私がそれを尋ねる前に、前から聞こえてきた音が突如途切れた。


恐らく敵が近づくのを止めたのだろう。

まさか、私達が隠れている事に気づかれた?

だとしたらどう動くのが正解なの?

私の心臓はもう張り裂けそうなくらいドキドキしてる。


どうする? 敵がいるかもしれない位置に向かって、

一か八か剣を振って当たるか試してみる?

私がそう思案し、剣を構えた瞬間。


────風を切る、大きな音が聞こえた。


「……っ!?」


危機感を覚えた私はその何かに対し、剣を盾にするように構え直す。

そして、すぐさま剣に強烈な衝撃が加わった。

この誰かに殴られた様な感覚……間違いない! 



敵は───透明人間だ!


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