幸運のじゃんけんとその後始末

砂鳥 二彦

第1話

 見返した日記には、一ページだけ意味のわからない箇所がある。それは日付がなく、記述というよりも手紙のような体裁で書かれていた。


「士郎さんの手がかりというのはこれだけなんですか?」


「はい。警察にも相談しましたが本当にそれだけなんです」


 私が会社の応接室で面と向かっている相手、長尾士郎の奥さんという女性が士郎さんの日記を手にやってきたのは午前の快晴が嘘のように厚い雲が表れて日の光を遮る夕方の出来事だった。


 長尾士郎という人物は私が勤めている会社の重役だったらしく、その奥さんはアポなしで訪れたにもかかわらず社長直々の出迎えで招かれた。平社員の私は士郎さんとほとんど面識がないため、奥さんの要望で呼ばれていると聞き、最初何かの手違いかと疑った。


「あれから五年も経つのに消息が全く掴めていなくて、最初に立ち返って夫の私物を調べていたんです。そしたら日記からこのページを見つけまして、メッセージの中に夫の会社と貴方の名前があったのです。何かご存じありませんか?」


「そうなんですか。しかし……、すいません。私には心当たりが全くありません。そもそも五年前というと、私はまだ会社に勤めていないのですが」


 五年前というと、私はまだ大学生で就職活動を始めようと重い腰を上げたばかりの頃だ。いくつかの会社にインターン生として訪れ、今勤めている会社でも数日体験入社のまねごとをした。もし接点があるとすれば、長尾士郎と私が出会ったのはその時だ。


 そう考えると奇妙だ。長尾士郎はどうして会社と私の接点がまだあると五年以上前に予言し、私を指名したのだろう。


「日記を読んだ限り、おそらくこのページをわざと空白にしておいて後からメッセージを書き残したようなんです。ほら、続きの日記の文字よりインクが濃くて新しいでしょ。これは私や貴方宛ての隠しメッセージだと思うんです」


「隠しメッセージですか? どうしてわざわざ」


「分かりません。メッセージには会社の名前と貴方の名前が書いてあったので信頼してこのメッセージを伝えました。でも警察には知らせていません。陰謀論めいていますが、隠す必要があったのは警察からかもしれないですから」


 もしそれが本当だとすれば一大事だ。警察そのものか一部なのかは判断できないが、私一個人どころか会社の手にも余る事態に思えた。もしかしたら上役も同じ考えで奥さんの対応を私に押し付けようとしたのかもしれない。


 私は色々な考え事を巡らせながら、再び日記の一ページを読み返した。


「拝啓



 私が行方知れずとなってからずいぶん経ったでしょうが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。


 この度はまず知らせもなく職務を放棄したことをお詫びします。止む得ないとはいえ連絡もなく無断休暇をしたため、会社にまだ私の席が残っていないのかもしれません。ですが御社は私を必要としているのでこのお願いを無碍むげにはしないでしょう。


 ○○(ここが私の名前だ)という人物に県境の神流かんな町へ行くよう伝えてください。そうしてもらえると私はとても助かります。


 それでは、良い返事をお待ちしています。


 敬具」


 簡素だが丁寧な内容に、長尾士郎の生真面目さが感じ取れる。自分自身の安否が不明になると予測しながらも、感情なく簡潔に述べている印象だった。


 私なら自分の身の安全に恐怖し、そこまで余裕ではいられないだろう。やはり重役ともなれば常に物腰穏やかだ。


「神流町は電車で一時間ほどの場所ですね。私も電車の車窓から何度か見たことがあります。見た感じ普通の田舎町といった風でしたね」


「ええ。私も会社に来る前に一度立ち寄ったのですが、建物よりも自然の多いのどかなところでした」


「すると、神流町で士郎さんは見つけられなかったのですね」


「ええ。身を隠しているのかもしれませんが、私は会えませんでした。きっと貴方が来るのを待っているのでしょう」


「そうでしょうか……?」


 私は才能ある人間ではないし、人探しが得意なわけでもない。それに長尾士郎と深い関係でもない私をその町に呼び出す理由が未だ皆目かいもく見当もつかない。


「一度この件を上司に相談してみます。日記はお預かりしてもいいでしょうか?」


「ええ、構いません。ただし一つ約束してください」


「何でしょうか?」


「もしも暗号のようなものを見つけたら、私にも教えて欲しいのです」


「暗号ですか?」


 私が軽く日記に目を通した限り、一目でそれと分かる暗号はなかった。何度も確認している奥さんが見つけられないようなものを今更私が見つけられるのだろうか。


「夫はアイディアをメモ帳に記録しているようですが、家に残されているものがどうしても読めないのです。一部をネット公開して不特定多数に協力を求めたこともありました。ですが法則性がないという人やもっと情報がなくては無理だという人ばかりで進展はありませんでした。


 もしかしたら夫が貴方を指名したのは暗号に精通しているからだと思ったのですが」


「期待に添えず申し訳ありません。でも私はそこまで賢くありません。暗号どころかクイズだってまともに分からないような人間ですから」


「そうですか……。すいません、無茶を言って」


 奥さんは「もしものため」と言って長尾士郎の暗号の写しを私に手渡し、「夫の行き先の手掛かりがあったら私にも教えてくださいね」と念を押してから会社を後にした。


 奥さんを見送った後、私は暗号の写しを注意深く見つめた。


「やはり、私には難しいですよ」


 暗号は言葉の体を成しておらず、コンピューターが文字の変換を間違えてしまったような文字化けが紙面にびっしりと書き込まれていた。




 長尾士郎の奥さんと面談し終えた後、私は社長室に呼び出された。


 そして顔なじみの上司と、おそらく上司の上司と、入社式で一度だけ見かけた社長本人が私を待ち構えていた。


「君には一か月の休暇を与える。その代わりに長尾士郎を見つけて連れ帰って欲しい」


 社長の第一声の後、顔なじみの方の上司が喫緊きっきんの事情を説明してくれた。


 いわく、長尾士郎は会社が運営する世界規模のSNS(ソーシャルネットワークサービス)を独りで一から全て作り上げた天才プログラマーだったらしい。本人の失踪当時は会社側も慌てたものの、アップデートやメンテナンスのスケジュールは数年先まで事前に用意されていたし、不具合も他の社員で手直しできたので当時の混乱は少なかったそうだ。


 しかしサービスの根幹である基幹システムをすべて把握しているのは長尾士郎だけであり、重大なトラブルがあればいつサービスを停止してもおかしくないのが現状だった。


 実際ここ数か月は緊急メンテナンスを何度も挟むような不具合が多く、長年メンテナンスに携わってきた社員も「一度中身を開いて総点検が必要だが、元に戻せる保証はない」と難色を示していた。


「当社のSNSは個人だけではなく国内外の大手から零細企業まで数多くの会社がサービスを受けている。影響力の大きい有名なインフルエンサーや動画配信者のアカウントもあり、サービスを突然終了すれば倒産どころか多額の損害賠償を求める裁判を起こされかねない。とはいえ、一か八かの大規模メンテナンスを任せられるただ一人の人物は今も行方不明だ」


 そのため、最悪な結果を避けるにはどうしても長尾士郎の確保が必要なのだという。


「でも失踪したのは五年も前ですよね? 生きている保証はありませんよ」


「もちろん生存が絶望的なのは分かっている。重要なのは士郎氏の知識さえあればいい、という点だ」


「というと?」


「士郎氏は失踪する前に、暗号を解読するための専用の手帳を肌身離さず身に着けていると同僚に話していたらしい。奥さんも暗号を解く方法を見つけられていないなら、今も本人の手にあると考えるのが自然だ。君にはそれを見つけてもらいたい」


「私一人で、ですか?」


「いいや、会社からも他の社員を数十人規模で既に神流かんな町へ派遣した。それに口の堅い探偵も何人か雇ってある。君は彼らに合流してもらいたい」


「それなら私は必要ないのでは? もし神流町に潜伏している士郎さんを探すなら私一人加わっても仕方ないですよ」


「私はそう思わない。士郎氏は必要外の情報を誰とも共有しない過剰な秘密主義者として社内でも噂になっていた。それは社長直々に問いただしても変わらなかったと聞いている。士郎氏が君の名を出した理由は分からないが、彼が指名しているなら必要だということだ」


「そんな大げさな」


「違うな。これは過小評価と言ってもいい。むしろ士郎氏の暗号を解く鍵を君が既に持っていたとしても、私は驚かないよ」


 私は顔なじみの上司の自信満々な決定を拒絶できず、神流町まで出向するはめになった。


 私を乗せた電車は市街を抜けると、一時間かけて悠々と田んぼに囲まれた線路を進んだ。しばらくして乗客が私一人になった頃を見計らうように目的の駅に到着した。


 神流町の無人駅を出ると、会社からの事前の連絡の通り顔見知りの同期が出迎えてくれた。


「どうして私服なの? 動きやすい服装なのは最低限よしとしてやる気が感じられませんね」


「社内ではないので、せめて服装くらい自由にさせてくださいよ。私は青島係長ほど生真面目ではないのですから」


 私がカジュアルな上着とジーンズに対して、青島係長は白いシャツがワンポイントと思えるほど真っ黒なリクルートスーツだった。


 青島係長は歩きやすいようにハイヒールではなく革製の黒い靴を履き、ワックスを塗りたくったような癖のないストレートの黒髪を後ろで結んでいる。見た目の生真面目さと背の低さ、それに童顔どうがんも合わさって新人社会人と見間違えそうな若々しさだった。


「貴方は会社でもいつも飄々ひょうひょうとしていて真面目さを感じさせられないわ。会社に注目されている今こそもっと自分の存在をアピールするべきよ。仕事の出来はそこまでじゃないけれど、他の社員のやらかした案件を処理することにかけては誰にも負けない一級品なんだから」


「はいはい。同期一番の出世頭は言うことも違いますね」


 顔のパーツは均整がとれていて美人なのに、青島係長はいつも不満げな表情をしている。自分の待遇や地位に満足していそうなのに私を見るといつもそんな調子なので、もしかしたら嫌われているのかもしれない。


 どちらにしても、ずっと立ち話をして時間を潰している場合でもないため、青島課長の先導で神流町を歩き始めた。


 神流町は広い田園地帯に囲まれた小さな町で、駅の近辺にも関わらず建物がまばらにしか見られない寂れた田舎だった。秘境というには人間も人工物も多く、都市というには発展度が足らず、観光地としても魅力がいまいちなどっちつかずの街並みをしていた。


 建築物も時折時間が止まったかのように古いものも混ざっており、ちょうど枯れた感じの駄菓子屋も同じように並んでいた。


「喉もかわいたので何か飲みますか?」


「なら私が――」


「いいえ、ここは私にお任せください」


 青島課長の申し出を断り、私は駄菓子屋前の錆びた自販機へ貨幣を投入する。投じたお金が自販機の内部へ落ちる音がすると、整列したボタンに淡いオレンジ色の明かりがともった。


 私が「おしるこサイダー」という商品を選ぶと、自販機の商品回収口へ缶が落とされる。そして商品購入と共に自販機そのものから楽し気な曲が流れ始めた。


 古風な駄菓子屋よりもやや新品な自販機にはくじ引きの特典が付いていた。ピアノの鍵盤を順に弾くようなメロディーの後、あたりを報せるファンファーレが鳴り響いた。


「あら、運がいいわね。それじゃあ、私はこれで」


 もう一度商品を選ぶ権利が生まれ、青島係長がシンプルな緑茶を選択した。私は自分の分と青島係長の分を取り出すと、青島係長に缶を差し出した。


「どうぞ百円です」


「……。えっ?」


 割り勘という形で手を打とうとしたが、青島係長には予想外だったらしい。確かにあたりを出したおかげとはいえ緑茶の購入費用はタダなので、支払いが発生するのは納得いかないのだろう。


 私も考え直してみると底意地の悪さがあり撤回しようかと思っていると、逆に青島係長から提案があった。


「ジャンケンよ! 貴方が勝てば二百円。私が勝てばそのままもらうわ。これなら公平よね」


 自分から退路を断っていく挑戦的な姿勢は青島係長らしいやり方だった。批判で返すのではなく、相手が承諾しやすい現実的なメリットをすぐさま提示できる頭の回転の速さは正直見習いたいところだった。


 青島係長の勝負を受けてみたい気分にさせられた私だったが、残念ながらそれには無理な事情があったからだ。


「冗談ですよ。はい、これを」


 私が申し出を断って緑茶を差し出すと、青島係長は疑いつつも恐る恐るそれを受け取った。


 二人で買ったものを飲み干すと、近くを通った女性に士郎氏の写真を見せて聴き取り調査を開始した。


 女性はよく聞きよく話す情報通のおばさま、という雰囲気でこころよく協力してくれると聞きもしない話までずいぶんとしてくれたものの、興味深い情報を提供してくれた。


「五年前くらいかしら。この近くの廃神社で人が消えるという噂が出て、誰も近づかなくなったのよ。もしかしたらその人も神隠しにあってしまったのかもしれないわよ」


「五年前というとちょうど士郎氏が失踪した頃ですね。関係があるかもしれません」


「そうなの? だったら捜すのは難しそうね。何度か警察が捜索もしたのだけど、警察官が数人行方不明になったそうよ。怖いわね」


 その話が本当なら警察も大騒ぎしている大事件だが、一般人が語る程度には眉唾まゆつばものなのかもしれない。そもそも街で話した最初の住人が全ての答えを知っていたら都合が良すぎる。


 どちらにしてもおばさまから十分すぎる手がかりをもらい、関係のない別の話題を話し始めようとしたのでお礼を言って別れを告げた。


「でも変な話じゃない?」


「何がです?」


「神隠しなんてものはピンポイントで場所が特定できるわけないのよ。山とか樹海とかは元々その場所がとても広くて複雑な地形だから成立する話なの。片田舎の小さな廃神社だけで失踪が起きてるなんて現実的に言えばありえないわ」


 青島係長の言う通りだ。聞く限り廃神社は山とも言えない小高い丘の上にあり、そこまで広大なイメージがしない。単にこの神流町全体で失踪が多いのならば、おばさまの口からもそう語られたはずだ。


「噂が生まれた可能性はひとつ。誰かが廃神社で人が消えるという噂をわざと流したのよ。真実であるか嘘であるかは分からないけどね」


 意図的に流された情報である以上、自分たちが見つけ出したのではなく誘導された可能性もある。士郎氏の失踪が誰かの陰謀だとすれば五年以上経った今でも何かが待ち構えていてもおかしくない。


「不吉ね。その神社なら他の社員も訪れているかもしれないけど、今のところ報告もないわね」


「もしかしたらもう消されてしまったのかもしれませんよ」


「……まさか。考え過ぎよ」


 青島係長が足早に向かうのを私が追い、くだんの廃神社へ到着した。


 朱色の塗装がいくらか剥がれた鳥居には「かみきり神社」という名称が書かれていて、本堂に辿り着くには鳥居を通り抜けた先の石段を上がる必要があった。


 苔の生えた石畳の階段を登りきると、見通しの悪い森の向こうに神社らしき建物が見えてきた。


「変わった神社ね」


「そうですか? 暗い雰囲気ですけど普通に見えますよ」


 小さな森を抜けて神社の前に来ると最奥には本殿があり、脇には狛犬らしき対の石像と社務所らしき建屋もあった。ただしどれも人の手が入らなくなって月日が経っているらしく、障子が破けたような破損したまま放置された箇所も見られた。


「神社としての体裁はそうだけど、これってたぶん狛犬じゃないわよ」


「あれ? そうですか?」


 再度確認してみると、本来狛犬が並んでいるはずの石像にはあまり見慣れない意匠がされていた。


 それは見た限り狛犬のように雲のごとき毛並みを持つけれども、何故か像のような牙があり鼻が長い。同じ生き物は神社の柱にも何体もおり、この神社の神獣なのかもしれない。


「狛犬の代わりにイノシシがいる神社というのは聞いたことがあります。それと似たような場所じゃないですか?」


「とてもイノシシには見えないのだけどね……」


 青島係長は納得いかないようだが、神社巡りに来たわけではないので追及に時間を掛けるのはやめたようだった。


「二手に分かれて探索した方が良いですかね?」


「人が消えているのよ。そこまで広くはなさそうだし、短時間で切り上げて他と合流しましょう」


「なるほど。安全第一ですね」


 私と青島係長は一通り神社の周りをぐるりと周り、怪しそうな場所を簡単に見て回った。誰かが待ち伏せている状況も想定して身構えていたが、心配は杞憂に終わった。


「思ったよりも何もなかったですね」


「仕方ないわ。所詮は噂だもの。最初に探した場所で当の本人が見つかったら五年も居なくなってないわよ」


 青島係長の言葉はもっともだ。ひとまず私たちは一度神社から出る方針に変え、出入り口の暗い森を通って外へ出ようとした。


 その時、私が森の中を何気なく眺めていると何か違和感を感じて足を止めた。


「どうしたの?」


 私は返事をせず、道が開けていない森の中に入る。そのまま脇目も振らず突き進み、一際大きな岩の前で立ち止まった。


「んん?」


 人間大の大きさがある以外は変哲もない岩だが、一瞬別のものが見えた気がしたのだ。近づいてみると岩の下に何かが見えていた。


 私はもっとよく見ようとして屈むも、岩に吸い寄せられるような力の抵抗を感じて慌てた。


「な、なんですか!?」


 咄嗟に足に力を入れたせいか、勢いあまって私は足元の小さな石につまづいて大げさに転んだ。なんて運の悪さだと胸中で舌打ちしたが、もう一度岩の方を見て自分が運良く助かったのに気付いた。


 転んだせいで視点が低くなり、岩と地面の間が透けているのを発見した。どうやら遠くから見えたちらつきは一定間隔で透明になった地面の部分が見えるためだったらしく、コケそうになったのは透明な地面を踏み抜きそうになったからだったようだ。


 私が知る限り、この世界の地面の下が透明だという話は聞かない。それはまるでゲームのテクスチャバグのような現象だったので、私は更に混乱してしまった。


「どうしたの?」


「待ってください! コッチに来てはダメです!」


 私が頭を整理しようとしていると、後から来た青島係長が近づいてきた。青島係長には何も見えていなかったらしく、こちらの視点で透明になっている地面へそのまま足を踏み入れてしまった。


 青島係長が落ちてしまう。と思った私だったが、そうはならなかった。その代わりに青島係長は岩と地面の間に滑り込んで挟まり、自然の法則を無視して身体は直立不動の状態のまま振動し始めていた。


「……ええ?」


 急に話が逸れるが、近年のゲームではよりリアルに近い動きを再現するために物理演算というシュミレートを行っている。しかし実際には仮想世界でのリアルの再現は難しく、ゲーム内の物体があり得ない方向へ飛ばされたり地面や壁を貫通する事例が見られる。


 何故現実の動きを完璧に実行できないかと言えば、物理演算が計算しなければいけない動きは落下や移動や慣性だけではなく、物体の剛性や摩擦と目に見えない地面の厚みなどが深く関わってくるからだ。


 話を戻すと、青島係長に起こっている現象はまさにゲームの物理演算と同じ挙動だった。物理演算があまいゲームでは破壊不可能なオブジェクトの間に挟まれると今の青島係長のように超伝導の機械のような動きをする場合もある。


「青島係長! 青島係長!」


 私が懸命に話しかけても、かろうじて肉眼に捉えられる青島係長の表情に変化はなかった。それはゲームが壊れてキャラクターの動きが無くなったような無機質さで、先ほどまで普通に話していたのが嘘のようであった。


「そんな馬鹿なことがありますか!」


 私は自分が盲執に飲まれそうになるのを堪えて、なんとか青島係長を助けようと手を伸ばした。だが、それは迂闊な行動だった。


「あ」


 私に反発するかのように青島係長は岩と地面の間からはじき出され、近くの藪の中に投げ出された。そこまではいいとして、青島係長が居ない場所へ体重を傾けていた私は姿勢を元に戻せず地面に開いた透明な空間へ飛び込んでしまっていた。




「なるほど。それがここまでの経緯なのだね」


 私が地面の下の透明な空間へ落ちてから数刻ほど経っただろうか。偶然にも落ちた先に居たのは長尾士郎その人だった。


 士郎氏は六畳半ほどの畳とちゃぶ台以外何もない白い空間に取り残されており、私と同じように岩と地面の隙間の透明な部分に落ちたそうだ。


「でもどうしてそんなところに落ちたんですか? 私は士郎氏を捜していたのでそうなりましたが、貴方には明確な理由があったんですか?」


「それはあるぞ。私は会社に勤めながら世界にあるこういったバグを探して修正していたのだよ」


 士郎氏の言い方だと、この世界はまるで仮想空間の中のような言い分だった。私は怯えながらも直視したくない現実と向き合う選択をした。


「もしかしてこの世界は仮想空間やゲームの中なんですか?」


「ん? いいや、そればかりは分からないな」


「何故です? 貴方はまるで世界がプログラムでできているような話しぶりをしていたのに、ここがどんな場所なのか分からないのですか?」


「そうだとも。君はシミュレーション仮説という話を聞いたことはあるかい? そもそも現実の世界は人間が観測した箇所でしか自然の摂理は動いておらず、裏ではゲームのようにプログラムだけが働いているのではないか、というものだ。実際に量子力学の分野ではこういった現象が起きるケースもある。そして私たちが目にしたのはそれが顕現したものなのだよ」


「そんな馬鹿なことがありますか!? じゃあ、なんで世間ではこういった話がひとつも出てないんですか?」


「それはこういったバグやグリッチを認識できるのは一部の人間だけだからだよ」


 どうもこの世界にある仮想世界のようなエラーは、誰でも見聞きできるわけではないらしい。ゲーム世界のプログラムで構成された人間、であるノンプレイヤーキャラクターのような人々の方が多く、メタ視点で俯瞰ふかんできる士郎氏や私のような存在の方が少ないそうだ。


「しかも私が知る限り、これらのエラーを修正する超常的存在は確認されていない。だから誰かが代わりにメンテナンスしなければ世界に未曽有の危機が訪れてしまう。私や君のような知ってしまった人間たちは世界の命運を守る義務があると思わないかい?」


「なるほど。事情は分かりました。ですが世界のプログラムをどうにかできる方法なんてあるんですか?」


「その点は心配ない。私はこのメモを使って開発者デベロッパー権限を得ている。一部の特異なオブジェクトにはプログラムを修正したり安定化させる機能が付いている。私はチートアイテム、と呼んでいるが私の師匠はアーティファクトと呼んでいた」


「その師匠という人も私たちのようなバグを認識するメタ視点を持っていたのですか?」


「そうだとも。ただ師匠はどうやら致命的なエラーに触れて居なくなってしまったらしい。理屈は分からないが、師匠の肉体と過去はまるで初めから存在していなかったかのように記録としても記憶としても消えてしまった。いつも近くにいた私でさえ師匠について思い出せることはほんのわずかだ」


 士郎氏は懐から薄いメモ帳を取り出した。そのメモ帳は多くても10枚ほどの紙しかなく、百円均一のお店で売られているような簡素なものだった。


 ただし士郎氏がぺらぺらと流すようにメモ帳をめくると、それが通常の代物ではないと分かる。士郎氏のメモ帳は見た目の10倍ほどページを送っても反対側の裏表紙に辿り着けない。まるでそのメモ帳は無限の砂漠から湧く砂のように終わりなく紙を生成し続けていた。


「私はこのチートアイテムを無限メモ帳と呼んでいる」


 士郎氏が表と裏の表紙を手にして閉じると、元の見た目上の10枚に戻った。


「他にも会社の事業として普及させたSNSはポータルサーバーというチートアイテムに繋がっている。これはインターネットに接続させると情報が通過する際に付近のプログラムの挙動を安定させる効果がある。副次的に光回線より効率化した回線速度を実現できるから、導入させた私は特別扱いさせてもらっている。チートアイテムさまさまというわけだ」


 会社が喉から手が出るほど欲しがっているSNSのメンテナンス方法も、どうやらそのチートアイテムが関わっているらしい。今までの話を整理すれば、おそらく会社のSNSを根本から直せるのは士郎氏と私のようなメタ視点を持てなければならないはずだ。


 はからずとも士郎氏の奥さんが指摘した内容は、的を射ていたわけだ。


「ではそのチートアイテムを使えば外に出られるのではないですか? どうして五年もここにいるんですか?」


「五年だと? 私の感覚ではまだ一日も経っていないのだが……。おそらくここは元の世界と時間の流れ方が違うようだな。妻にも悪いことをした。出られるなら早く会いに行ったというのに」


「……もしかして出ないのではなく、出られないのですか?」


「残念ながら。このチートアイテムはバグを修正できてもバグから抜け出す道具にはなれない。これを使ってバグを直すのは出入り口を塞ぐのと同じことだ。だから君も巻き込んでしまったのだがね。それについてはすまない」


「そうですか。だから手紙を送って会社に助けを呼んだのですね」


「ん? なんの話だ」


「日記に紛れていた手紙ですよ。方法がわからなかったのですが、どうやらそのチートアイテムを使ったのですね。私を名指ししたのも、私がメタ視点を持っていたと事前に知っていたからなんですね。合点がいきましたよ」


 士郎氏が私に助けを呼んだのは、メタ視点がなければ認識できないバグの中に落ちたせいだ。そして日記に手紙を混ぜるという遠回しなやり方をしたのも、バグの中ではそんな方法でしか連絡できなかったのだろう。


 私が一連の流れを理解したと伝えると、逆に士郎氏は首をかしげた。


「待て待て。確かにこの無限メモ帳を使えば外に伝言を残すことはできる。だが私はそもそもまだ手紙を送っていない。それに君のことも今さっきここで知ったのだ。どうやってそんな手紙を送れるというのだ?」


「……ええ?」


 私は時系列の間違いを指摘されて混乱した。ならば士郎氏の日記にあった手紙は誰が書いたのだろうか。士郎氏以外なら、士郎氏と私以外にもメタ視点を持つ第三者がいたという話になる。ではどうしてその第三者は直接士郎氏を助けに行かなかったのか、という謎が残る。


 私は士郎氏とその情報を共有し、知見を拝借した。


 士郎氏は私の話を聞いて「ふむ」と理解したようだった。


「君の時系列のずれはおそらく説明できる。しかし手紙の謎はここから出る方法がなければ説明もできないし、検証もできない。とはいえその手紙があるなら時間こそ掛かるがいずれ誰かが助けてくれるはずだ。今度は数十年後か数百年後か……。私たちにとっては明日のことかもしれない。せめて妻と別れの言葉をわしたかった」


「いえ。脱出自体は方法がありますよ」


 士郎氏が独りで納得して後悔しているところ間が悪いが、私はその言葉を修正した。既に諦めていた士郎氏は、私が急に救いの手を差し出したので混乱したらしい。


「え?」


「ええ?」


私たちは二つの答えをあべこべに持っていたと気づき、拍子抜けのように互いを見つめ合っていた。




 私はずいぶん昔に、他人とじゃんけんをしてはいけないと祖母に言いつけられていた。


 その理由は私が発見したじゃんけんの法則が原因だった。私が誰かとじゃんけんすると必ず三回あいこになった後、私が勝つ。しかもその後、絶対に私とその相手に幸運が訪れると知って祖母に教えたからだった。


 祖母が言うには「他人の運命を勝手に変えてしまうのはよくない」というのだ。自分の運命を変えたのなら自分が責任を取ればいいが、他人の運命を変えても自分が責任をとれないからだそうだ。


 祖母は私とじゃんけんをしたおかげで末期がんが消滅し、お礼を言った後にそう忠告した。それは退院した祖母を迎えに来た両親と私が車で帰宅している最中、対向車のトラックが道を外れて正面衝突するような僅かな可能性を予見していたからかもしれない。


 私は運よく事故が起こる直前に誤作動で開いた後部座席から投げ出され、道の脇にあるやぶがクッションになって助かってしまった。それからは祖母の遺言を守り、幸運のジャンケンは他の誰かとしないようにしている。


 けれどもこのじゃんけんには抜け穴があった。じゃんけんの相手がいない状態で同じような所作をすれば、自分だけに幸運が訪れるのだった。


「そんな馬鹿なと思うかもしれませんが、私はこの方法で何度も幸運が訪れました。反対に幸運のじゃんけんをストックしなかったせいで不運にあったこともありました」


「そんなことができるのか……すごいな。ゲームで言えば乱数調整というグリッチ行為に近いな。エミュレーションによってゲームの挙動を再現するくらいでしか乱数調整は有効に使えないと聞いていたが、君は例外らしい。それはもっと有効活用した方が良い」


「私はそう思いません。私の幸運や不運は私が責任を取れます。でも他の人の分まで責任が取れないのは昔と一緒です。例えそれが幸運になる方法を与えなかったことで他の人が不運に見舞われたとしても、私は関与しないでしょう」


「けれど今、それをしようとしているのだろう?」


「……そうですね」


 この白い空間から脱出する方法に、この幸運のジャンケンを使う。どんな幸運が訪れるかは制御できないとは言っても、何度もできるならそれも問題ない。


「問題があるとしたらここを出てからの行動だな」


 私が危惧している事態とは別に、士郎氏は考えていた。


「君が見たという手紙の内容は今先ほど送った。あくまでも手紙の内容が出る場所は私の家の辺りであって、ピンポイントに私の日記ではない。だが時系列的な正しさが修正してくれるはずだ。そして時間軸のずれも時間の流れが正確ではないこのバグ空間が上手く作用してくれるはずだ」


「だといいのですが。もしその理屈が正しくない場合、あの手紙が誰から送られたのか本当に謎のままになるのですけどね。それはそれでミステリアスなので面白いですが」


「やめてくれ。ここまでして助からなかったら単に私が馬鹿みたいだろ。さっさと幸運のじゃんけんとやらを始めようじゃないか」


 私は士郎氏に急かされて、乱数調節といわれる幸運のじゃんけんを二人で始めた。


「最初はグー、じゃんけんぽん!」


 最初は二人ともパーであいこだった。


「あいこでしょ!」


 次は二人ともグーだった。事前の打ち合わせは無かったが、ジンクスは未だに変わらないらしい。


「あいこでしょ!」


 そして三回目のあいこはチョキ、ここまでは順調だ。


「あいこでしょ!」


 最後の勝負は私がチョキ、士郎氏がパーで私の勝ちだった。


 更に勝敗が決した瞬間、目の前がホワイトアウトして意識を失うのを感じた。




「副社長! 大丈夫ですか!」


 私が目を覚ますと、見覚えある森の中で聞き覚えのある声に起こされた。ただその声はいつもの口調とは違い、私は違和感を覚えた。


「青島係長。普段は敬語なんて使わないですよね。やめてくださいよ」


「な、何の言いがかりですか? ですが分かりました。敬語は止めるわ」


 青島係長は堅苦しい話し方をやめて、少しきつい言い方に戻していた。


 私は元の世界に戻っていた。木の配置は神社のあった森と同じだし、後には私が落ちた岩と地面がある。ただ違うのは岩と地面の間に透明なテクスチャーがないという点だった。それに士郎氏の姿がないので、もしかしたら救出に失敗したのかもしれない。


「それにしても副社長とは誰ですか? 私は平社員ですよ」


「副社長こそ、何を言ってるの? 自分の役職を忘れたのかしら。やっぱり岩に頭をぶつけたのかもしれないわね。こんな用事もないところさっさと離れて私と一緒に病院へ行きましょう」


「こんなところって……。私たちは失踪した長尾士郎氏を捜しにここに来たんですよ。先ほど士郎氏を見つけたのですが、またはぐれてしまいました。青島係長は引き続き捜索してください」


「長尾社長が失踪!? 本当なの? 私たちは長尾社長の特命で理由もわからずここに行かされたのに、何時連絡があったの?」


「……長尾社長?」


 私はあまりにも青島係長と記憶違いがあって困惑した。けれども言われてみると記憶がふつふつと戻ってくる。社長室に座る長尾士郎氏、士郎氏とは五年前私が入社してすぐに世話してもらい、上層部の不正を見抜いた士郎氏の活躍によって副社長にまで昇格させてもらったのだ。経験したはずもないそんな過去の光景たちが私の頭の中で再録されていった。


「士郎氏は五年前、失踪しなかったのですね。つまり私とは異なり、士郎氏は五年前に送られた。だから士郎氏が失踪という事実は消えたのですね」


「……副社長、本当に病院行った方がいいんじゃない? できれば心療内科か精神科にも寄っていきましょうよ」


 目上に対して言ってもいい話し方じゃない、と思ったものの自分が命令したのだから咎めるのも酷という奴だろう。私は文句を飲み込み、事態が解決したのを理解した。


「ともかくここでの要件は確かに済みました。それでは戻りましょう」


 私の記憶はまだ完全に修正されていないけれども、いずれ正しい歴史の方へ戻されるだろう。戸惑いも多いが、幸運のじゃんけんは今度こそいい方へ賽の目が転がった。私の選択は正しかった。それさえ分かれば問題はない。


「いいえ、そうもいかないみたい」


 私が結果に納得していると、青島係長の顔色が変わった。青島係長は懐からSF映画の小道具のような銀色をした大型の拳銃を取り出したのだった。


「……ええ?」


 私が事態を呑み込めないでいると、森が暗くなる。空を見上げてみると頭上には円盤状の物体が浮いており、七色の極彩色を放っていた。


「……ええ?」


 私が面白みもない同じ反応をしていると、青島係長が警告も無しに銀色の銃を撃つ。銃口からは青色の稲妻が放たれ、円盤へ命中した。


 青色の閃光に穿うがたれた円盤は連鎖した爆破が発生し、燃料か弾薬に引火したのか最終的に緑色の大爆発を起こした。


 驚愕する私をよそに、青島係長は臨戦態勢を解かず身構えていた。


「どうやら私たちの位置を悟られたようね。急ぐわよ」


 青島係長は戸惑う私を強引に引っ張り、神社の森を突き抜けて石畳の階段を降り始める。


 その間にも地上を大きな影が走ったかと思えば、今度は先ほどの円盤よりもでかい触手を持った怪物が空にできたワープゲートのようなものを通って何体も出現していたのだ。


「……ええ?」


「しまった!? アルカイダ星雲人の次は第八次元時空間跳躍生物群が現れるなんて! 応援はまだなの!?」


「なんだか中学生時代に考えたような設定の敵ですね。五年後くらいにノートを見直して悶絶しそうな気がします」


 あまりにも現実離れしすぎて恐怖も脅威も感じず、分かりにくい指摘をしてしまう。


 私の理解が追いつかない頭とは異なり、現実は巨大な超常的怪物の口から射出された無数の小型触手生物によって物理的に押しつぶされようとしている。私と青島係長は必死に走っているが、大型というより小さいけれども個人宅ほどの大きさもある小型触手生物からは逃げられない。


 潰される。と思った瞬間、視界の端から金色の軌跡が走ってきて、巨大な触手生物も小型触手生物も薙ぎ払ってしまった。


 金色の光が私たちの傍に下りてきたかと思うと、それはずいぶん昔に見覚えのある人間だった。


「……おばあちゃん?」


 光が収まると、そこにいたのは背筋をまっすぐにして歩く祖母だった。トラックとの正面衝突で確かに死んだはずなのに、五体満足でそこにいた。


 ただ記憶の祖母と違うところは、ところどころ剥がれた皮膚の間から機械的な機構が見えているという点だ。


「おばあちゃんなんですか? トラック事故の時に亡くなったはずでは? それにどうしてここに? しかもその身体はなんですか?」


「おや、久しぶりというのに今更なことを聞くね。トラック事故でアンタ以外の三人は身体をうしなったけど、精神は別の入れ物を用意してもらったじゃないか。私だけは肉体じゃなくて機械の身体だったけれども、気分で見た目を変えられるから便利な物じゃないか。五年ぶりだから分かりやすく昔の姿で来てやったのだけど、長尾社長の言う通りにして正解だったようだね」


「長尾社長……?」


 私の頭の中で色々な疑問が生まれては、経験した覚えのない記憶が再生されて説明されていく。まるで出来損ないのストーリーが後で補完されるように伏線を回収していき消化されていくようだった。


 おそらく敵だった奴らが消えた空に、再び穴をあけて表れた物体があった。それは綺麗な白い箱型のオブジェクトで大型のバスほどの大きさだった。


 白い箱が私たち三人の前に着陸すると複数の出入り口が表面にできて、中から更に見覚えのある人物が出てきた。


「やあ、五年ぶりだ。記憶の方は戻ったか? 色々あって混乱もあるだろう。ここの後処理は社員たちに任せよう。安全のためにも乗りたまえ」


 白い箱の別の出入り口からは会社の社員らしき人たちが降りてきていた。服装はスーツの人間もいれば私服の人間もおり、化学的防護服や戦闘員のような姿の者たちもいた。


 それだけならまだしも、明らかに人間とは違う異形の生き物たちがぞろぞろと現れては外に解放されていき、ちょっとした仮装行列のような様相をていしていた。


 私は自分が何を起こしたか十分に理解したところで、少し反省した。


「もう次からは言いつけを守って、他人ひととじゃんけんするのはやめとこう」

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幸運のじゃんけんとその後始末 砂鳥 二彦 @futadori

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