左手の薬指が腐りかけている件について

第1話 いつも言ってるでしょ

「ちょっと、洗濯物は洗濯かごに入れてって言ってるでしょ！」

夕飯終わりに私の怒声が家中に鳴り響く。

「ごめん、いつもの癖で…」

だらしなさそうに、ソファの上で寝そべりながらスマホをいじる夫に、

「いつもの癖って、私だっていつも言ってるでしょ。」

と応戦する。

(まったく、いつからこんなだらしない人になったのかしら。)

私はあと一歩で出そうだった本音を心にグッと留める。

私は岸田歩、夫の宏一とは大学のサークルで出会い結婚十年目を迎える。今でこそだらしない宏一も、昔は誠実でイクメンの完璧な夫だった。

しかし結婚十年目ということもあってか最近はいわゆる「ダメンズ」のような振る舞いをしている。いったい何が彼をそう変えたのか、それについて考えると付き合い始めた頃のことを思い出す。