恋人はぬりかべ!

崔 梨遙(再)

1話完結:1500字

「アカン!」


 探偵事務所兼超常現象解決所長の黒沢は冷たく言い放った。相手は妖怪ぬりかべ。ぬりかべは黒沢が持っている砂かけ婆の惚れ砂をわけてほしいと言ったのだ。だが、それを黒沢が断ったのだ。


「何故だ?」

「惚れ砂が広まったら、みんな惚れ砂を使って自分に惚れさせるやろ? 自分のことを好きじゃない相手を惚れ砂を使って好きにさせるって、アカンやろ?」

「一反もめんには渡したじゃないか」

「あの時は、深く考えてなかったんや。あれから、誰にも惚れ砂は渡してへんわ」

「そこをなんとか」

「アカン。どうしても欲しかったら砂かけ婆に直接頼めや」

「砂かけ婆には断られたんだ」

「なんで?」

「お前と同じことを言っていた」

「ほら、やっぱり僕の考え方は間違ってないやんか」

「でも、砂かけ婆は使ったじゃないか」

「大学生の翔太君と付き合ってるけど、惚れ砂を使ってるかどうかわからんやろ」

「あんな婆が惚れ砂を使わずに二十歳の男の子と付き合えるわけないだろう」

「翔太君が年上好みやったんかもしれへんやんか」

「だからって、あんな婆じゃ無理だろう! わかってるんだろう? 認めろ」

「うーん、婆については認めるしかないか」

「お前も惚れ砂を使ったんだろう?」

「なんで僕の話になるねん」

「あの事務員は何だ?」

「事務員で、僕の恋人や」

「お前、あの人に惚れ砂を使っただろう?」

「なんでやねん、ちゃんと恋愛してるわ」

「あんな美人がお前と付き合うわけないだろう」

「お前、失礼やな。そもそも、お前は九州の妖怪やろ? なんで東京にいるねん?」

「東京見物に来たら、里緒奈ちゃんに惚れてしまったんだ」

「惚れ砂なんて使わずに、ありのままの姿でアタックしてみろや」

「ありのままの姿でアタックして、成功すると思うか?」

「思わへん。だって、お前、壁やもん」

「壁が女の娘(こ)を好きになったらいけないのか?」

「アカンよ。壁が人間に恋をするようになったら、気持ち悪くて家で眠れないしオフィスビルにも行かれへんやんか」

「差別だ! 壁だって恋をする」

「帰ってくれ、自分の力でなんとかしろ」

「わかった、もう頼まない」



 ぬりかべは、夜、バイト帰りの女子大生、里緒奈の前に立ち塞がった。


「何? 何よ、この壁」

「里緒奈さん、俺はぬりかべ、俺と付き合ってくれ」

「はあ? 何を言ってるの? あんた壁じゃん」

「俺、里緒奈さんを守り続けるから」

「守るって、何から?」

「それは……」


 その時、ジャージ姿の引きこもりっぽい? 男が現れた。


「おいおい、里緒奈は俺の女だぜ」

「里緒奈さん、彼氏がいたのか?」

「知らないわよ、こんな男」

「お前、何者だ?」

「里緒奈のストーカーだ」

「よく堂々とストーカーと名乗れるな」

「里緒奈、お前のバイトしているコンビニで時々会ってるじゃねえか、お前、俺のことがわからないのか?」

「あんたなんか知らないわよ」

「里緒奈、俺と付き合え! おっと、拒否権は無いぜ」


 ストーカーはナイフを取りだした。


「俺のものにならないのなら殺してやる」

「里緒奈さん、俺の後ろに隠れて!」

「うん!」

「消えろ! 壁野郎」


 ナイフは根元から折れた。壁の方が硬かったのだ。


「ぬりかべ~!」


 ぬりかべはストーカーにのしかかり、体重だけでストーカーを失神させた。ぬりかべの身体の下で倒れこんだストーカー、里緒奈が警察に電話した。間もなくストーカーは連れて行かれるだろう。


「ほら、里緒奈さん、こうやって俺が守るから」

「助けてくれてありがとう、でも、やっぱりあなたとは付き合えません」

「何故だ! 何故なんだ?」



「だって、壁だし」







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恋人はぬりかべ! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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