酔って部屋に連れてきてしまった美人は、高校時代にちょっといい感じだった女友達でした。
佐波彗
第1話 AM1:00~
:◆ ベッドで眠る主人公
:◆SE 衣擦れの音と、体を起こしてベッドが軋む音
「ああ、ごめん。起こしちゃった?」
「スマホ、眩しかったよね。……あはは、人が寝てる横でスマホいじんなって話よね」
「……なんか、眠れなくて」
「たぶん、まだ興奮してるのかも」
「……」
「……なに? そのいやらしい人扱いするような視線は?」
「なし崩し的にあんたの部屋に泊めてもらうことになっちゃったけど、別に誰彼構わずこんなことしてるわけじゃないからね?」
「わかってますって顔でニヤニヤされんのも心外なんだけど?」
「あーあ。あの時は、あんたのこと高校の時とぜーんぜん変わってないなって微笑ましくなっちゃったけど、そういう変なところでずいぶん薄汚れた男になってるんだから」
「……ま。あの頃から6年も経てば、色々変わるよね」
「話を戻すと、あんたとこうして再会するなんて思ってもみなかったから、まだ興奮が残ってて寝付けないのよ」
「高校卒業してから、全然会う機会もなかったのにさ」
「まさか、あんたが会社の人たちと飲み会やってた居酒屋で再会するなんて」
「ううん。最初は気づいてなかったよ。フツーの客として、あんたたちの席に背中向けて座ってたから」
「でも、なんか聞き覚えある声がするなーって思いながら飲んでたの」
「まさかと思って振り向くと、酔ったあんたが長広舌振るってたわけ」
「あんたって今、営業職? だよね。なんか取引先がどうとかお得意様がどうとか、なんかどっかの会社の名前出して、あそこの営業には負けたくないんですーとか言ってたし」
「あたしは営業やったことないからわかんないけどさ。でも、負けず嫌いは自覚してるから。そういうライバル会社みたいなところに負けたくないって気持ちは理解できたよ」
「で、あんたも頑張ってるんだなーって思って。しばらくビール片手に聞いてたの。ああもちろん、なんであんたがここに!? なんて、6年ぶりに見たあんたにびっくりしてた気持ちもあるから。ドキドキはしてたんだけどね」
「あたしに気づいて声掛けてくるかもって期待してたんだけど」
「そうそう。結局、あたしの方から声掛けちゃったわけよね。ていうか、乱入? 傍から見れば、酔った女性客が突然人の会社の飲み会に割り込んでくるから、変に見えたかもね」※笑いながら
「だって、黙っていられなかったから」
「あたしさ、あんたの熱弁にちょっと心動かされちゃったの。なんだ、めちゃくちゃ熱い社会人やってんじゃん、って。昔と違って頼もしくなったなーって母親気取りで思っちゃうくらいにね」
「なのに、あんたの周りの連中は『青臭い』だの、『まだまだ子供だ』だの、鼻で笑ってる人ばかりだったから」
「それなら、あたしが味方しないとダメじゃんって思って」
「……でも、余計なことしちゃったかな? 酔っ払いの変な女と付き合いあると思われて、週明けから会社に居づらくなったりしない?」
「そっか。そう言ってくれると安心なんだけど」
「あんたまで無職になっちゃったら嫌だからね。あたしみたいに」
「……そ。職場で揉めて、辞めちゃった」
「毎回やっちゃうんだよね。すぐ先輩とか上司と揉めちゃうの」
「口答えしてるつもりはないし、ムカつくからって理由で言い返したこともないよ」
「あたしはあたしなりに正しいと思ってるから、ちゃんと自分の意見を伝えようとするんだけど、そういうのって、上からすれば鬱陶しいだけだなんだろうね」
「頭じゃわかってんの。言い返したら絶対良くないことになるって。黙ってる方がずーっといいんだって。でも、気付いた時にはもうダメ。言い返して、取り返しのつかないことになってる」
「働き始めてから、ずっとそんな感じでさ。一回就職して、その時にダメになって、それからはバイト先を転々としてたんだけど」
「ちょうどあんたと再会した時は、やけ酒してたのよ」
「でも、お酒よりあんたのおかげでスカッとしちゃった」
「立場が悪くなるってわかってても、ちゃんと自分の意見ぶつけてる仲間がいるじゃんって」
「しかも、高校の時の悪友ね」
「……だからこうして、あんたの部屋についてきて、二人で飲み直してさ……お泊りまですることになっちゃった」
「げ。もうすぐ2時じゃん」
「長話しすぎた。仕事と飲み会で疲れてるのに、付き合わせてごめんね。ていうか、あんたのワイシャツ借りちゃったけど大丈夫? 会社行く時着替え無くて困ったとかない?」
「そ。ならいいんだけど」
「あーあ、あたしは完全に眠気消えちゃったわ。これ以上睡眠の邪魔しちゃ悪いから、あたし向こうのソファんトコにいるね」
「なに? どうしたの?」
「……ありがと。あたしみたいなバカに付き合ってくれるトコ、昔から好きだよ」
「じゃあ、あたしが眠くなるまで、一緒にいて?」※囁き
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