第十八死 現地人
「うわぁ〜!2人とも見てください!!街ですよ!街!!」
森から出てしばらく歩いていると、街がかすかに見えてくる。
「かなりでかいですね。」
「うん。人もたくさんいそう。」
葛葉さんは待ちきれないのか、走って僕達よりも前にいる。もちろん道中化け物たちが襲ってきたりもしたのだが、小栖立さんがもれなく全員駆除していた。
「2人とも遅い!おいていきますよ?w」
「元気ですね…彼女。」
「そうだね、ムカつくくらい元気だね。」
途端に小栖立さんの笑顔の深みが増す。
怖い怖い…
「あれ…?ご主人達。」
「どうしたんですか?」
先に走っていた葛葉さんが急に立ち止まる。そして前を見ながら僕達に話しかけてきた。
「前の方になにかありませんか?」
「前…?」
僕は葛葉さんが見ている方を確認しようと目を細める。
「ん?あれは…馬車…?」
よく見ると道の真ん中に馬車が鎮座していて、それを取り囲むようにして無数の武装した人達が剣を構えていた。
「…葛葉さん、小栖立さん。少しここで待っていてくれますか。」
「物語くん、何かあったの?」
2人を置いて馬車の方へと行こうとする僕の袖をつかみ、小栖立さんがどうしたのかと聞いてくる。
「この先で人が化け物に襲われているみたいです。なので2人はここにいてください。」
「はい!ここにいます!!」
「駄目…物語くん!それなら私も一緒に―」
そうして僕は2人の返事を聞くこともなく、一刻も早くその場につくために全力疾走で走り抜ける。
遠目からではよく見えなかったけど…あの人達を襲っているのは恐らく、ゴブリンだ。異世界といったら定番中の定番!
だけど今回の僕の目的はそこじゃない。肝心なのは襲われている人達が現地人かどうか。この異世界の住人なら不死を殺す方法とか知ってるかもしれない!
一刻も早くあの人達《情報源》を早く助けなければ!!
・・・・
「グギギギギ!!」
『ズバッ!!』
「ヨミ様!!どうかお下がりを!!」
肉を断つ音が聞こえる。その場では50匹以上のゴブリンが人間を襲っていた。
ヨミと呼ばれたこの少女は、漆黒に輝く美しい髪で、知的に見えるがどこか幼さを残す綺麗な容姿をしている少女だ。
「私も戦います!」
そんな少女は今、剣を片手に馬車の外へと飛び出そうとしていた。
「無理をおっしゃらないでください!!私共で逃げる時間を稼ぎます!ですのでその間にヨミ様は逃げてください!!」
「私だって姉様に鍛えられているんです。戦えます!」
少女は従者と思われる女と言い合いをしていて、その言い合いは平行線をたどっていた。
「ヨミ様!どうかお願いします。」
「貴方を置いて一人で逃げろと!?」
それでもゴブリンの方へ向かおうとする少女を従者は馬車の中へと押し込み鍵を閉める。
「な、何をして!」
「ヨミ様、少しこの中でお待ち下さい。早急にかたを付けますので…」
そうして前を向いた従者は迫りくるゴブリンたちを切り捨てた。その際に飛んだゴブリンの血が馬車の窓にかかる。
「メイ!!」
扉を必死に叩いても一向に開く気配はなく、少女はひたすらに自身の無力さを呪った。
「開いて!開いてよッ!!!」
こうしている間にも外は…そんな最悪な考えが頭をよぎる。
「また…私は…」
・・・・
「グギギギギ!!」
「くッ!きりがないですね!」
従者含む護衛の人達はゴブリンを切りまくるが、その数は一向に減った気配がなく体は限界を迎え始めていた。
「ヨミ様を逃がさないと…」
今にも倒れそうな体にムチを打ち剣を振るう。
それでも…
「ぐわッ!!」
「イチ!!」
味方は次々と倒れていき、残されたのは従者ただ1人。
「はぁ…はぁ…」
「グギギギギ♪」
もうすでに体は疲労困憊。おまけにあちこちに傷も負っていた。そんな従者の横をゴブリン達は素通りし、ヨミと呼ばれる少女のいる場所へと走る。
「ま、待て!狙うなら私を…!グッ…ッ」
従者は立ち上がろうとするが、もはやそれすらままならないのか、膝から崩れ落ちる。
「ヨミ…様…!」
「グギギギギ♪」
数匹のゴブリンが従者に近づく。その手にはおそらく護衛の人から奪ったのであろう剣が握られていた。
そしてゴブリンはそれを躊躇なく従者の首元へと振り下ろす。
(ヨミ様…すみません。あなたとの約束、私は守れそうにありません…)
「グギギ!!」
「…ッ」
たが―その刃が従者に届くことはなかった。
「グギ…ギ?」
『ポタ…ポタ…』
血が滴り落ちる音がする。ゴブリンが刃を振り下ろしたはずの所には従者の首はなく、突然出てきた腕によって止められていた。
あまりにも突然のことで呆気にとられる従者。
だがそのゴブリンは見た…いや…見てしまったのだ。自身の傷口を眺めた狂気とも思えるほどにまで歪んだ―
「グギッ―ザシュッ」
そして次の瞬間ゴブリンの首は飛んでいた。
「…大丈夫ですか?」
「…は、はい…」
座り込んでいた従者に差し伸べられた手は従者のものよりも細く、白かった。
それにこの手は―
「ッ!そんなッ…腕が…!」
差し伸べられた手とは逆のもう片方の腕には先ほど受けたと思われる剣が、深々と真ん中にまで刺さっていた。
「え…?あぁ僕は大丈夫ですので。まずは他の怪我をしている方々を…」
「あなたも十分大怪我です!!腕を失うことになるかもしれないんですよ!?」
「落ち着いてください。ゴブリンはまだまだいます。僕はそれを仕留めてくるのでまだ動けるのなら怪我をしている方たちを安全な場所へ避難させてください。」
「!……感謝しますッ。」
少年のその言葉で自分が今の今まで何を守ろうとしていたのかを思い出した。
「ハッ…!ヨミ様は?!」
馬車の方へ振り向く…が、そこには既にゴブリンの姿はなく、あるのは血まみれになった馬車だけだった。
「彼はいったいどこに…ッ」
そして私はそれを見た。
「グギィ!?」
大量のゴブリンの中を血まみれになりながら駆け回り、次から次へとゴブリンを屠る。一見、このことだけ聞けば凄いと捉える人もいるだろう。
だけど…だけど彼は、自分が傷つくことをいとわず…ゴブリンを斬って斬って斬りまくっていた。
「…ッ」
どうして…どうしてこんな…
私以外にも意識のある兵士達は皆、この光景を息を呑んで眺めている。
「…!」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
突如として彼の腕が飛ぶ、なのに目の前の少年は表情を変えることすらしない。それどころかゴブリンを斬るスピードが上がっているように見えた。
「そんな…」
自分たちよりも明らかに年下の少年、
それなのに…
「グギギッ!!?」
「これで最後…」
戦いが終わった頃には少年の体は血だらけで所々にゴブリンが使ったであろう刃物が刺さっていた。
少年はそれを気にすることなく真っ先に私たちの方へと向かって来る。
「ゴブリンは全て討伐しました。お仲間の皆さんは大丈夫でしたか…?」
「はい…おかげさまで命に別状はありません。助けていただきありがとうございます。」
私はそう言いながらお辞儀をする。そして周りもそれに合わせて口々にお礼を言っていく。
「貴方には必ず褒賞が与えられることかと思います。」
「…それなら一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「はい?そんなことでいいんですか…?」
拍子抜けと言わんばかりの声を出す従者。それに対し僕は深く首を縦に振る。
「…わかりました。私に答えられることならなんなりとお答えします。ですがその前にまずはあなたの傷の手当てをしましょう。このまま放置していては死んでしまいます。」
「いや僕は…」
真は断ろうとするが、その言葉を遮って従者は護衛の内の1人をここに呼んだ。
「この人の傷を見てください。」
男は真に近づき、手をかざしたかと思うとそこからまばゆい光が放たれた。
「少し眩しいかもしれませんが、目を閉じていただいて大丈夫ですよ。」
「分かりました。」
それから数分間その光は出続けたが、やがて光が収まったかと思うとおもむろに護衛の人は立ち上がって従者の方へと振り向いた。
そして私にとって驚きのことを告げる。
「メイさん…この少年には目新しい傷はありません。」
「どういうことですか?」
「怪我をしていないのです。」
「はい?」
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