恋人は狼男!
崔 梨遙(再)
1話完結:1100字
「アカン!」
黒沢は、目の前の優男に言い放った。黒沢は、探偵事務所兼超常現象解決所を営んでいる。目の前の優男は智則という名で、砂かけ婆の惚れ砂をわけてほしいと頼んだのだが、黒沢は拒否したのだ。
「どうしてダメなんだ?」
「もう惚れ砂を使わせることはやめたんや。自分のことを好きじゃない相手を惚れ砂で振り向かせる、そんなん反則や。せやから、もう惚れ砂は使わせないと決めたんや。一反もめんも失敗したしなぁ」
「一反もめんは砂を自分にかけてしまって自分を愛するようになった、それはそれで幸せじゃないのか?」
「とにかくアカン、ほしかったら砂かけ婆から直接もらえばええやんか」
「砂かけ婆とは親しくないんだ」
「今の、ありのままの姿を相手に見せたらええやんか」
「俺は狼男だぞ、本当の姿を見せたら怖がられるに決まってる」
「そんなん知らんわ、今、好きな娘(こ)と付き合えてるんやろ? それでええやんか、何が気に入らんのや?」
「彼女は俺が狼男だとは知らない」
「だから?」
「惚れ砂がほしい」
「アカン!」
「どうせ、お前も惚れ砂を使ったんだろう? あの事務員さん、嫁さんなんだろ?」
「僕は……正々堂々告白して実ったんや」
「嘘つけ、あんな美人がお前なんかを好きになるわけないだろう」
「お前、失礼やな」
「なあ、頼むよ、金なら払うから」
「金の問題とちゃうねん、さあ、ありのままの自分を彼女に見せに行け」
「わかったよ、それでフラれたら恨むからな!」
狼男は出て行った。黒沢は、残り少なくなった惚れ砂を自分のために残しておきたくて断っただけだった。だが、
「あなた、よく断ったわね。そうよ、惚れ砂は簡単に渡しちゃいけないと思うわ。あなたの考え方、素敵よ。惚れ直しちゃった」
事務員兼恋人の操は黒沢の言うことを信じて黒沢に惚れ直していた。
その夜、智則は夕食後、恋人の恵里香を連れて公園を歩いていた。人通りは無い。
智則は覚悟を決めた。
「恵里香、今日は僕の秘密を打ち明けようと思う」
「秘密? 秘密って何?」
「今日は満月だろ? 満月になるとね」
「満月になると?」
「俺はこうなってしまうんだ」
智則の姿は狼男に変わった。
「狼男なんか、嫌だよね?」
「素敵……」
「え?」
「私、毛深い男性が好きなの!」
恵里香は智則に抱きついた。智則は恵里香を抱き締めた。
「うわー! ふかふかで気持ちいい!」
「俺、月見うどんとか月見そばを見ても変身しちゃうんだけど」
「大丈夫よ、私はそんなことで別れたりしないから」
恵里香は一つだけ気になった。狼男との婚姻届けは受理してもらえるのだろうか?
恋人は狼男! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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