19. 『ハロー、メランコリック!』1~3巻+『SAKI CHIKA SPECIAL EP』〈完結〉

 今回も百合作品です。長らく積んでいた本の中から手に取ってみました。



◆『ハロー、メランコリック!』〈完結〉(1)~(3)大沢やよい


 作者様の他作品も拝読しましたが、本作が一番刺さったかもしれません。ガールズバンドものです。


 主人公は長身三白眼陰キャのみなと(トロンボーン)。初対面からグイグイ誘ってくる陽キャ先輩のひび(ドラム)から、徹底してガン逃げしつつも惹かれていく様子が、冒頭から最高に青春しています。


 学年差&身長差&陽キャ×陰キャ(逆も可)……イイですよね……。丁寧に描かれる導入部から「この二人、割と両想いですよね?」と感じられるのは、読者視点の特権かもしれません。



 2巻ではバンドメイトのさき(フルート)×千華ちか(ベース)にスポットが当たります。セフレ関係も衝撃ですが、ヤンキーでネコとは業が深い……いや、お嬢様が奔放すぎるせいかも。


 一方で、そんなサキチカの話を聞いたみなとの心も動き出しますし、ひびみなとの気持ちを確かめようとおデートに誘う展開。攻めてる方も内心ドキドキしてるのは、実に味わい深くあります。


 その後はスムーズに「どうよ?」「好きです」でカップル成立! ……とはならないのがもどかしく。距離を測り合う二人ですが、みなとから「好きです」の追い討ちに、耳まで真っ赤になるひびが可愛らしかったです。



 バンドものの宿命。プロフェッショナルに高みを目指すことと、居心地のいい場所で楽しくやっていくことの二律背反。みなとひびの間にもすれ違いが生じます。


 分かってもらえるはずないと、自分から閉じこもっていたみなとが、一歩踏み出すきっかけをくれたのは、同じ1年生メンバーのエマ(ギター/ピアノ)。この子の立ち位置は終始絶妙でした。



 お待ちかねの仲直りパートは、ひびがめっちゃアグレッシブな誘い受け(個人的な解釈です)をしていて笑ってしまいました。湊がヘタレ攻め(個人的な解釈です)なので致し方ない部分はありますけどね。


 みなとが頑張って気持ちを伝えてくれたのだから、今度は自分の番とばかりに気合いの入った告白をするひびがやっぱり可愛いです。メンバー公認(盗み聞きとも言う)でのカップル成立はよいものだ!


 みなと「あげられるものはぜんぶ先輩にあげる」の無自覚な破壊力! 何度ひびを落とせば気が済むのでしょう! そんなみなとは部活も市民楽団のエキストラも両立。外で教わったことをバンドに還元していく姿勢も立派ですね。



 セルフタイトルな最終話は、進級したみんなの様子が描かれます。サキチカはしれっと将来同棲決定。キスはひびみなと。さらに時は流れて……なエンディングは読後感も爽快でした。



 最終巻の描き下ろしは必見。エマが聞き上手な理由は、年上恋人のおりしてるからか~、と納得。それにしても重い女と付き合ってんな……笑。幸せならオッケーです!




◆『ハロー、メランコリック!-SAKI CHIKA SPECIAL EP-』大沢やよい


 電子書籍のみ。さき×千華ちかの特別編です。サブカプの方が盛り上がってしまうのは、百合orBLのお約束なのか……(要出典)。


 みなとひびの恋人ぶりに感化される二人が微笑ましい。ですが、危ういバランスで成り立っている今の関係を崩すことへの恐れが、千華ちか逡巡しゅんじゅんさせます。


 恋愛では一歩リードのみなとにやり込められる千華パイセンおいたわしい……。さきにまでビビってると言われてはヤンキーかたしです。

 でも、最終的に千華ちかがしっかりと気持ちを伝えたことでようやく恋人へ。よきよき。



 以降は付録の設定画など。第1話のネームまるごと(作者注釈付き)は贅沢ぜいたく。「コマが増えがちなので削る」は小説の技法にも通じますね。「演奏シーンはラブシーン」……深い。読み返すと、改めてひびの強引さが微笑ましいです。




 本編を読んでいても思いましたが、とくにサキチカの関係性は、お互いの依存の仕方にBLみを強く感じます(男性っぽいという意味ではなく、創作物としてのBLっぽいという意味で)。


 百◯姫読者が好きそうな(偏見)ドロドロ愛は百合の醍醐味かもしれません。わたくしはどちらかといえば、みなとたちのような爽やかな関係の方が好みではありますが。


 とはいえ、両方違って両方良いのです! と、百合好きは結論付けます!

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