魔王の間での夜話
僕に寄りかかった穂香さんを心配しながら、ゲートの外に出る。
外ゲートの横に居た職員の人が呆然と僕を見たけれど、やっぱり魔法の影響でパソコンが壊れたのか、項垂れて話しかけて来ないので、いまは無視する事にした。
穂香さんを支えながら立ち止まると、車から宗典さんが降りてきた。僕達を見て片眉を上げる。通常はレイド以外で別のクランが集まっているとかはなくて、ましてや今回は僕のクランへの依頼だったので、他の人たちにはお金が出ない。
それを分かって駆けつけてくれたのだろうけれど。
宗典さんが僕を見る。見返すと少し首を傾げた。
「我が魔王、どうされました?」
「うん。みんなで話し合いが出来る場所に行こうかって」
そう聞いた途端に、宗典さんの目がキランと光った気がした。
「なるほど。では皆さんを魔王の間にご案内しましょう」
にこやかに微笑む宗典さんが、謎の言葉を言った。
「……待って。それは何処の話を」
「穂香ちゃん、移動は任せるから」
宗典さんがそう言うと、僕に寄りかかっていた穂香さんが肯いて僕から離れる。宗典さんは車に戻って、車は発車してしまった。
「ええと」
「私が運ぶから、皆さんも集まって頂けるかしら」
穂香さんは何時もより力ない口調だけれど、他の五人も集まってきてから僕を見て頷いた。いや、頷かれても僕はその変な名前の場所を知らないのだけれど。
「俺も行っていいか」
皆の後ろから声がかかった。見ると、近衛さん、藍さんだったかな。彼が僕達に近寄って来る。もう一人の近衛さんは協会の職員さんの近くにいて、僕達の方を見ているだけだった。
「俺には、渡せる情報がある」
どうしようか。伊達さんも津島さんも、近衛さんを不思議そうに見ているだけで、警戒していないから、大丈夫かな。
「どうぞ。じゃあ近くに来て下さい」
僕達の会話を待っていた穂香さんが首のチョーカーを触る。そう言えば機能の説明の時に転移機能もついていると、さらっと言っていたっけ。案内された場所は確か店の片隅にある円陣だったけど、あそこに飛ぶのだろうか。
気を抜いていると、足元が無くなった様な身体が宙に浮いたような。そんな気配が一瞬だけして、僕達は移動していた。
目の前の光景に口が開いてしまった。
何だよ、この部屋は。
大きな広間の入り口横に全員で出現していた。
上はアーチのようになっている梁が何本も走っていて、何かの絵画が描かれた天井を支えていて、周りもステンドグラスやモザイクタイルで飾られた壁が、柱の合間に作られており、床は上等な絨毯が中央に敷かれていて。
その先の段が付いた舞台のような場所に、豪奢な大きい椅子が置いてあった。
まるで映画で見る様な光景があって、僕は足を止めてしまう。一緒に飛んできた七人もこの大きな広間に、何の言葉も無い。
僕達がいる円陣の横にある大きな扉が開いて、宗典さんたちが入って来た。ほぼ同じ時間で入って来るという事は、車ごと転移してきたのだろう。
ニコニコと笑っている宗典さんを見ながら、僕は溜め息を吐く。
「…賢者殿。これは?」
「我が魔王よ。此処は貴方への謁見の間です」
「…悪ふざけが過ぎる」
「いえいえ、本気ですよ?」
そう言って右手をそっと握られて、その大きな椅子に連れて行かれる。真ん中に敷いてある豪華な絨毯は、テレビで見た事のあるレッドカーペットのように、椅子の足元まで敷かれていた。
「さあ、どうぞ」
ものすっごい満面の笑みで椅子に座らされたので、仕方なく座ってから一緒に来た皆を見る。皆が複雑そうな顔をしているのが、本当に申し訳なくて。
「賢者殿、皆にも座る場所を」
「畏まりました、我が魔王よ」
宗典さんがわざとらしく、胸に手を当ててお辞儀をしてから、足先で床をタタンと鳴らした。静かなその音に反応して錬金陣が数個、床に現われて回転しだす。
スッと錬金陣が消えた後には、優美なソファセットが現れていた。もう何も言うまいと溜め息が出たが、他の人達も茶番に付き合ってくれるみたいで、お互いに顔を見合わせながらソファに座っている。
無花果さんが皆用にお茶やお菓子をローテーブルの上にささっと置いてから、宗典さんの後ろに立った。ローズさんもエリカさんも立って僕の傍に居る。
穂香さんがよろよろと僕が座っている椅子の横まで来て、僕の足元に座った。
「穂香さん?」
「ごめんね、有架くん。今日はここに居させて」
そう言って手を僕の足元に置く。確かに顔色がまだ悪くて、むしろカーペットの上に座っていいのか心配になったのだが。
ぱっと無花果さんが走ってきて、穂香さんを持ち上げてから大きなクッションを数個置いてそこに穂香さんを降ろすと、また走って定位置に戻った。
…穂香さん、僕を見上げられても困ります。
「では、話し合いをいたしましょうか」
そう言って宗典さんが話しを促してきた。
僕はソファに座っている六人を見る。
「僕が魔法を掛けている間に起こっていた事を、聞いても良いですか?」
そう聞くと、藤原さんが困った顔で口を開いた。
「凄いね、九条君。本物の魔王様みたいだ」
「…賢者殿が悪ふざけをするので、申し訳ありませんが付き合ってくれますか」
僕の顔をじっと見てから、藤原さんが頷いた。
「分かったよ。ええと、九条君が魔法を使っている間に、近衛たちが小鳥遊さんを捕まえようとしていたんだ。だから加勢に入ったんだけど」
「探索者同士で争うのは、あまりない事だ」
藤原さんの言葉に、津島さんが話しを繋げる。
「多分、大魔女が使った魔法で、小鳥遊さんの障壁が弱まっていた。俺と藤原が近衛二人と争っていて」
「俺たち二人が他の近衛二人と戦って」
「それで、北角さんが小鳥遊さんの所に行って、更に障壁を掛けていた」
津島さんの言葉に頷いてから、伊達さんと富士さんが話に加わる。
「…四人ですか?」
六人いたはずだけど。
「近衛さんのうち、二人は戦いに参加しなかったわ。一緒に来た彼ともう一人は壁際に居て。あの変態は喜々として剣を振るっていたけど」
穂香さんにそう言われて、一番右端に座っている近衛さんが、ガクッと頭を下げた。
「ああ、あの金髪の近衛って変態っぽかったよね。あの発言を真剣に言っていたなら、相当なものだよ」
穂香さんの言葉に深く頷きながら、藤原さんがそう言ってお茶を飲む。
それは僕も反論は出来なくて、頷くしか出来ない。というか、あんな事を言われた僕が一番衝撃を受けているのですが。
「それで乱闘になったのだが、向こうは手加減をしていたようだな。特に近衛蓮は手を抜いていた。話しぶりと言い九条君を手の内に入れたかったようだが」
伊達さんにそんな事を言われて、苦笑いしか出来ない。
「九条君は心当たりがあるのかい?」
そう北角さんに問われて、どうやって話そうか考えてみる。
穂香さんが座っている場所の反対側に、小さなテーブルが置かれて、その上にお茶が置かれた。無花果さんが穂香さんの横にも、トレイの上にお茶セットを置いていく。その際に小さな声で何かを話している。
僕は僕用のお茶を手に取って飲むが、この光景がまだ見慣れなくて、困った気持ちの方が強くて話に集中できない。
だいたい、此処は話し合いをするには大き過ぎませんかねえ?
謁見の間って、こうやって使う物でもないし。
「近衛さんには、一緒にいたいと言われました。クランに加入する事も前提の話しぶりだったので、断っていますが」
「…それについては、後で話がある。〈漆黒の魔王〉のメンバーだけに話したいから、後で時間をくれないか」
僕の言葉に続いて近衛さんが言って、他の五人が近衛さんに不審そうな目を向ける。
「それは私達には話せないって事かな?」
藤原さんを見て、近衛さんが頷く。
「話をしても分からない事が多いし、言ってはいけない事項もある。…そこに居る賢者殿やリエ・ゼロ達なら分かると思う」
宗典さんが眉を顰め、双子がお互いの顔を見た。
僕も近衛さんの顔を見て、疑問に思う。僕の名前を言おうとしたのは近衛蓮さんで、この近衛さんは、前にあった時には僕に何も言わずに終わったはずで。
「わかりました。魔王様が良いというなら、別に場所を設けましょう」
「ありがとう、賢者殿」
僕は宗典さんを見て頷く。彼が口を出したという事は、話した方が良いと思っているという事で。
「そうなの?じゃあ、そっちで話して貰っていいけど。秘密じゃない部分は私達にも聞かせて欲しいかな」
藤原さんの言葉に、近衛さんが肯いた。
「俺に、何が聞きたい?」
腕を組んで考えていた津島さんが、近衛さんに問いかけた。
「近衛蓮は、パニッシュメントに所属しているのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます