光る魔導具の謎
僕が手を引いて中に入ると、小鳥遊さんは室内の沢山の本を眺めて、感心したように溜め息を吐いた。そして真顔で正面を見る。
「いらっしゃい、九条君」
成田さんが何時もより少しだけ低い声で、挨拶をしてくる。無花果さんも、二条さんたちも、僕ではなく小鳥遊さんを見ている。
僕の手を離して、小鳥遊さんが部屋の真ん中まで歩いてから止まる。大きな机の奥の椅子にゆったりと座っている成田さんに頭を下げた。
「初めまして錬金術師様。私は小鳥遊 穂香と申します。このたび九条君の紹介で此処に入らせていただきました」
「よく来たね、大魔女の血筋の娘。俺の話を聞いているようだね」
「はい。おばあさまから伺っています。賢者と呼ばれる錬金術師だと」
…ちょっと待って。僕はそんなすごい人に贔屓にされている訳?
真面目な顔をしていた成田さんが大袈裟に溜め息を吐く。
「まあ、ここらでいいかな。無花果、お茶にしようよ」
「そうやってすぐに止めてしまうから、宗典さまの威厳が足りなくなるのです」
「俺に威厳なんかないよ。ただの錬金が好きな親父だもん」
成田さんが僕を見てニコッと笑って手招きをする。
近くまで行ってから質問をした。
「僕の態度って平気でしたか?」
途端に成田さんの眉が下がる。
「君にあんな態度を取られたら、死んじゃうからやめて」
「九条さまは何時も通りでいいのです。むしろ敬語もいりません」
そう言ってから無花果さんがお茶の用意をしに、奥に消えていく。
「無花果は辛らつだねえ?」
「何時も通りじゃない?」
双子が笑いながら言っている。
僕は部屋の真ん中にいる小鳥遊さんを連れて部屋の奥にあるソファセットに座った。成田さんが向かいに座って、前はなかった小さめのソファに双子が座る。
ローテーブルには何時も通り、お茶とお菓子とケーキがドンと置かれた。
「…九条君って本当は偉い人なの?」
小鳥遊さんがおかしな事を聞いてくる。
「そんな訳ないでしょう?」
そう答えてからカップを手に取った。
「さて、メールに書いてあったことは本気かな?九条君?」
「あ、はい。僕のクランを作りたくて。小鳥遊さんに管理をして欲しいから、ここで話したいなって」
「どうして此処で?」
勿論聞かれると思っていた。
「魔導具が欲しいので、いろいろ」
「なるほど」
成田さんが肯きながら、双子を見た。見られた双子が頷いてから僕を見る。
「あのね、九条君」
「そのクランに私達も入りたいの」
「え、お二人がですか?」
「いや、ここの全員だよ」
成田さんが僕の疑問に答えた。動きの止まった僕を面白そうに成田さんが見ている。
「……え?四人とも、ですか?」
やっと声が出た。
「そうそう」
「是非とも」
「いいじゃない?」
「嫌じゃないでしょ?」
四人四様に言われて軽く混乱した。隣の小鳥遊さんも何も言わない。
「でも、四人とも探索者じゃないですよね?」
その疑問には二条さんが答えてくれた。
「それは大丈夫。リーダーが探索者ならクランとして成立するから」
「サブはいらないんですか?」
「最低保証で三人なら、サブがいるって話なの。大人数ならサブを決めなくてもいいのよ」
ああ、そういう事なのか。
「ただ、管理はいなくちゃいけないから、その子は必要よね」
小鳥遊さんが、こくんと頷いてから僕を見る。
「あの、九条君、そこのお二人は」
薄々気付いたかのような声音で、小鳥遊さんが聞いてくる。
「あら、言ってなかったね?」
「これは失礼」
二人が両手を合わせて握り合ってから、小鳥遊さんに微笑んだ。
「世間ではリエ・ゼロと言われているわ」
「よろしくね、小鳥遊さん」
こくこくと肯いてから、小鳥遊さんがガシッと僕の手を握った。
「ありがとうね、九条君!」
ちょっと顔が赤くて目も潤んでいる。
「こんな豪華なメンバーと同じクランなんて、望んでも入れないわ!」
「そ、そう?それなら良かったよ」
興奮気味の小鳥遊さんを見ながら僕も肯く。
「九条君だから、俺達も動くだけでね?」
「そうですね。九条さまの事以外は聞く必要がありません」
「そうだねえ、九条くんの事が最優先かな」
「大事なのは、九条くんと一緒にいる事だしねえ」
やっぱりその熱量は、僕自身に向けられることが不思議で。
胸ポケットで、邪神ちゃんも動いたので、頭を撫でる。
「やっぱり九条君って偉い人なの?」
「だから違いますって」
この熱量は、まだ僕にも分からない理由なのだから。
「さて、これでメンバーは足りたということで。次の話はその子に必要なのはどの魔導具だと思うんだって話だね?九条君?」
成田さんが話しを進めてくれる。
「あ、ええと、収納の魔導具と、マップの魔導具ですね。あとは何かな。身を守る物も欲しいかも」
「うちには残念ながら、カタログというものがないから、やりたいことを箇条書きにしてくれるかな?それを見て考えるから」
「はい」
僕はカバンからペンとノートを出して、開いて考える。
「それって、もしかしてマジックバッグ?」
小鳥遊さんに聞かれて頷く。
「そうです。昔取って来ました」
「え?九条君が?」
「はい。母も一緒にいましたが、単独で取りました」
シャーペンをカチカチして芯を出す。
「…九条君が持っているなら容量は大きい感じだよね?」
「え、容量ですか?」
「そう。大きそう」
「はあ、大きいのかな?限界まで詰めたことが無いので分からないですね」
僕の顔をきょとんと小鳥遊さんが見ている。僕は事実しか言っていないのだが、困らせているだろうか?
「入れてもいれてもって感じ?」
「そうですね、そんな感じです」
「それは大きいと思うわ」
なるほど。
「それを持っていても、私の収容が必要?」
聞かれて小鳥遊さんの顔を見た。それが聞きたくて話していたのか。
「でも、小鳥遊さんにもマジックバッグみたいな収容を持っていてほしいのですが」
「そう?それは便利そうだから良いと思うけど」
小さく肯きながら、小鳥遊さんが呟く。
「いざという時に別々の方が良いと思うんですよね」
「いざという時?」
「最近はひどく物騒ですから」
特に僕の周りは、不穏過ぎる。
「そうね、ダンジョンの変化が大きいという話だし」
「…以前潜ったのと同じレベルの所は、もう無いと思います」
自衛できる物。
「そうなのね?九条君は何処に行ったの?」
「昨日、第三十一ダンジョンに行きました、横浜の」
「…人死にが出たって」
「はい、僕がやりました」
マップの魔導具。
「え?」
紅茶を飲むのを止めて、小鳥遊さんが僕を見る。
大きめのマジックバッグ。
ノートに書いてから、小鳥遊さんを見ると。
まだ驚いた顔で僕を見ている。
「昨日は、伊達さんのクランに入っているので、一緒に潜りました」
「あ、ランカーの?」
「そうです。〈悠久の旅人〉に縁あって入ったので、呼ばれてダンジョン攻略に行きました。そこで伊達さんと管理の人が争ったので、伊達さんに加担しました。結果はまあ、僕が殺した感じです」
録画する魔導具。他にはあるかな。
「それは、うん、伊達さんは?」
「無事です。成田さんに貰った錬金陣で回復できたので」
成田さんがニコッと笑う。
「役に立てたなら良かった」
「はい、とても。なかったら無事とはいかなかったでしょうし」
「魔法かい?」
成田さんが聞いてくる。
僕はシャーペンで書くのを止めて、少し考える。
「…多分、光の魔法だと。以前パニに会った時に使われた魔法と一緒だと思うのですが、はっきりとは。視界全部が光って良く見えないうちに、人が焼けてしまうものです。前はどうやって使っているか分からなかったのですが、今回は何かを投げているのは見えました」
成田さんが少し首を傾げる。
「何かを投げてというなら、魔導具だねえ。何を込めていたかと言ったら、〈閃焦〉とかかなあ」
成田さんの声に二条さんが軽く頷いた。
「そうだね、それが近いかな。複合だと作った人の魔法能力に寄ってしまうけど」
「それは、光って焦げる奴ですか?」
僕の質問に、二条さんが頷いた。
「そう、光魔法の上級だね。光って焦げる。字面そのままだね」
「光魔法の他の候補だと、〈光炎〉とか〈煥然〉とかかな。光って焼けるって割と難しいからね」
「そうなんですか?」
魔導具に納まる魔法は、難しいのも入るのだろうか。
「九条くんが炎を見ていないからね。火の魔法ならもっと候補があるんだけど、光で焼けているならできる魔法の候補が少なくなるかな」
「なるほど。それを作れそうな魔導具師とかも分かりますか?」
二条さんがお茶を飲んでから首を傾げる。
「もともとね、光魔法を魔導具に込められる人って少ないんだよ。波瀬さんかなあ」
「ううん、波瀬さんはそういう感じは好きじゃないと思うけど」
「だよねえ。だとしたら、あとは出来そうなのは」
そう言ってから二条さんたちが小鳥遊さんを見る。
急に見られた小鳥遊さんは、驚いてお茶をこぼしそうになった。
「え、あの?」
「うん、そっちかなあ」
「え、」
あせっている小鳥遊さんの手をポンポンと軽くたたく。僕を見て少し頷いた。落ち着いたかな?
「もしかして、大魔女さんですか?」
「うん、彼女は光魔法の大家だし、いまは魔導具も自由自在だろうし」
でも、それは大魔女が、パニに与しているって話にならないか?
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