遠い夏に幻を見た

胡蝶花流 道反

白波立つ 紺碧(あお)の彼方より 今始まる最高の夏!

「凄い!」


 思わず声に出してしまった。

 それ程にまで「凄い!」光景だった。


 恐る恐る隣を見ると、父がニヤニヤとこちらを見ていた。

「ほら、やっぱり来て良かっただろう?」


 今日は地元の港で大きなイベントが開催されていた。

 大きな船が来ているので一緒に見に行こうと父に誘われたのだが、小学生じゃあるまいし、と断ったのであった。


 暑いし、人は多いし、別に船なんてわざわざ見に行きたくないし。

 でも、出店が沢山出てて好きなもの奢ってくれるって父が言うものだから。

 あんまり乗り気じゃなかったけど、しぶしぶ付いてきた筈なのに。


 青い空と海。真っ白な船。様々な色の旗を飾ったイベント会場。出店やキッチンカーもカラフルだ。

 そのヴィジュアルだけで、ワクワクする。


「ちょっと、お店見てくるね!」

 父からお金をもぎ取り、店が並んでる方へ駆けて行った。




 どれにしよう。


 いつもの出店では見掛けないような、珍しい食べ物を幾つも目にし、激しく迷う。

 う~ん、取り敢えず二つにまでは絞れた。パエリアにするかジャークチキンにするか。


 千円札握り締めながらその2軒を見比べてると、近くで同じようなモーションを取ってる女の子が目に入った。

 同じくらいの歳の子…よし!


「「あの、すみません!」」




 特設のフードコートのような場所で、パエリアとジャークチキンをハーフアンドハーフで頂く。


「美味しい!」

「これ、半分ずっこで大正解だね!」


「私は陽葵ひまわり、よろしく」

「私は、まなつ。二人とも暑苦しい名前だね、フフッ」


 陽葵と名乗った少女と、他愛もない話をしながら一緒にランチをして、食べ終わるとソフトクリームを買って一緒にその辺を歩いた。

 

「ねえ、あれ見て!」


 陽葵が指差す方を見る。


 丁度出港式だったのだろうか色とりどりの風船が、蒼穹に舞い上がった。


「「凄い!!!」」


 二人してそう叫んだ後、お互い顔を見合わせ、そして……


 大きな声で笑った。

 

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