憂鬱なお盆休み
おもちくん
8月15日
蝉の声も青い空も、励ましに来てくれた親友の言葉すらも、何もかもが遠くにあるみたいで、まるで僕は一人、夢の中に取り残されたような気分だった。けれど焚かれた焼香の匂いだけは、とても近くに感じる。少し、嫌なことを思い出した。
灰色に見える空を理由もなくただ眺め続ける僕に、母さんはお使いを頼んだ。それは母なりの気遣いだったのだと思う。僕は家を出た。天気は少しも良くならない。
僕はいつもの自販機に立ち寄ろうとしたけれど、気がつけば、僕の足はその自販機とは反対の方向へ向いていた。きっと会いたくないあの子の気配がしたからだ。
きっと僕は買い物を済ませた。気づいたら家の方に向かって歩いていたから。けれど僕はまだ帰りたくない。僕は適当に道を逸れる。天気は悪くなっていく一方だったが、今は雨にでも打たれたい気分だ。
気づけば浜辺にたどり着く。そしたらあの子がいた。僕は今更思い出す。そういえば、海にくる約束をしていたのだった。彼女は僕に気づいて、手を振ってくる。
「宗介!こっちに来なよ!冷たくて気持ちいいよ!」
僕は別に、泣いたりだとか、喜んだりだとかはしない。ただ、すっかり焼香の匂いが結びついてしまった彼女の笑顔を、清々しい青空の下で見れたことに、虚しくなった。
僕はたくさんの時間を彼女と過ごした。別れ際、彼女は少しも表情を変えなくて、僕だけが寂しい顔をしている。どこかに行ってしまう彼女に、僕はさよならすら言えずにいる。ついて行こうかと何度も考えたが、それだけはできなかった。
「宗介。今日はありがとう。楽しかったよ」
それが彼女の最後の言葉だった。それだけ言って彼女は交差点を渡るのだ。今更呼び止めても彼女は戻ってはこない。そこから先は覚えていない。気がつけば僕は、自室で外を眺め続けていた。
きっと僕は夢を見ていた。
だって僕は幽霊なんて信じないから。
憂鬱なお盆休み おもちくん @tarosei
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