ずっと笑っていた君へ

琴吹ツカサ

ずっと笑っていた君へ

「虎に襲われたって平気さ。“とりゃー!”って戦うからね」


そんなダサい事を言いながら、私に笑いかけてた君が死んだなんて、今でも信じられない。


私が、「プリンが欲しい」なんて言わなければ、君はトラックに撥ねられる事もなかったのに...。


ごめんね。

いつも、わがままばかりだったよね。


前に、ゲームセンターに行った時さ、かわいい椎茸のぬいぐるみが全然とれなかったじゃん。


その時、私どうしても欲しかったの。

だから、泣いちゃってさ。


そしたら、君がとっても優しい顔で「大丈夫だよ。僕がとってあげるから」って頭を撫でてくれたよね。


今でも、君の手のあたたかみが残ってる。


でも、君クレーンゲームが下手すぎて結局さ、財布の中身が空になっても取れなかったんだよね。


あの時は、拗ねちゃってそっぽ向いちゃったけど、本当は照れ隠しだったんだ。


だって、頭を撫でてくれた君がさ、かっこ良すぎるんだもん。



胸がドキドキしてずっと頭の中が幸せでいっぱいだったの。


だから決めたんだ私、君を絶対に幸せにするんだって。


なのにさ...私...君を不幸にしたよね...。


君の服に、赤い糸くずが付いてたのを見ちゃったの。

それで私、嫌なコトかんがえちゃったんだ。


だから、遅くに帰ってきた君を「浮気者」だとか「クズ」だとか、デタラメに罵倒しちゃった。


君が疲れてるって、顔を見ただけで分かってたのに...。


最後には、君を部屋から追い出して「プリンが欲しい」の一言だけ投げつけて、鍵を閉めた。


...外は真冬なのに。


ねぇ、苦しいよ。

君との最後があんな会話だなんて嫌だよ。


なんで...。


なんで...死んじゃったの...。


めまいがする。心臓が痛い。喉が苦しい。


思わず君の物を散らかすように物色する。

ベッド、棚、机、君をたくさん感じれるように。


すると、机の下に隠される様に置かれた赤色の袋を見つけた。


誰かへのプレゼントみたいに、大事に大事に包装されていたその中身は、赤いマフラーだった。


「...なにこれ」


マフラーを広げると、一枚の紙がひらりと落ちる。


君からの手紙だった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 プレゼントだよ。


 最近、寒いせいかさ君が震えてる様に見えちゃってマフラーを編んでみたんだ。


 別になんて特別な日でもないけど、君が寒くて泣いてるのを想像しちゃったから作ったんだ。


 ほら、君は出会った時からずっと、わがままで、泣き虫で、弱虫だったから。


 君が泣くたびに、僕が慰めて、そして何故か怒られるんだ。←ほんとなんで?


 君はずっと泣いてばっかだったけどさ。


 僕が君に告白した時は、嬉しそうにとっても素敵な笑顔で笑ってたよね。


 その時、僕は幸せになれたんだ。


 だから決めたんだ、君を絶対に幸せにするって。


 ずっと泣いてる君へ。

 ずっと大好きだよ。


 P.S. マフラーで冬を楽し“まひゅラー!”←笑うとこ

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ばか...笑えないよ」


マフラーを自分の首へそっと巻く。


なんだか、ごわごわして少し気持ち悪い。


でも、安心する。

君に、包まれてる感じがする。


そうだ。

いつもそうだよ。


君は不器用で、苦手な事が多いのにいっつも無理してさ。


ほんとう、ばかだよ。


そんなんだから、私は涙いてばっかなんだよ?


君が優しすぎるから、今も涙が止まらないの。


君を部屋から追い出したときも、「ごめん」なんて言いながら、にこにこ笑ってさ。


そのせいで、あの時、うっかり私も笑っちゃったじゃん。


君が、「うっかり杏仁豆腐を買っちゃった」なんて冗談を言いって帰ってくるのを楽しみにしてたのに...。


でも、もう君は絶対に帰ってこない。

もう二度と会えない。



だからさ......ずっと大切にしようと思う。

君の笑った顔も、不器用なとこも、ちょっとダサいところも...。


今まで泣いてきた分、たくさん笑うよ。


天国にいる君を幸せにしたいから。

今度こそ、絶対に。





冬を抑えるように、暖かい太陽が見守っている、午後三時。


君が、たまに焦げたクッキーをくれる時間。


君のお墓に一通の手紙を添える。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ずっと笑っていた君へ。


 ずっと大好きだからね。

 P.S. マフラー大切にし“マフラー”←笑うとこ

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


少し冷たい風と一緒に、君の笑い声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずっと笑っていた君へ 琴吹ツカサ @kotobuki_58

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ