響く音色と早い恋
猫と読む部屋
01 始まりは音と一緒に
パーッ!
「ちょっなにすんの!?」
「えっへへ、これぞペットの必殺技!“耳元吹き!”」
思いっきり耳元でトランペットを吹くのは駄目だとわかっていない様子だった。いや、やりたくはなるんでしょうけどすやすや寝てるところにそれはほんとに心臓に悪いからやめてほしい…ため息をついてから、目を覚ましたいからとトイレに向かった。
シャー…キュッ。顔を洗って眠気も洗い流し、さっぱりしながらハンカチで拭く。
「ふぅ…」
これから合奏じゃなくてパート練なのに。そして、あいにく相手は休んでしまったもだから私は個人練になる。一番つまんないっちゃつまんないんだけど、一番差がつくのってやっぱりここでどれだけやるか、なにをやるか、だとはわかっている。わかっているのに、何故か仲間という監視役がいないからだらけてしまう。でも私はそんなことはしてはいけない。なぜなら、夏休み中にソロコンを控えているからだ。個人練の時ばっかりはその曲をやっておきたい。そうだ、チャンスだ。気持ちを切り替えて、基礎練に参加する。
「では各自パート練の部屋に向かってください」
「「はい!」」
…いやだからねえよ!みんながわいわい楽器と譜面台を持ち歩いてる中、私は一人心の中でツッコんでしまった。でも私もサボれるはずがなく、一人淡々と練習する。さっきも合わせたチューニングのべー(シ♭)。チューナーという電子機器を使って高いか低いかを、また自分の音だけで再確認する。針は真ん中を指す、良し今日は安定しているな。というか…何故か一人じゃないと上手く合わないと思うのは気の所為だろうか。だから私はアンサンブルよりもソロを選んだのだけど。まあ元よりこの楽器は、ソロ用にちょっと前につくられたチューバの派生楽器だから仕方ないのかもしれない。そのせいで吹奏楽の譜面よりソロのほうが段違いで気持ちがいい。
しばらくして終わったために片付けをしていると、スマホの通知が鳴った。今日休んだ同じパートの悠からだ。今更かよ、と思ったがちゃんと謝罪の文通がそこにはあった。
『ごめーん今日は親の世話で大変なんだわ〜』
ちゃんと、といったがこれは舐められているのか。すかさず通知を開き叱る。
『おつかれ〜、だとしても始まる前に言って欲しかったなあ。もう片付けしてるんだけど』
『いやさあまじ帰ったらあれしろこうしろのオンパレードよ?そんな暇なかったよお』
どうやら彼女曰く忙しい1日だったようだ。でもこれは日常茶飯事なので同情したくてもしたくなくなってしまった。やる気あんのかと度々言っているくらいには。
『あ、でも土日はそいつらいないからうち泊まってこない?』
え?そんな急に言われても…一瞬何を言ってるんだ、と思ったが断れないイエスマンのため、ここでも許してしまう。土日は課題に集中したかったんだけどなあ。
『うーん、まぁ分かったよ』
『ほんと!?じゃまた明日ねー』
『あいよ』
私は実は一人暮らしをしている。訳あって地元を離れてこんな田舎の高校に通っている。というのも、ここは吹部の強豪。中学でドハマリした音楽の世界で暮らしたい。いつからかもう分からないくらい何度も思い描いた夢。私は音楽一筋でやっていくんだ。そう再び決心し、自転車をおもいきりこぐ。帰って一通り家事をやったら今日も頑張った自分に、好きな料理を振る舞う。家族がいたほうが楽しいし美味しかったけど、完全に自分好みにしちゃうってのも悪くない。風呂あがり、コーヒー牛でも飲みながらSNSを一通り漁ってゲームしたら寝る。そんな日常が壊れかけることを知らず、一人すやすやと深い眠りに落ちる。
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