ex 外野から見た私達について 上
明人とマコっちゃんがお手洗いに行っている間、渚は橋本と二人になった。
(……考えてみれば橋本さんの場合、明人達とは逆パターンか)
明人やマコっちゃんからすれば、同性だと思っていた相手が異性だったという話な訳だが、橋本からすれば異性だと思っていた相手が同性だったという事になる。
その辺りで受け取り方は違うのだろうか?
そんな事を考えていると、橋本が言う。
「しかし、変な事を言うようですが……どこからどう見ても女の子ですね」
「正真正銘女だからね私。まだ男に見えてたらちょっと困るよ」
「まあどうであれ、ずっと立派に女の子だった訳です」
そして橋本は一拍空けてから、どこか懐かしむように言う。
「つまり私の初恋の相手は女の子だったって事なんですよね」
「ん……えぇッ!?」
思わず変な声が出てしまう。
「いや、あの、橋本さん、それってどういう……」
「言葉の通りですよ。もっとも勝手に初めて勝手に終わった程度の物でしたが……とにかく、驚く様な話じゃありません。そんな子はきっと他にも沢山います。何せ渚ちゃん……というより秋瀬君は女の子からすればアイドルみたいな存在でしたからね。現実でそんな事あるんだって、今振り返ってもびっくりです」
それに、と橋本さんはどこか鋭い口調で言う。
「秋瀬君は驚いちゃいけない。きっと狙ってやった結果でしょう?」
「え、あ……うん…………まあ、多少は」
段々と橋本が何を言いたいのかが理解できてきて、罪悪感に背を押されるように呟いた。
「……女子の注目を、少しでも私に集めたかったんだ」
「女の子の注目が楠君に向かないように?」
核心を突かれる。
それをした事で何かが変わったのかどうかは分からないけど、とにかくそれしかできる事が無かったからやっていた、そんな事を。
楓にしか気付かれなかった、そんな事を。
自分が親友の事をどう見ているのかまで、一緒に纏めて。
「……そこまで分かるんだ。凄いね、橋本さん」
「分かったから、私の初恋は終わったんです」
「分かったからって……昨日までの時点じゃ男と男じゃん」
「そういうのを頭ごなしに否定するような時代ではないでしょう? 私も理解ある方だと思ってます」
「……」
「もっとも蓋を開けてみれば私は普通に男女の色恋に負けた事になるんですけどね。性別を偽ってたり、学校中にファンがいるみたいな漫画みたいな事になってたりと、非現実的な事ばかり目立ちますが、そんな所はとても現実的だったようで」
「ごめんね、なんか色々と……じゃないや。えっと…………ごめんなさい」
橋本に指摘されたように、自分はこれから同性として振る舞う相手から向けられていた好意に驚いてはいけない。
そういう人が出る事を分かっていてやった事なのだから。
そしてそれが分かるなら、ちゃんと謝っておかなければならない。
目的が捻じ曲がってしまってはいるが、あえて人の気持ちを弄ぶような真似をしていたのは間違いないのだから。
そして橋本は言う。
「いえいえ私は良いんです。勝手に初めて勝手に終わって。そして今は康太が居ます。だから……渚ちゃんに引きずって貰うような事じゃありません。そもそもの境遇自体も考慮すると尚更です」
ただ、と橋本は言う。
「そうは思えない人も居るかもしれません。多分そう遠くない内に中学校で一緒だった皆さんも渚ちゃんの今の事を知るでしょうから。そういう人が渚ちゃんの前に現れるかもしれません」
「うん、そだね。あるかもしれない」
「その時はちゃんと逃げずに向き合って……必要なら謝ってください。これは秋瀬君を見ていた一人からのお願いで……渚ちゃんと改めて関わっていこうと考えているクラスメイトからのアドバイスです」
そして橋本は笑みを浮かべて言う。
「勿論相談はいくらでも受けますから」
「……ありがとう、橋本さん」
それを聞いて、改めて思う。
多分自分は恵まれている。
明人もマコっちゃんも今の自分の事を受け入れてくれていて、橋本も二人とは前提条件が違うのにこういう事を言ってくれている。
自分で言うのも酷い話だがこの滅茶苦茶な境遇の自分を、変にトラブルが起きる事無く受け入れてくれる人が回りに居たというのは本当に恵まれている。
感謝だ、本当に。
そう考えていると橋本が聞いて来る。
「で、それはそれとして楠君とは今どんな感じなのですか?」
話題も心を切り替えたように、凄く目をキラキラさせて。
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