勇者と聖女と鬼女 ふたたび
下東 良雄
第1話 デコボコ三人組、ふたたび
夜の
森のちょっとした広場で焚かれていた焚き火は、そろそろその役目を終えようと炎を薄めつつあった。その周囲には冒険者らしきふたりの男女がマントやローブにくるまって、地面で横になっている。もうひとりの女性は見張りのようで、起き上がって周囲を警戒している。いわゆる野営だ。
寝ている黒髪ショートの若い男は、勇者ナオキ。異世界から召喚された聖剣の使い手だ。召喚時に神から与えられた最強無敵のスキルで敵モンスター相手に無双!……なんて能力は一切持っていない。いわゆるチートを持ち合わせておらず、元の世界で暮らしていた頃と同じ力しかないため、仲間のふたりに鍛えてもらいながら旅を続けている。
その隣で寝ている赤髪ロングウルフで茶褐色の肌、筋骨隆々な大女は、鬼女アラゴ。身長二メートルをゆうに超えるオーガ(鬼)だ。
もうひとり、見張りとして周囲を警戒しているのは金髪ストレートロングの美女である聖女エリザベス。通称リズ。白い
三人は復活した魔王の討伐を目指し、過酷な旅を続けていた。
ふと目を覚ましたナオキ。目の前にはアラゴの顔があった。どんな夢を見ているのか、幸せそうな顔で寝ている。少し口が開いていて、ちょっとヨダレを垂らしているのはご愛嬌だ。ナオキもフフッと小さな笑いが漏れた。
今はリズが見張りをしているはずで、交代まではまだ時間があるだろうと、もう一眠りすることにした。
……のだが、腰のあたりに何か引っ掛かりを感じる。
何だろうと、顔だけ少し上げて見てみた。
「……何やってんの、リズ」
一瞬ビクッとしたリズだったが、
「……健康診断ですわ」
「健康診断?」
「はい、どうもナオキ様のココが腫れ上がっているようですので」
「は?」
「わたくしの癒やしの力で……」
「神の奇跡の力をココに使うの?」
自分の股間に目をやるナオキ。
「はい。何かおかしいですか?」
「リズ」
「はい」
「正直に言ってみ」
「ナオキ様でキノコ狩りをしようと思い立ちましたの」
「ふ〜ん……正直なリズ、オレは好きだよ」
微笑むナオキのそのセリフに喜びをあらわにするリズ。
「ナオキ様!」
ナオキは起き上がった。
「リズ、立ってごらん」
「は、はい! 遂に、遂にわたくしはナオキ様と!」
エヘエヘといやらしい笑みを浮かべ、
「さぁ、ナオキ様! 肉欲の神に祈りを捧げて、わたくしと一緒に
ナオキは笑顔でリズにネックハンギングツリー(プロレスの技のひとつ。両手で相手の首を掴んで吊り上げる技)を決めた。
リズの叫び声に目を覚ましたアラゴ。
「ア、アラゴ……だずげでぇ……」
ナオキに吊り上げられているリズの姿を見て、口元のヨダレを手で拭ったアラゴ。
「ナオキ、おはよう」
「おぅ、アラゴ、おはよう」
「な、なんでえがおであいざづじでんの……ぐえぇ〜」
アラゴは笑顔だ。
「ナオキ、リズ、今日も仲良し。アラゴ、嬉しい」
「仲良しだろ?」
「でも、ナオキ、ほどほどに」
「あいよ。でも、もうちょっとお仕置き」
「ぐえぇ〜、ごべんなざい〜」
勇者を夜這いする聖女。
痴女な聖女に首吊り技をかけてお仕置きする勇者。
そんなふたりを見て心が暖かくなり、優しく微笑む鬼女。
このお話は、どこかデコボコで不釣り合い、でもとても強い絆で結ばれている、そんな三人の長い旅の一コマ。
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かごのぼっち先生から三人のステキなファンアートを頂戴しました。
ぜひ皆様ご覧くださいませ。
https://kakuyomu.jp/users/Helianthus/news/16818093082788727584
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