最初から終わっていた世界でヒーローは、
名瀬口にぼし
第一部
第1話
1.田舎の学校
昼休みが終わりかけたざわざわと騒がしい教室に、スピーカーから予鈴が鳴った。
「鏑木、次の授業視聴覚教室に変更だって」
「え、そうなんだ。今行く」
樹季は友人・杉浦に呼ばれて、ノートや教科書を片手に教室を出た。
築四十年以上の校舎であるので、灰色の床材で覆われた廊下は年季が入って薄汚れていた。
杉浦は歩きながらあくびをして言った。
「日本史で視聴覚室かぁ。昼飯後に歴史のビデオとか、絶対寝るわ。てか、もうすでに眠いし」
「そうだよなぁ。西田先生も、ちょっとは気を使ってくれればいいのに……」
別に樹季は食後のビデオ鑑賞が苦手ではなかったが、適当に話を合わせた。
だが、中庭の喧騒が廊下にまで聞こえてきたので、その会話は中断された。
「なんか中庭がうるさいな」
杉浦が、窓に近寄る。
――またか……。
何が起きているのかだいたい予想が着きつつ、樹季も窓の下を見た。三階の廊下からは、中庭に人だかりができているのがよく見えた。
外の様子をずっと見ていたらしい女生徒たちが、窓から顔を出しながら言った。
「今回もまた八十宮らしいよ、鏑木君」
「相手は三年の人だって」
女生徒たちの声は面白がるような含みがあるものの、いたって平然としていた。この学校では喧嘩はめずらしいことではなかった。特に樹季の幼なじみ――八十宮雅古(やそみやまさふる)絡みの喧嘩は。
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