番外編 天から見守る織田信長の視点

織田信長が金ヶ崎で命を落とした瞬間から、その魂は天へと昇り、彼はその場から織田家の行く末を見守る立場となった。信長の視点から見た1570年から1574年までの期間は、彼にとって深い葛藤と誇りが交差する時間であった。


1570年、信長が戦死し、彼の魂が現世を離れた時、まず目に映ったのは弟・信行の悲しみと決意であった。信長はその姿を見て、信行が織田家を支え続ける覚悟を固めたことを確信したが、自らが兄として十分に信行を導いてきたのか、深い後悔も感じていた。彼は、信行が自らの死後、どのように織田家を導いていくのかを見守ることしかできない自分に、無力さを覚えていた。


信行が朝倉義景と浅井長政に対する復讐を誓い、軍を進める姿を見た信長は、彼の心の中で静かな喜びと不安が入り混じった。信行が織田家を守るために全力を尽くしていることは喜ばしかったが、その戦略や行動が適切であるかどうかを心配せずにはいられなかった。信長は、信行が戦場で自らを失うことなく、冷静に敵を討ち取る姿に安堵を覚えたものの、その一方で信行が負う重荷の大きさに胸が締め付けられるような感覚を覚えていた。


信長の死後、織田家は一時的に動揺したが、信行の指導の下で再び勢いを取り戻していった。浅井家と朝倉家に対する攻撃が成功し、信行がこれらの敵を倒した時、信長は心の中で静かに称賛した。弟が自らの意思を引き継ぎ、織田家を守り抜いたことに対する誇りが、彼の胸中に広がった。しかし、同時に信長は、信行がこれから直面するさらなる困難を予感し、それに対する不安をぬぐいきれなかった。


1571年、信長の魂は再び織田家の危機を目の当たりにすることとなる。一部の家臣たちが信忠を新たな当主に据えようと画策する一方で、新参の家臣たちは独立を目論んでいた。この内部分裂の危機に対して、信長は深い懸念を抱き、弟がいかにしてこの問題に対処するのかを固唾を飲んで見守った。信忠が信行に対して深い信頼を抱き、彼を支持していることを知った信長は、少しだけ安堵したが、それでも織田家の行く末に対する不安は消えなかった。家臣たちが二つの派閥に分裂し、織田家の未来が危機に瀕しているのを見て、信長は天から力の限り弟を支えることを誓った。


1572年、信長は足利義昭が織田家を包囲しようとする計画を知り、さらに不安が募った。信行が筒井順慶を攻める直前に、他の外部勢力が織田家に攻撃を仕掛けてきたとき、信長は事態が悪化していることを痛感した。信行がこの多方面からの脅威にどう対処するかを見守る中で、信長は自らがもう少し生き延びていれば、信行を支えることができたのではないかという後悔に苛まれた。それでも、信行が何とかしてこの困難を乗り越えてくれることを信じ、天から彼を見守り続けた。


1573年、信長の目には、織田家がついに包囲網を突破し、信行の指導の下で再び力を取り戻していく姿が映った。信長は、信行がこれまでに成し遂げたことを誇りに思いつつも、さらに大きな困難が待ち受けていることを察知していた。信行が織田家を守り抜くために必死に戦い続ける姿を見て、信長は弟が自分の志を継いでいることに感謝したが、彼の未来に対する不安は依然として消えることはなかった。


1574年、信長はついに信行が包囲網を完全に突破し、織田家を新たな段階へと導いている姿を見て、心からの安堵を覚えた。信行が松永・三好、武田、本願寺を滅ぼし、足利義昭を追放することで、室町幕府を事実上滅ぼしたことは、織田家の未来に大きな希望をもたらした。信長は弟の成し遂げた偉業に誇りを感じつつも、まだまだこれからの道のりが険しいことを感じ取っていた。


信長の魂は、天から弟の成長と織田家の未来を見守り続けていた。彼は、自分が死んだ後も信行が立派に織田家を守り抜いている姿を見て安心すると同時に、自らの死が弟に与えた影響について深く考えさせられた。信長はこれからも信行を見守り続け、織田家の未来を天から見届ける決意を新たにしていた。

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