1573年、徳川家康は信行からの要請を受け、織田家の支援に向けて兵を整えようとしていた。しかし、家康の領地である三河・遠江は、武田信玄の勢力によって脅かされていた。信玄は、甲斐・信濃を中心に大きな勢力を持ち、その軍事力は圧倒的であった。家康にとって、この脅威は織田家の救援を決断する上で大きな障害となっていた。

家康は織田家との同盟関係を大切にしていた。信長とは幾度となく共に戦い、その絆は固いものとなっていた。しかし、信長の死という報せが届いたとき、家康はその衝撃を隠すことができなかった。信長は戦国時代において稀有な存在であり、その死は戦国大名たちに大きな影響を与えた。家康も例外ではなく、織田家との同盟の行方に対して深い懸念を抱いた。

「織田家を支えるべきだ。信行殿の要請を無視するわけにはいかない…しかし、今は我が領地を守ることが先決か…」

家康は自らの心の中で葛藤していた。信行を助けるために軍を派遣することは、信長への忠誠を示す最も明確な方法であり、同時に織田家との同盟を維持するためには不可欠であった。しかし、家康は自領の状況を冷静に見極めなければならなかった。武田信玄は既に三河・遠江に対して圧力をかけており、今すぐに織田家を支援する余力がないことを理解していた。

「信玄が動けば、我が領地は危機に陥る…だが、信行殿を見捨てることは、同盟の破綻を意味する。何とか打開策を見つけねば…」

家康は織田家の未来と、自らの領地の防衛との間で板挟みになっていた。信行が新たな当主として立ち上がったことに対しては敬意を払っていたが、その一方で、織田家の現在の状況を見て、果たして支援が有効であるかどうかに疑念を抱かずにはいられなかった。織田家の勢力が弱まっている今、家康が助けることが果たして織田家の存続に繋がるのか、それとも無駄な犠牲を払うことになるのか、その答えを見つけるのは容易ではなかった。

「織田家が滅べば、次に標的となるのは我が徳川家だ。信行殿を支援することは、我が家を守るための一手でもある。しかし、そのためには、武田信玄の動きを封じる必要がある…」

家康は、武田家との対決を避けられないことを理解していた。信玄との戦いは避けられない運命であり、その戦いに勝利することで初めて織田家を支援する余裕が生まれる。家康は、領内の防備を固め、武田家の侵攻に備えるために全力を尽くすことを決意した。

しかし、家康は心の中で自問していた。信長が生きていた頃の織田家の力強さと、現在の状況を比較せずにはいられなかった。信長の死によって織田家は大きな転機を迎えており、その変化が織田家全体にどのような影響を与えるかを見極める必要があった。

「信行殿は織田家をまとめ上げる力を持っておられる。しかし、今の状況でそれを実現することは容易ではない。織田家が再び力を取り戻すためには、家臣たちの結束と、外部勢力に対する強力な対抗策が必要だ…」

家康は、信行が織田家を立て直すためには、信長が築いた家臣団の力を最大限に活用する必要があると考えていた。しかし、家康自身が織田家を支援することが、どれだけ有効であるかについては確信を持てずにいた。

「まずは、我が家の守りを固めねばならぬ。その上で、信行殿を助けるための手立てを考えよう…」

家康は、織田家を支援するための準備を進めながらも、武田家との対決に備えていた。そして、信行の要請に応じるために、家康は徳川家の軍勢を整え始めた。

戦いが激化する中で、家康は信行への支援を断念せざるを得ない状況に追い込まれていた。武田信玄の侵攻は、想像以上に激しく、徳川家はその防衛に追われていた。家康は、織田家を支援する余裕がないことを痛感し、やむを得ず信行に対して「織田家を助けることができない」との返答を送ることになった。

「信行殿、誠に申し訳ない。しかし、我が徳川家も存亡の危機に立たされている。織田家がこの試練を乗り越えることを、心から願っております…」

家康はその返答を送りながらも、織田家の行く末に対して深い不安を抱いていた。信行が織田家を立て直すことができるかどうか、その成否は不透明であり、家康自身もまた、信長の死によって大きな変化を遂げた戦国の世に直面していた。信行と家康、そして他の戦国大名たちがどのようにしてこの困難な状況を乗り越えるのか、それはまさに歴史が大きく変わる瞬間であった。