第27話 ビースト国王の暗殺
ビースト国王宮地下の研究施設で、人体改造手術を受けたアランは冷たい手術台の上に横たわっていた。
国王が手術室のドアを開けて入ってくると、研究員達は怯えながら手術室から出て行き、痩せて眼鏡をかけている研究員1人だけが残った。
「改造は上手くいったのか?」
「はい。アラン様が目を覚まされたら、捕えているドラゴン族の女を実験台にして、改造された体を試していただきます」と、手術室に1人残っていた研究員は小さな声で答えた。
しばらくするとアランは麻酔から目が覚め、側にいた研究員に「改造は成功したのか?」と睨みつけながら訊ねた。
「はい、成功いたしました。アラン様の魅了の力は以前の10倍以上になっているはずです。実験台としてドラゴン族を1人捕えておりますので、明日にでもその力をお試しください」
アランは天井を睨みつけながら「俺を馬鹿にしたあいつらを、この力で俺の操り人形にしてやる……」と呟き、目を閉じるとまた眠りについた。
* * *
ドラゴン族のブレイズは、ビースト国の国王を始末するため、部下2人と共に出発の準備をしていた。
「「ブレイズ兄ちゃん!大変だ!」」
「どうした、双子?」
「フレイム姉ちゃんが、山を下りて三日も経つのにまだ戻らないんだ。ビースト国の王都に俺たちの誕生日のプレゼント買いに行くって言って……」
「フレイムは一人で山を下りたのか?」
「うん。姿を消して移動するから大丈夫だって言って、一人で出かけて行った」
「ちょっと待っとけ」そう言うとブレイズはドラゴンの姿になり上空へ飛び立った。ビースト国が見える高さまで来ると、ブレイズは広範囲感知魔法を使いフレイムの魔力を探した。
「マジか……。王宮で捕まってるな。やつらの実験台ってとこか」フレイムの居場所を確認して元の場所まで急降下して戻ると、双子は涙を浮かべながら「ブレイズ兄ちゃん、フレイム姉ちゃんの居る場所分かった?」とブレイズのところに駆け寄ってきた。
「あぁ。ビースト国の王宮にいたわ。仕事で俺達は王宮に行くところだったから連れて帰ってくるよ。安心して待っとけ」ブレイズは双子の頭をクシャクシャッと撫でて2人に笑顔を見せた。
ブレイズは、部下に計画変更だというと、もう一人部下を追加してブレイズと部下3人でビースト国の王宮へ転移して行った。
王宮の側の森の中へ転移すると、部下の1人は捕えられているフレイムを牢の中から連れ出し、すぐにドラゴン族の双子のもとへ戻っていった。
そしてブレイズは目を瞑り、感知魔法で国王と側についている影2人の場所を確認した。
「今、国王は執務室にいる。影2人は姿を消して天井に張り付いてる。お前らも確認出来たか?」
「はい。私達は影2人を始末します」
「俺は国王を殺る。殺った後は灰にしておけ」ブレイズは部下2人に目線で合図すると、3人同時に国王のいる執務室に転移した。
「うっ!」執務室にいた影2人は、ドラゴンの髭と呼ばれる強靭な糸で首を絡めとられ、青い炎で燃え上がり一瞬で灰になった。
国王はブレイズの姿を見るとすぐに身体強化をかけたが、ブレイズがニヤリと笑うと国王の首はボトッと床に転がった。そしてブレイズが手を翳すと青い炎が国王の体を包み、床には灰だけが残った。
「行くぞ」ブレイズが言うと、3人は地下の研究施設へ転移した。
「アラン様、申し訳ありません!実験台として捕えていたドラゴン族の女が逃げました!」地下では捕えていた実験台がいなくなったと、研究員達が総出で探し回っていた。
アランは、隣の部屋の方を見ながら、「大丈夫だ。新しい実験台が来たようだ。ハハハッ!この体は感知力も倍増している」ニヤリと笑うと隣の部屋とを隔てていた壁を片手で叩き壊した。
アランはブレイズ達を見つけると最大魔力を放出して3人に魅了をかけた。「お前らは全員、俺の操り人形となれー!!!」
アランは必死の形相で3人に魅了をかけていたが、ブレイズ達は実験を検証しているかのような様子で頷き合っていた。
「なるほどな、これが魅了かぁ。ちょっと酒に酔った感じになるわけか。お前達はどうだ?」
「そですね。確かに酒に酔った感じに似てはいますが、悪酔いしそうな感じですね。もう少し検証したいので、このまま魅了を続けてもらいましょうか?」
「いや、面倒くせーから早く帰るぞ」
ブレイズは、顔や体全体に血管が浮き出て魔力切れを起こしそうになっているアランをチラッと見ると、アランの額を指さして1000度を超える炎玉を撃ち込んだ。そしてアランを振り返りもせずに研究員達に声をかけた。
「そこにいる研究員達、国王はいなくなったからお前らはもう自由だぜ。国に帰るなり好きなようにしろ」そう言うと、ブレイズ達3人は地下の研究室から姿を消した。
ブレイズ達がドラゴン族の住むクリスタルの洞窟の前に転移して戻ってくると、双子の兄弟とフレイムがブレイズ達を待っていた。
「ブレイズ!」フレイムはブレイズ達が戻ってきたのを見つけると双子達と一緒に駆け寄ってきた。
「フレイム、大丈夫か?」
「私は大丈夫。ブレイズ、そして皆さん、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい。皆が来てくれなかったら、私どうなっていたか……」
「俺達もビースト国の王宮に用事があったからついでだ。これからは1人で山を下りるようなことはするなよ。必ず俺に言え」
「えっ……、あ、ありがとう。でもブレイズはいつも忙しいから……。大丈夫、山を下りる時は誰かに付いてきてもらう。ブレイズ、心配してくれてありがとう」
フレイムと双子達はブレイズ達にお礼を言って洞窟の中に戻ろうとすると、ブレイズがフレイムの腕をパッと握った。
「フレイム、あのさ……、来月ヴァンパイア国でロアの魔王襲名の夜会があるんだ。それに俺と行ってくれないか?あっ、ドレスとか装飾品は俺が準備するから」
「えっ、私?もっと綺麗なお姉様方の方がいいんじゃないの?」
「あー、フレイム。俺はお前と夜会に行きたい。ドラゴン族は成人の儀式をしてからじゃないと番の匂いが分からないけど、俺の番はお前だと確信してる。まぁ、番とか関係なく、俺はお前が好ましいんだ。俺と夜会に行ってくれるか?」ブレイズは頬を搔きながらフレイムを優しい瞳で見つめた。
側にいた双子達はニヤリと嬉しそうな顔で「「フレイム姉ちゃん、顔真っ赤だぜ」」と言うとみんなに知らせてくる!と洞窟の中に入っていった。
フレイムは真っ赤な顔で「はい」と頷くと、ブレイズはクシャっと笑ってフレイムを抱き上げ、背中から翼を出して上空に飛び立った。そして、誰も見えない雲の上まで来ると、ブレイズはフレイムに優しくキスをした。
* * *
「ヴィクター様!国王様が、何者かに殺されました!」
ヴィクターの側近が息切れをしながら執務室に飛び込んできたが、ヴィクターはドラゴン族が近日中に国王を消しに来るとダンから連絡を受けていたため驚くことはなかった。
「そうか……。地下の研究施設に捕らえられていた研究員達はどうなってる?アランも研究施設に籠っていたようだが」
「それが……、研究員達は全員居なくなっておりました。そしてアランだったと思われる灰だけが床に残っていました」
「わかった。至急、ビースト国の全貴族に国王は急な心臓発作で亡くなったと伝えろ」
「畏まりました」側近はそう言うと執務室を急いで出て行った。
執務室で一人になったヴィクターは、ドラゴン族に呆気なく殺された国王の事よりも、誰にも気がつかれずに王宮に侵入して、瞬殺で国王や人体改造されたアランを消してしまえるドラゴン族に恐怖を覚え冷や汗を流した。
(魔国の方達には絶対に手を出してはいけない。我々とは持っている力のレベルが違いすぎる……)
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