第13話 辺境伯へ帰郷
魔王がクロエと話をして転移で魔王城に戻ると、魔王の息子ロアが執務室の前で壁に寄りかかって立っていた。
「親父、クロエはどうだった?」
魔王はニヤリと笑うと「暗黒魔法を学ぶのはやめるって言ってたぞ。あんなもん背負うのは俺たちだけで十分だからな」
ロアは、「そうか。良かった」と言というと、転移してどこかへ行ってしまった。
「はぁ〜、あいつも面倒くせーなぁ……」魔王は頭を掻きながらロアを見送った。
* * *
それからクロエは闇魔法修行に必死で取り組み、帰郷まで残りあと1か月となった。闇魔法の上級から特級まで自由に行使できるようになり、長距離の転移や時空間魔法まで使えるようになっていた。しかし読心魔法だけは教えてもらえなかった。
「師匠、どうして読心魔法は教えてくれないんですか~」とクロエは口を尖らせて師匠に突っかかっていた。
師匠のレイは、ソファーで本を読みながら、顔も上げずにクロエに答えた。
「その歳で読心魔法使えたら、不自由になるぞ~。婚約者が出来た時に、何を考えているのか知りたくなってずっと読心魔法使ってしまうようになる。そうなったら、婚約者を信用することが出来なくなるだろうし、信用も得ることがむずかしくなるだろ。相手の考えてることなんぞ、わからんぐらいでいいんじゃ」
(はっ!なるほど!確かに師匠の言う通りだわ。さすが師匠ね!)クロエは、腕組みをしながら、なるほど~と頷いていた。
ルカが側に来るとクロエの頭をくしゃくしゃとかき回し、「お前は読心魔法使わなくても、何考えてるか顔にでるからわかりやすいしな。クロエには使う必要ないな」と苦笑いしていた。
(失礼ねえ~!私だって貴族特有のポーカーフェイスぐらいできるしな!)クロエは「ふんっ!」とルカの手を払い、どすどすと歩いてキッチンへ入っていった。
レイはルカにソファーに座るように言うと念話で話し始めた。
「ルカ、来月クロエが辺境伯領に帰郷する。ここから儂と一緒に転移で辺境伯城まで行くつもりなんじゃが……。ルカ、お前の気持ちは決まったか?お前の気持ちが決まったのなら、一緒に辺境伯城に行くが……」
ルカはレイと視線を合わせると、小さく頷いた。
レイは眉を上げてニッコリと笑うと、「クロエ~、今日の夕食はなんじゃ~?」と嬉しそうにキッチンへ入っていった。
ルカは、はぁ~っと大きくため息をつくと「俺の他にだれも適任いねーだろ……」とひとり呟いた。
* * *
辺境伯領に帰郷する日の朝、森で仲良くなった妖精族やブラックウルフ族が見送りにきてくれた。そしてブラックウルフ族長の孫娘がクロエの護衛として辺境伯領に付いていくことになった。
ブラックウルフ族の族長ギルは、「孫娘のメイだ」と言って真っ黒いモフモフの固まりを指さすと、フワッと光が舞ってクロエより少し背の低いツインテールの女の子が現れた。
「クロエ様、メイと申します。クロエ様の護衛兼侍女としてお側に仕えさせていただきます」メイは、ニコリと微笑んでお辞儀をした。
「メイは、どんな影の中にも入ることが出来る。だからクロエに付いてどこへでも行けるぞ」ギルはメイの頭をポンポンと叩きながら優しい眼差しで孫娘を見ていた。
(あぁ。ギル様もメイさんと離れるの寂しいわよね。お孫さん、大事にお預かりしないとだわ)
クロエはメイに笑顔を向けると「メイさん、お友達として私と一緒に辺境伯領に行ってくれますか。私、女の子のお友達って初めてなの。よろしくね!」と挨拶した。
クロエは、メイとは同じ年頃の女の子同士(そしてお転婆同士のためか)、すぐに仲良くなれそうな気がした。
レイは、「ギル殿、ミハエル殿、また近々お会いしましょう」というと、ルカとクロエそしてメイと手を繋いで円陣を組み、一瞬にして辺境伯城の門の前に転移した。
「「クロエ!おかえり!」」ダンとロイはクロエ達が門の前に現れるとダッシュで走ってクロエをハグした。そして辺境伯城のみんなも全員で門の前で迎えてくれていた。
「兄様!お父様、お母様、皆さん、クロエただ今帰りました!」クロエは帰ってこれた喜びで、満面の笑みでみんなに大きく手を振った。
辺境伯夫妻はレイの前に来て深々と頭を下げ「クロエが大変お世話になりました」とレイとルカに感謝を述べた。
「ブラウン辺境伯殿、儂らにクロエを預けてくれてこちらこそ感謝しております。儂らが帰る前に少し話があるんじゃが、いいだろうか?」
「今日はコーナー侯爵もこちらにいらっしゃることになっております。ぜひお辺境伯城にお泊り頂いてゆっくりとお話を聞かせていただきたい」
レイは「コーナー侯爵にも話を聴いていただければありがたい」と言って笑顔で頷いた。
「ダン兄様、ロイ兄様。こちらがルカとメイです。ルカは師匠のお孫さんで、メイは魔の森の族長のお孫さんです。2人とも、私と同じ歳です」クロエは自慢げに2人を紹介した。
「えぇ!シルバーズ侯爵令息は俺より年下なのか!どう見ても、俺より年上だろ! (なんだ、その落ち着き過ぎてるオーラは!)」とダンは目を丸くして驚いた。
「えぇ!魔の森の族長の孫って、どういうこと……」とロイもブツブツ言いながら驚いていた。
ルカは苦笑いしながら、(さすがクロエの兄貴だわ)とクロエをちらりと見た。
「俺のことはルカと呼び捨てにしてください。クロエからお兄さん方の話を聞いて、ぜひ雷魔法と氷魔法を見せてもらいたいと思っていたんです。ヴァンパイア国ではほとんどの者が闇魔法しか持っていないんで……」とルカが話終わる前に、ダンとロイは「よし!訓練場に行こうぜ!」とルカを連れて行こうとしたが、兄弟2人の暴走を視覚の端にとらえた辺境伯夫人のレーナは、「ダン!ロイ!まずはシルバーズ前侯爵にご挨拶でしょ!」と2人をずるずると引きずっていった。
師匠とルカ、そして辺境伯夫妻は、話があるといって先に城の中へ入ると、クロエはメイの手を取り「城内を案内するわ」と言って、手を繋ぎながら城内を散策した。
辺境伯夫妻は、レイとルカを応接室に案内してお茶の準備が整うと、メイド達を下がらせ防音の結界を張った。
「クロエが帰ってきたばかりなのにすまんの。詳しくはコーナー侯爵がいらっしゃってから話をするつもりじゃが、実はクロエの婚約者の件じゃ。クロエの出自は以前お会いした時に話したが、実はクロエを狙っている敵がヒューマン国の王妃に接触したらしいんじゃ。クロエをヒューマン国の王太子妃にするよう取引したらしい。シルバーズ侯爵家の暗部からの情報じゃ」
辺境伯夫人は「何のために……?」とレイの顔を見つめた。
レイは眉を寄せると「戦争させるつもりじゃろ……」といってお茶を一口飲んだ。
「敵は、クロエの暗黒魔法を狙っておった。しかし奴らの目的は魔国への復讐じゃ。クロエをヒューマン国の王妃にして魔国と戦争させれば、自分らが手を下さなくても魔王家の血族同士の争いになる。どちらが潰れても魔王家は痛い目をみる。それを狙っているんじゃろう」レイは苦虫を嚙み潰したような表情で大きくため息をついた。
「魔国への復讐……?」レーナは、どういうこと?とレイを見つめた。
「長い話になるから、コーナー侯爵がいらっしゃってから詳しく説明させてもらうつもりじゃ。そこでじゃな、ヒューマン国の王家からクロエを王太子の婚約者にすると王命が出る前に、クロエに婚約者を作っておいた方が良いと思ったんじゃ。以前から考えていたことなんじゃが、儂の孫のルカをクロエの婚約者にどうかと、辺境伯に打診したいと思っておる。そのために今回の修行にもルカを同行させておった。ルカからは了承を得た。あとはクロエと辺境伯夫妻のご返事をいただきたい」
辺境伯のジョンはあごに手をあて考えていたが、決心したような顔をレイに向けた。
「こちらこそ、ぜひお願いしたい。クロエの気持ちが最優先だが、これからのクロエの将来のことを考えると状況を良く知っているルカ君に婚約者になっていただくのがいいと私も思います。ルカ君は、それでいいのかい?」
「はい。3年間クロエを見てきました。正直、まだ恋愛という気持ちはお互いにありませんが、信頼関係は出来ていると思います」ルカは辺境伯の目て頷いた。
辺境伯はうんうんと頷き、「ルカ君、クロエをよろしく頼む」と笑顔でルカに言って頭を下げた。
レイは、良かった良かったとルカの膝をたたいて喜び、レーナもクロエの婚約者が整った喜びで嬉し泣きしていた。
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